第37話 なぜか面接なるものを行っているのである

 以前マーク殿と話した部屋に案内されると、我は一番偉そうな椅子へと座らされた。

 一通り段取りなどの説明を受けたが、一つ困ったことがある。

 正当なレギオンの価値が我には分からぬのだ。

 だが、もう時間は無いようだ。うまくごまかすとしよう。


「では初めに。リザードマン女性のアビネアさん。どうぞ」

「失礼する」


 ……いきなりリザードマンである。

 女性と言われても男性との違いがごつさ程度しか分からぬ。

 背中にでかい斧を背負っておるが、戦いに来たのか? 

 しかしこれは……ふむ。


「あたいは店の警備員ならやってもいいって言ったんだけどねえ。本来なら故郷に戻り武芸を極めたり、冒険者ギルドに登録してダンジョンへ回りたいんだけど」

「いやいやアビネアさん。どちらを選択するにしてもまずお金が必要でしょう? 文無しじゃ故郷にだって帰れませんよ」

「まぁそうなんだけどさ。あんた、お金貸してくれない? そしたら仕事は請け負う……」

「うむ、採用である!」

『えっ!?』


 うむうむ。つまり仕事はきっちりこなしてある程度蓄えが出来たら故郷に戻るのであろう。こういう者は歓迎である。


「いいのかい? まだあたいは何も話してないよ? 腕っぷしだってあるかどうかも分からないだろう?」

「いいや、その背中に背負っておる斧を見れば分かる。手入れが行き届き大切にしておる証拠である。マーク殿。彼女は地下三階に閉じ込められていた者とは違うのか? 売り物は全て消えたと言っておったようだが」

「いえ、彼女は地下三階層で武器屋の警備員をしていたものですよ。身に着けていたものは消えたりしないようです。そこ、消えちゃったら全員素っ裸ですから大惨事ですよ」

「そうであったか。アビネアとやら。我は道具を大切にするものは好きである。そしてリザードマンの身体能力も理解しておるつもりだ。あまり多くは出してやれぬであろうがそれでも構わぬか?」

「細かいお金の計算は苦手でね。まぁそれなりにもらえれば十分働いてみせるさ」

「ではアビネアさんは採用ということで……後ほど書類をお渡ししますので、こちらの番号をお持ちになり、外でお待ち下さい。では次の方。ハイエルフ族、ジュピターさんどうぞ。この方も女性です」

「うちの店は女性店員ばかりであるからな。男性店員も欲しいところであるが……」


 ふむ、入って来たのは白銀のハイエルフか。

 こやつは……完全に凍り付いた目つきであるな。


「あなた魔族ね。しかも濃い血統種。有能だとは聞いているけれど、私はここに義理を通しに来ただ……」

「うむ、採用である!」

『えーっ!?』

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。まだ何も……」

容姿端麗ようしたんれいにしてでなかなかの魔力量である。それにその声。実によく通る声ではないか。背も高いのでルルやイーナが客で埋もれて大混雑しても見失うことのない目印となろう。ふむ、お主なら出来によってはそれなりのカネを払えるのではないか。上手くやるのだぞ」

「ま、待ちなさいよ。私は……」

「ではジュピターさんも採用ということで。いやーさすがドーグさんはよく見ていますね。彼女は一押しだったんですよ。それじゃこの番号を持ちになり、外でお待ち下さいね。はい次の方」

「わ、私は……」

「後がつかえてますからお早めに外へ。それでは次、オーガ族のローロロさんどうぞ」

「おい邪魔だどけ、ハイエルフ風情が!」

「……くっ」

「うむ、不採用である」

「なんだと! まだ入って来ただけだろう!」

「暴言が過ぎる。気性が荒すぎる。そして横幅もあり過ぎる。それでは店の客が入れるスペースが減るではないか。小さくなれるか?」

「おいお前。それはオーガ族を侮辱するということか?」

「いや、我は個人的にオーガ族は好きであるぞ。ただしそのように他種族を邪魔などと言ったりしないオーガに限るが」


 さすがに採用が決まったハイエルフに暴言を吐く輩はいれられまい。

 ううむしかし、このオーガは興奮しすぎであるな。


「せめて話くらいは聞け! さもなくば……」

「ほう。どうすると言うのだ」

「ちょ、ちょっとここで揉め事はダメですって!」

「うむ、安心するがよいマーク殿。少しだけ席を離れるぞ」


 ふむ、我の倍はありそうな腕に足。鍛え抜かれた筋力になかなかの魔力。

 腕に自信アリといったところであるな。

 先ほどのリザードマン、アビネアより強いであろう。

 しかしな……「やはりお主は不採用である」

「おい、俺のことは何も話してねえだろうが!」

「お主は武器がボロボロである。この武器は泣いておるな。我は道具屋を営むものである。最低限身に着けておるものくらい気を配らぬか」

「たったそれだけのことか? この武器はまだ使える。使えなくなったら新しいのを買えばいいだろうが」

「愚か者め!」


 ……む。ついつい魔力を放出してしまった。

 持っていたミーミルの杖まで反応し、周囲が凍り付いてしまった。

 しかしこの杖は良いな。

 我の魔力反応がスムーズに伝わるようである。


「な……どうやって氷魔法を。無詠唱魔術の使い手か。しかも一瞬で部屋全体の温度をここまで下げやがるとは……一体何者だお前!」

「ささ、寒いですドーグさん!」

「いやすまんマーク殿。ローロロとやら。我と貴様の魔力差は分かったか」

「……別にこの武器で首をはねちまえば魔力差なんて関係無ぇ!」


 やれやれ。オーガ族は一度火が付くと後には引けぬ種族であるな。

 これは世界共通のようである。

 仕方ない。この杖を再度こう……よし、調整出来たぞ。


「なら……今一度その武器を見てみるがよい」

「ああ!? なっ……」


 この杖は実に繊細な魔力調整が可能である。

 一体どの世界のどのような者が造ったのか興味があるが……しかしこやつ、凍らされた武器にすら気付かぬとは未熟者よ。

 

