第38話 大所帯の振り分けである! 

「……ほんまびっくりやわ」

「ええ、びっくりしました……」

「あははー、私はちょっとお邪魔かなー……ってバレッタちゃんしっかりして!」


 面接を終えたその日の夜に戻ってきたイーナたちとアリアドルの旅団員アリシャ。

 彼女らに絵娘やアーニーを紹介した。

 異世界道具屋レーベルには、現在我を加えれば七名、いや更にアーニーに憑りついたレイスやイーナの獣魔ムイを加えれば九名もおることになる。

 当然ながらバレッタは、アーニーのそばに張り付くレイスを見てひっくり返るを発動しておる。


「いつものことやしうちが預かるわ。アリシャちゃんほんまありがとうね」

「いえいえ。うちの団員用の服も買いに行かないといけなかったし。久々に女子同士だけで楽しかったなぁ。それじゃ私は戻りますね。ドーグさんお邪魔しましたー」

「うむ、アギトたちにも少々世話になったのでよろしくな」

「え? そうなんですか? 私がいない間に何があったんだろう……」

「それは本人に聞くがよい」


 首を傾げながら店を後にするアリシャ。

 ふうむなんならあ奴も店員にしてしまいところであるが……。


「ほんでベリやん。その子となんでおんねん。それになんで布にくるまってるん?」

「別に俺は……もう帰りたいんだ」

「改めて紹介しよう。異世界道具屋レーベルの店員となったアーニーである」

「ええっ!? うちで働いてくれるんですか? この子……可愛い!」

「か、かわいいとかいうな! 俺は格好いい方が好きなんだ!」

「なんや子供っぽいけど確かに可愛らしいな? この付け耳とか……ってなんや本物の耳!? 布も取ったらもっと可愛……あっ!」

「ばっ! 取るなよぉ!」


 布を剥いだらルルがものすごい目で我をにらんでおる。

 違うぞルルよ! 我が破いたわけでは……いや、我が破いたな。


「うむ。我が破いたかもしれん」

「はぁ……なんやわけありか知らんけどこの格好は無いわ。ちょっとうち、アリシャちゃんからメルミルちゃん用の服一着もろてくるわ。よかったー、メルミルちゃんに似合いそうな服、うちが一個買うておいて」

「う、うむ。さすがはルルである。ぐわーっはっはっはっは!」

「笑っとる場合ちゃうからな! 後で説教やでベリやん」


 駆け足で出ていくルル。

 いや違うのだ。これには深いわけがあってだな。

 ううむ聞く耳持たぬとはこのことである。


「お名前はアーニーちゃんっていうの? へぇ……なんていう種族なんだろう? この世界にこんな可愛い種族いたかなぁ」

「アーニーは異世界者でな。だからこそちょうど良いと思ったのだ。名前はアール……ポニーテールである!」

「誰だよそれ! アール・ヴェニーテだ!」

「ふうん。ニーテちゃんか。可愛い名前。略してアーニーって呼んでたんだね」

「……別に可愛くねーし」

「ところでドーグさん? このお化けみたいなのはどうしたんですか。これじゃ毎回バレッタさんがひっくり返っちゃいますよ?」

「ううむ、実はだな……」


 と話そうとしたら道具屋の扉が大きな音を立てて開いた。

 もう戻って来たのか……さすがは手早いルルである。


「ちょっと待ちぃーー! ……ぜぇ、ぜぇ。走って戻ってきたわ。ほら着替えやで。うちやってその子のこと聞きたいんやからな!」

「……着替えて来る」


 アーニーが着替えに向かう間にこれまでの経緯を説明すると、二人とも頭を抱えてしまった。

 成り行きで色々あったとはいえ仕方のないことである。

 我は悪くないのだ! 


「一気に三店舗ですか。これは準備だけでも人手が足りませんね」

「しかも採用が一度に五人? マークはんも無茶する人やな。うち覚えられるか分からん。バレッタちゃんちょっと起きて!」

「各階層ごとに誰が担当するかを振り分けねばならぬであろうな」

「地下二階層へはお店、出したかったんですよね。足装備と格闘武器、それから寝具や装飾品などのお店があるんですけど、私、お布団とか売りたくて」

「格闘武器に足装備であるか。足装備はつまり、靴であるな。我はあまり靴を作るのが得意ではない」

「靴なんて作れるん!? それだけでもびっくりなんやけど」

「靴などは個々に合わせて細かく調節する必要がある。そうでなければ良い靴は得られぬであろう?」

「うちの世界は同じ靴が少し変えたサイズでいっぱいよ? 合う靴探すのは大変やったけど。個別に作ってたら高くなるやん? 知らんけど」

「その通り。高くつき過ぎるのだ。もし靴を製作して売るのであれば、この我でもいっ足でいち日は掛かるかもしれん」

「では靴の販売は見送りましょう。格闘武器なんかはどうですか? 結構需要じゅようがあるみたいなんですけど」

「それならば簡易的なもので直ぐに用意可能である」

「なんや地下二階は上手くいきそうやな。地下一階はええとして、問題は三階やろ? なんで格闘武器だけ分かれて地下二階で売られとるんやろ。そういうもんやの?」

「格闘武器というのは本来そのあたりに置いてあっても危険度は低い。しかしそれ以外の武具はそうではない。倒れれば人を斬り、あるいは突き刺してしまう危険性がある。そのため別に分けたのであろうな」

