第36話 加工困難な金属共も我に掛かれば手軽いものよ

 指を組み少々真剣な顔立ちとなるマーク殿。

 うむ、よく分からないのである。尋ねてみるか。


「マーク殿。面接とはどのようなことをすればよいのだ? それとどのような者たちなのだ?」

「そうですね……主には会話でお店に合うかどうかを判断してもらいたいのです。我々の人材だけならばよいのですが、実はすでに店舗を持っている方も面接をしてやって欲しいのです。地下三階層で働いていた多くの者は、これまでのような商売が出来ないためこの場所を去ってしまう人が大勢出るはずです。。彼らの記憶はダンジョンとショッピングモールが一体化した日から変わっていない。そして直ぐ近くに恐ろしいダンジョンがあることを知れば……」

「うむ、恐怖してしまうか。また自分が同じ目にあうかもしれないと」

「はい。随分と年月が経過しています。自分たちが年も取らずに時間だけ過ぎ去っていれば、恐ろしく感じるでしょうし、家族との再会もあります。そしてもう一つ。売っていた商品は全て無くなっています」


 むう。それは可哀そうである。

 商いをする者にとって商品は命。

 我でも大きなショックを受けるというに。


「こちらとしては保証出来ないようなものですからね。それまでの店舗費用などを請求することはありませんが……続けられないのが大きな理由です。ちなみに地下一階から五階まで同一店舗で貸していたお店がいくつかあります。エルフスマイ魔法店、ドワルガンズ名工商店、レジンの快鉄屋など多くの店は既に撤退しております。そのため働いていた者は解放と同時に解雇通達を受けることに……」


 うむ、魔王がさればその配下共も露頭に迷ってしまうのと同じであるな。

 我の配下にも申し訳ないことをしたな……まぁ一名しかおらなかったのだが。

 しかも勇者が来たときは買い物に出かけておった。

 

「そんなわけで……早速明日より面接をお願いしたいんです。バレッタちゃんたちにはこちらから連絡を入れておきますから。あ、ちゃん付けだと怒られるんだった」

「うむ、まぁよかろう。我はアーニーともう一名を異世界道具屋レーベルで働かせるつもりであるが、そちらは構わぬな?」

「ええ。人事裁量はお任せしますが……アーニー?」

「アール・ヴェ……ブ? ブニータのことである!」

「ああ、彼女の呼称ですか。しかしよく彼女が納得しましたね」

「いや話をするのはこれからである。まぁ問題なかろう」

「彼女も異世界からの転移者です。こちら側の話は一切聞かず、近づくなと伝えられ監視はしていたんです。そちらも解いておきましょう」

「ほう、そうだったのか」

「まぁ監視といっても日々遠くで見守る程度のものです。何せ女性ですからね。言動は少し男性っぽいですが。そちらの人材も空きになるので面接候補に加えておきます」


 ふうむ、何やら面倒ごとが増えたような……しかしマーク殿には毎回食事を振る舞ってもらっておる。

 無下には出来まい。


「では本日はここまでにしておきましょう。明日の朝中央塔一階へお越し頂けますか? 本当はもっと、ドーグさんとお話をしたいところなんですがお忙しいでしょう?」

「うむ。やらねばならぬことが溜まっておるのでな」

「家の前まで一緒に行きましょう。ついでに彼女たちに食事を買っていかねば怒られるでしょう?」

「そうであった。何から何まですまぬな」


 その後地下一階層で適当な食事を購入。

 それを持ち部屋の前でマーク殿と別れた。

 部屋に入ると……「お前のせいだろ! お前が無理やり引っ張ったから破れたんだ!」

「何を言ってるんですわ! あなたが無理やり引っ張ったんですわのに!」

「……一体何の騒ぎであるか」

『あっ……』


 むう。我のベッドとかけてやった布が滅多破りである。

 そしてやれやれ、後ろ向き再びであるな。


「アーニーよ。我のマントを貸してやる。そっちの布は絵娘に渡してやるのだ」

「俺が破ったんじゃないぞ。こいつが……」

「どうでもよいことである。布きれなど使えればよいのだ。それよりもまずいことはなんだか分かるか?」

「……」

「我が後ろ向きで作業出来ないことである! 貴様ら服が到着するまでは大人しくしていろ!」

『はい……』

「破ったことに詫びる必要や反省することはない。その程度のものしか用意出来ぬ我の不甲斐無さよ。む、そうだ。素材をしまった倉庫の鍵があるのだったな……ちょっと待っておれ」


