第35話 店舗増設であるか
「う、ううん……」
「起きたかアーニーよ」
「あれ。確か箱を……ここ、どこ!」
「我の部屋である」
む、ベッドから飛び跳ねて布をはぎ取ろうとして失敗し、微妙にはだけて落下して逃げるように我の扉前に行ってしまったな。
何がしたいのか分からぬが、そのように慌てなくてもよかろうに。
「な、なにか変なことしたんじゃないだろうな!」
「うむ、お主の隣から離れぬか……こやつはどうしたものか」
「えっ? うわぁなんだこいつ! 離れろ! 離れろ!」
「……」
「うるさいですわ! 一体なんなのですわ! 気持ちよく眠っているのですわ!」
「うわーーー!」
「ええいやかましいぞアーニーよ!」
今度は空に浮かぶ絵娘を見て仰天したのである。
どうやらこやつのことはよく分からず、ルルたちは動かなくなっていたこやつを置いていったのであろうな。
こやつの衣類を買いに行くのも目的にあるのだろう。
「はぁ、はぁ……次から次へと一体なんだよ。俺が寝てる間に一体なにがあったんだよ」
「うむ。階層を踏破した。アーニーよ。お主の報酬がその服にくくりつけた道具なのだが我には使い方が分からぬ」
「報酬? なんの? ……これ、銃だ。でも見たことが無い形だ」
「それはアーニーなら使えるのか?」
「分からないけど、弾は入ってない。どう使うんだろう」
「ふむ。魔力を込めて見たらどうだ?」
「危ないかもしれないだろ。それにここ、お前の部屋だし……」
「構わぬ。カネは払っておるのだからな。ぐわーっはっはっはっはっは!」
「でも布にくるまったままじゃやり辛い……あっ」
大事なところが破けておるからせっかく布で巻いてやったというに。
なぜ外してしまうのか。
「こっち見るなぁー!」
「分かった分かった。全く。おい絵娘よ。お主もまさか裸ではあるまいな」
「裸ですわ。だって窮屈なんですわ? 服を買って来るから大人しくしててと言われたのですわのに。全然戻って来ないですわ。はぁ、もう姿を変えますわ」
「わわわわー! 変態女! ちょっと待て!」
「やれやれである。我は道具の製作に入る。お主らは仲良く遊んでおるのだぞ」
「おるのだぞって。この青色半透明の化け物、どうするんだよ!」
「試しにその銃でも撃ってみるがよい。案外消滅するかもしれんぞ」
「だからこっち見るなー!」
さて、やかましいアーニーは放っておいてまずは魔道の小瓶から作らねばな。
あの銃というものはそうそう使えるものではないであろう。
しばらくすれば疲れてまたアーニーたちは休むであろう。
「お前、せめてこの布にくるまってろ」
「白い布ですわ。これなら窮屈ではありませんわ! あらあなた、なかなかの毛並みですわね。肌もキレイですわ」
「触るなぁー!」
ううむ、道具製作とは本来静かにすべきなのだが。
これは少々うるさい者を受け入れてしまったやもしれぬ。
アギトよ、この対価は高くつくぞ。
――それから魔道の小瓶を作る材料が無くなるまで製作。
いつしか二人は寄り添うように寝てしまったようだ。
あのレイスは今のところ無害であるな。
いっそこやつを看板のようにでも作り変えてやろうか。
「むう、直立不動でつったっておるだけだな。それにしても、なかなかによい光景ではないか、アーニーよ」
絵娘と獣娘。
二人とも布に包まれてぐっすりである。
「ふむ。二つで一つの役割を担う道具もありか」
「失礼します。ドーグさんいますかー?」
マーク殿の声であるな。娘たちをベッドに移動させておこう。
「おるぞ。入って構わぬ」
「よかった。あれ? 彼女はアールさんですか?」
「む、アギトから聞いておらなんだか?」
「彼からは階層踏破の件とナイトメアについてを話しただけです。多忙だったので簡潔にと伝えたのがよくなかったのかな」
「いや、アギトやヤザクも疲れておるだろう。こちらで説明しよう」