「ふーん。うちは尖ったものとか怖いから、地下三階はいややわ。でもベリやんと離れちゃうのもちょっとなぁ……」

「ルルよ、お主は我の助手でもある。道具製作のおりは手伝い、そして新たな発想も頼みたいのだ」

「そうやったね。ふふ、なんやベリやん分かっとるやないの。したらうちは地下一階でイーナちゃんと一緒に道具を……」

「いえ。私は地下二階担当の方がいいかもしれません。地下一階をバレッタさんとルルちゃんにお願いした方がいいかなと」

「なんでなん? うちと一緒はいや?」

「いえいえ違いますよ。地下一階はドーグさんの商品や、ルルちゃんの接客で人気が出ています。でも、地下二階と三階はそうはいきません。特に地下二階は安定してお客を獲得しているお店が多いので、私が頑張らないとなと思いまして」

「はぁ、本当イーナちゃん真面目やね。よっしゃ分かったで。そしたらベリやんが地下二階に……」

「いや、我は地下三階であろう。武器を扱うには説明を求められるであろう? アーニーと我が適任である」

「ええー、それやったら地下二階、イーナちゃん一人になってまうやん……それじゃ寂しいやろ」

「いや、地下二階には新しく入る者を多く入れる予定である。イーナにはムイもおるしな。新人の振り分けはこうである。


 紙にさらさらと書く。

 我ながら実によい配分ではないか。


 地下一階、道具屋本店担当者。

 ルル、バレッタ、サレニア(バレッタの知人で新人)、警備にリザードマン、アビネア、宣伝用に絵娘。

 地下二階、布団屋兼格闘武器屋。

 イーナ、ナレッジ(新人でモール側派遣員)、ラールフット族、ルピ……ルピなんちゃら、声が良く通るハイエルフ族、ジュピターは地下二階が暇な場合は地下一階の手伝いに回る。

 地下三階、我、そしてアーニー。


「うむ、この振り分けでよいだろう」

「ルピなんちゃらって誰? それに地下三階、二人しかおらんけどええの?」

「構うまい。武具とはそう容易く作れるものではない。しかし一つ売れればかなりの金額となる。それに地下三階は直ぐに店を開けまい。まずは地下一階、そして新装開店する二階層の客を固定でつけさせるのだ。我はあまり武具を作りたくないのでな。しばらくはただの鉄剣などを置いておくつもりである」

「ベリやん作ったらすごいの出来そうやけどなぁ。町の付近も物物騒やん? うちら、町に向かったとき嵐にあったんやけどな。そんとき嵐の中、歌を歌いながら剣を振り回す頭のおかしいのおったんよ。ほんま怖かったわ……ああいうのにベリやんの武器が渡ったら危ないやろうしな」

「ふむ、その通りである。武器も道具も使い手に左右されるものである。こちらの報告は以上である」


 ちょうどアーニーが着替え終わったようで、こちらへ戻って来た。

 レイスがずっとそばにおるのだが、さすがに慣れてきたようだ。


「……おい」

「やだ、めっちゃ可愛い写メ撮りたいー! ベリやんカメラ作ってぇー!」

「わぁ。足キレイだなぁ。私もあんな風に足が出せたらいいのに」

「尻尾まであるで! 感動やわー! 触ってもええ? なぁ? ちょっとだけやから。先っちょだけでええねん!」

「ち、近寄るなぁ!」

 

 ふむ。尻尾は丸めて衣類の中に入れておったのか。

 随分と丈が短いスカート状の装備であるな。

 色も赤色にピンクがかりへ変わりおった。

 黒色のフードつきから一変させられたようである。

 これならどう見ても女子であると分かろう。

 うむ、しかしアーニーはそう簡単に人には懐かぬようであるな……我のマントへ隠れおったわ。

 

「ベリやんその子独り占めずるいわぁ! うちにも触らせてー!」


 ……ううむ、我は早く道具を作りたいのだが。

 しばらくは道具製作に時間をおくとしよう。

 そうだ、マーク殿に頼まねばならぬことがあったな。

 まずはバレッタを通して頼んでみるか。

 新しい道具の開発に装備品の用意。

 これは忙しくなるのである。

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