 再び外に出て倉庫がある場所に向かうと、中には指定しておった通り大量の素材があった。

 これだけあれば色々な道具が作れそうだ。

 細かく確認するのは別の日としてだ……これらは全て別の町による仕入れであるな。

 うむ、粘性に富む鉱物を用い、奴らに鎧を着せてやればよいのだ。

 まぁ我の技術力を見せてやる機会にもなろう。

 すぐさま部屋に戻り作業開始である。


「あれ、もう戻ってきた。なぁ、俺部屋に戻りたいんだけどさ……このマント借りて言いか?」

「ダメである。外に出るとそのレイスを外に出すことになる。それは少々危険やもしれぬからな。アーニーよ、お主は今日より我の下で働くのだ」

「はぁ? なんで……何してるんだ?」

「これから薄型の鎧を作る。お前たちがいつまでも裸や破れた服でいるのはまずい。ルルたちが戻るのもいつかは分からぬ。我は明日面接とやらをせねばならん。今日中に作るから待っておれ」

「……なんでまた、俺なんかのために」

「あらあら。殿方からの贈り物ですわ? 受け取ってやらなくもないですわ」

「なんでお前は偉そうなんだよ。……聞いてもいいか」

「なんであるか。鉱物を溶かし形成する作業は危険である」

「俺……本当にここで働いていいのか」

「無論である。絵娘よ! 貴様もであるぞ。正体が分からぬ変な奴であるがきりきりと働くのだ。貴様の役目は我の魔道具の絵となり宣伝して回ることであるぞ。大いに喜ぶがいい!」

「たまに戻ってもいいのですわ?」

「お前絵から人の姿に戻ると裸だろ! ダメに決まってるじゃないか!」

「何言ってるんですわ! 裸を見られたからどうだというのですわ!」

「ダメに決まってるだろ! こいつ一体頭の中どうなってるんだよ」

「むう。やはり騒がしいのである……」

「大体お前なー……」


 ふう。まずは鉱物を火で溶かし流体に変える。

 いわゆる典型金属はどの世界も同一であるな。

 ただ、産出量は同一ではあるまい。

 加工された金属、非加工の金属をいくつか用意した。

 何に使うのかと聞かれた金属類……金属に入っておらなんだが、それらも持ってきた。

 今回は実験であるからわずかではある。

 しかし捨て値だったのだ。

 用意したのはマグネ、それにアルミと呼ばれる金属類である。

 元素を司る金属類は加工が難しく、この世界においてはドワーフ共も加工出来ておらぬようだな。

 しかし我にかかれば容易である。

 これらは非常に軽い上強度が化け物のように固い。

 そして一度手慣れてしまえば量産も可能である。

 ふっふっふ……これらをアレして、我の鎧第一弾を完成させるぞ! 


 ――む、気付いたら朝である。

 アーニーと絵娘は結局喧嘩しながら食事を済ませ、再び寝ておったようだ。

 なんとなーくちらりと見えてしまっただけの体形判断であるからサイズが合うかは分からぬが、置いておくとしよう。

 さて、面接であったな。

 場所は中央塔一階に集まっているとのことであった。

 どれ、行ってみるか。


 中央塔へは直ぐである。しかし今朝はやけに人が多い。

 念のため部屋の鍵をかけて外に出ると、直ぐに中央塔へ向かう。

 我ながらよい仕事をした翌日は気分がいいのである。

 なかなかに上手く加工出来たが設備が足りぬ。

 あれでは付加効果が上手くつけれぬな。

 もっと広い部屋と設備を要求してみるか。

 しかし絵娘の装備は思った以上にでかく作ったが、大丈夫であろうか。

 などと考え中央塔に入ると、そこは人だかりが出来ており、中心にマーク殿がおった。


「お早うございます、ドーグさん。昨夜はちゃんと眠れましたか?」

「いや、ベッドが破壊された上、そもそも一つしかないのでな。我は作業に没頭しておった」

「徹夜明けですか!? あまり無理をなさらぬように」

「何心配ない。我のこの鎧は状態異常を大幅軽減する。これを身に着けている間、さして疲労は感じぬのだ」

「そんな便利な装備があるんですか!? 一つ自分も欲しいところです。さて、ご紹介を。こちらが異世界道具屋レーベルで、珍しい道具の開発者。ベリドーグさんです。皆さんは一人ずつ面接を受けてもらいます。採用人数は未定ですが、あまり多くないと思って下さい」

「あの、質問が」

「はいどうぞ」

「そちらのお店、売り上げや待遇などは?」

「そのあたりも面接でお尋ねして欲しいところですが、前回お店が開店した日は即日完売。売上は五万レギオンを越えました」


 うむうむ。実にざわついておる。

 そして次回はそれをはるかに超える金額となろう。


「ではドーグさん。こちらへ」


 ……いよいよ面接の開始である。

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