「いえ、アールさんのことは結構。もう一人は……いえそちらも今は止めておきましょう。部屋に鍵を掛けて食事でも行きませんか?」
「そういえば少々小腹が空いたな。しかし我はカネが……」
「はっはっは。当然おごりますよ。彼女たちも空腹でしょうからついでにお土産も買っていきましょう」
「いやすまぬな。いつか我がカネを払い……」
「いえいえ。この程度で返せる恩じゃありません。何せ地下二階層を踏破したのですから。現在三階層にて行方不明となった者の調査を行っています」
「ふむ……そういえばそのような仕組みであったな。実はそのことでマーク殿に頼みがあるのだ」
「頼みですか?」
「地下二階層を踏破したのは我ではなく、アギトとヤザクにしてほしいのだ」
「それはアギトさんからくれぐれも階層踏破したのはドーグさんだと念押しされていまして……」
「ならぬぞマーク殿。どこの魔王の骨とも分からぬ奴が階層踏破したとなれば騒ぎになるであろう? それはダンジョンモールとしても望むところではない。違うか?」
「仰る通りですが……」
「うむ。我はな……少々忙しくなるのである。これからはルルに面白い考えをもらい商品を作る。そしてイーナにはルル発案の食事を作り、バレッタにはその補助。そしてそこに寝ておる者たちにも手伝ってもらうのだ」
「新しい商品の開発ですか。それは邪魔してはいけませんね。分かりました、交渉しておきましょう。それとついでになんですがね……いえ、これは食事中にでもお話しましょうか」
その後マーク殿と例のあまり美味くはない食事処でいくつか話をした。
マーク殿は我に地下二階及び地下三階での商売開始を提案。
地下二階層は主に服飾品類……アクセサリーと呼称される道具販売が可能。
そして地下三階。ここでは武具を取り扱えるのだ。
これにより飛躍的に冒険者が地下三階へ集まるであろうこと。
近隣諸国にも通達する手はずであることなどが告げられた。
さらに階層を突破してもらったので、冒険者ギルドより地下三階層優先立ち入り許可が、そしてダンジョンモール管理側からは店の評判を含めて判断し、地下二階層、三階層の優先店舗取得権が与えられるという。
これは我よりイーナに報告してやらねばならんな。
今の道具屋レーベルだけでも人手が足りぬようであったし、ここは役割分担が必要であろう。
地下一階をイーナとルルが、二階はバレッタと絵娘にでも任せるか?
三階は我とアーニーで回すとするか。
ううむ不安であるがこれはまたとない話である。
一気に三店舗。これだけ幅広く我の商品を売れるとなると、腕が鳴る。
しかし……手が足りぬな。スケルトンでまかなえる範囲ではない。
「……話は以上ですが、何かご質問は?」
「うむ。我は構わぬのだが、バレッタは引き続き借りてもよいのか?」
「当の本人がやる気なんですよ。一度に三店舗となるのでこちらとしても援助をしたくて。しばらく人を派遣しましょう。まぁ人手の方はそこまで心配なさらずとも。おっとそうだ忘れるところでした。この鍵をお渡ししておきます」
「む? これは何の鍵であるか?」
「異世界道具屋レーベルの倉庫用の鍵です。バレッタが買い付けを頼んでおいたものをそちらに搬入済みです」
「おお! つまり素材がたんまりとあるのだな! 一番の朗報ではないか。ぐわーっはっはっはっはっは!」
「はっはっは。ドーグさんにとっては素材が一番ですか。一応我々の人材をお貸しするにあたって一つだけお願いがあります」
「ん? 何であるか? 我はその素材を使って早く道具を作りたいのだが」
「ええ、お気持ちは分かりますですが……どうしてもやってもらわないといけません。面接を」
「……面接?」
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