「砕けろ」


 我が指を弾くと我の魔力に呼応し、武器は粉々に砕け散った。

 

「貴様がしっかり手入れをし、武器に魔力防御を込めておれば守れたであろうな」

「てめえ! ……くっ」


 その後の行動も予測済みである。腕力にものを言わせ我を殴ろうとする前に両腕を凍らせてやった。


「客としてなら歓迎しよう、ローロロよ。しかし店員としては不十分であるし、お主では我が店を守れまい」

「ではローロロさんはお帰りを。次の方!」

「おっとその前に……氷結は解除してやろう」

「くそっ!」


 ふんぞり返りながら出ていきおった。

 まぁ雇ってやってもよいのではあるのだがな。

 少し頭を冷やさせた方がよい。


「次はラールフット族、ルピチッタさんどうぞー」

「あいよーって寒っ。何だよこの部屋。おいら寒がりなのに」


 ふむ、これは珍しい種族である。

 一見子供のように見えなくもないがそれなりの年齢であろう。

 確かこやつは……「んじゃおいらからまず質問させてもらうよ。こちらのお店、売り上げや支払われる給金は? 休みとかある? それなりに長く働きたいんだけど」

「うむ、そうであるな……よし採用である!」

「はい? おいらの質問にその答え、合ってないよ!?」

「支払う給金は売り上げ次第である。休みは無論あるぞ。仕入れ中は少しだけ手伝ってもらうが、まとまった休み期間となるであろう」

「へぇ。つまり売り上げをおいらが伸ばせばその分給金も増えるってことでいいかい?」

「うむ、間違いなくその通りである」

「よっしゃーー! んじゃおいらの働き、期待しててくれよな。へへっ」

「ではルピチッタさんも採用……初の男性採用ですね。次はショッピングモール側の者二名を同時に面接して下さい。採用はどちらか一方でお願いしますね」


 ふむ。つまりマーク殿お墨付きの者であるな。

 合図と共に入って来たのは目に透明な淵の付いた装飾品を身に着けた、でこを丸っと見えるようにして髪を後ろでまとめた男。

 白い手袋に黒い衣装である。

 もう一名は女性である。こちらは片足がまるごと見えており、もう片方は長い布でおおわれた赤い衣装で、頭に二つの突起物が生えたかのようなものをつけておる。

 変わった衣装であるが……ふむ。


「黒い服の男性がナレッジ、赤色の服がサレニアです。ナレッジから話をどうぞ」

「初めまして……いえ、まずはお礼を申し上げねばなりません。地下二階層を踏破して下さり有難うございました。わたくしはナレッジと申します。主に帳簿ちょうぼ管理……経費計算などが得意です。接客という立ち位置より裏方に回る方がよい仕事が出来るかと存じます」


 この男、実に雄弁ゆうべんである。

 マーク殿が勧めるのも納得であるが、己の分析能力、身だしなみや仕草共に優れていることを表現するのが巧みである。

 そして直ぐ、一歩前に出たサレニアが話始める。


「初めまして。ワタシ、サレニアよ。おもてなししたいけどあんまり上手くいかないかも。でもいっしょけんめいやるよー。お願いしますよー。バレッタちゃんと遊びたいよー」


 最後に本音が漏れているが、実に素晴らしい笑顔を持っておるな。

 これはルルやイーナとも相性がよさそうである。

 うむ、困ったぞ。よし、なれば……。


「どちらも採用である!」

「ちょっと! ダメですって! 両方持っていかれたらうちの方が人出が足りなくなりますから!」

「うむ、なればあのローロロをくれてやろうではないか。ぐわーっはっはっはっはっは!」

「どうみても書類仕事が出来る人じゃなかったでしょう。はぁ……」

「本当にどちらも採用でよろしいのですか?」

「マーク殿。我は双方ともにおればこのダンジョンモールにとって非常に好ましい結果になると判断したのだ。いかがであろうか?」

「……分かりました、分かりましたよ。これで五名ですから、まだ面接残っている人からこちらの採用を考えようと思います。それでいいですね?」

「うむ、そうであるな。五名もおれば十分であろう」

「では後日、正式な書類をまとめてお渡ししますので、イーナさんと大切に保管してください。本日採用された方は……リザードマンのアビネアさん。ハイエルフのジュピターさん。ラールフット族のルピチッタさん。そしてナレッジとサレニア。五人も増えると覚えるのは大変でしょうが……」

「なに、そういったことは我の役目ではあるまい。バレッタが適任であろう」

「確かにバレッタち……さんはそういったことが得意です。出来れば彼女には戻って来て欲しいんですが、今そんなこと言うと辞表届けだされそうなんで。とほほ……」

「時が来ればバレッタも自分の意思で戻ると言うかもしれぬ。それでは新生、異世界道具屋レーベルの開店準備に勤しまねばな!」


 ……うむ。きっと我がカネの価値が分からず適当に決めたなどとはマーク殿にばれてはいまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る