第34話 戻ってきたが誰もおらぬではないか! 

「む……ここは」

「おいおいアギト。こりゃ一体どうなってるんだ?」

「我々も時をおいて入ったのですが……少し早かったでしょうか? しかし不思議な空間だ」


 我はギガスケルトンソルジャーを消滅させ、アーニーを担いで地面にあった扉を開き、その階段を下った。

 下ったのだが……なぜか途中から登った感覚となり、そして光に包まれた。

 そして我の立っている場所は宙に浮かぶ岩の上である。

 アギトとヤザクも我が扉をくぐった後、後を続いたのであろう。

 別の岩であるが、同じ状況で後ろにたたずんでおるのだ。


「アギトよ。この場所、どう思う?」

「これほど神秘的な場所ですから、神々の空間かもしれませんね」

「神だぁ? んなのいるわけねえだろうが」

「ではヤザクよ。お主はこの場所についてどう思うのだ?」

「スカアハとかいうやつの能力なんじゃねえのか。ドーグの旦那だってスケルトンを呼び出したりするんだ。これくらいやってのけるだろ?」

「……無理だな。あれらは魔力を用い、あるいは触媒となる供物で起こす実態的現象である。しかしここはそうではない。魔力が感じられぬのだ」

「我々が立っているこの岩も浮いています。ヤザク、下は見ない方がいい」


 ふうむ、このダンジョン。思っていたより厄介な仕掛けかもしれぬ。

 魔族などよりもっと質の悪い……力の根源が創造したものやもしれぬな。


『選択シテクダサイ』

「む、何か聞こえよった。お主らにも聞こえたか」

「はい。選択してください、と」


 ……ゆっくりと上部から半透明で大きな石板が降りてきおった。

 数は四つ。ちょうど人数分か。

 しかし我はアーニーを担いだまま。そしてアーニーは意識が無い。


「これはまさか、階層報酬では? なぜ私たちまで」

「へぇ。全員にくれるってのは気前がいいじゃねえか。もらえるものはもらっておこうぜ」

「しかし……」

「アギト。構わぬ。選ぶのだ。我は些細ささいなことなど気にはせぬ」


 欲の無さ。そして正義感の強さ。アギトが自身の持つ個性故か。

 

「ふむ。これは……我の知り得る武器防具や道具ではないな」

「こちらもです。この世界の道具が一つもありません」

「俺の方もだ。すごいかどうかも分からねえが、きっといいものだろうな」

『選択シテクダサイ』

「ええいやかましい。ゆっくり選ばせぬか。どれどれ」


 まずは我の石板からである。

 文字は青白く光り、強調するかのように左から右へと虹色に光っておる。

 全部で六つある中から選択しろとのことであるな。

 上から順番に、アポカリプス、ラーンの捕縛網、ミーミルの杖、ベリアルの黒裂爪こくさくそう、クライヴの剣、黒曜石の剣……であるか。

 うむ、聞いたことが無いものばかりである。

 これらはどれも強力な武具、あるいは道具の類やもしれぬ。

 試しに杖を選んでみるか……。


『ミーミルの杖。管理者ミーミルが残した遺産の一つ。氷結の効果を宿す。凍てつく土地で住まう力を与え、持つ者に高い知識を与える』


 む、片言ではない説明が出るのか。面白い性能であるが、この説明でいえば我の創作物と大きく異なる杖であろう。実に気になるではないか。どれ、もう一つ選択してみるとどうなるのだ。

 

『ベリアルの黒裂爪。魔人ベリアルが魂を竜に封じられ、激しい戦いの際に失われた爪の一つ。膨大な負の力と失われたルーン文字を封じてあるため、扱いは困難だが至高の力を宿している』


 ふむ、こちらは素材であるな。エンシェントスペルが入った爪か。失われた何番目が入っているのか分からぬ以上、先ほどの杖と比較すると評価は落ちる。どれもう一つ……「おいドーグの旦那。いつまでやってんだ?」

「こちらはもう終わりましたが、そんなに素晴らしいものが並んでいるのですか?」

「う、うむその通りである。選択すると解説が出てきおってな」

「そんじゃこっちのとは違うな。さすがに階層踏破した旦那の方がいい報酬ってわけか」


 ……あまり待たせるべきではないな。

 我としては素材が欲しいのだが、この杖の性能に興味がある。

 ちょうど杖も失ったところであるし、また我の杖を作るよりこちらを選択してみるとするか。


『ミーミルの杖、選択確認……受領サレマシタ』

「また片言に戻りおった。アーニーの方は我が選択……出来ぬな。アーニーよ、手を借りるぞ」


 この石板、どうやら自分の前に現れたものしか触れられぬし読めぬようである。アーニーは今起こすべきではない。

 勝手に選択することになるが許せよ。


「この辺を……よし、二度触ったぞ。どうだ。うむ……何か出てきおったな。我の杖は透き通る青色……ほう、美しい。まさに凍てつく場所に住まう者が所持しておりそうな氷の杖……といったところか。アーニーの方は、むう? なんだこれは」

『階層報酬受ケ渡シ、完了シマシタ。強制退去開始シマス。地下三階層構築開始シマス』


 途端に乗っていた岩が上昇し始めおった。

 そして……光に包まれた後、我ら四人はあのダンジョンモール入口にたたずんでいたのだった。


「ふう。やはりこのダンジョンの情報を得るには一筋縄ではいかぬな」

「そうですね。しかし思わぬ収穫、そして達成ですよ。急ぎマーク殿に報告を」

「いやアギトよ。我はイーナたちの下へ急がねばならぬ。確実に怒られるであろうが……」

「んじゃ、ドーグの旦那は店に戻っててくれ。俺たちは報告してくるからよ」

「すまんなヤザクよ。アーニーもこのまま道具屋へ連れて行くぞ。こやつに適した処置を施さねばならぬ」

「アールは大丈夫なのでしょうか?」

「心配いらぬ。我は……ドーグさんだからな?」

「あはは、そうでした。異世界の魔族ドーグ殿。どうかアールをよろしく頼みます」


 敬礼して去っていく二人を見送り、我は急ぎ早に店へと戻った。


「今戻ったぞ。ドーグさんである……?」


 おかしい。誰もおらぬではないか。

 むむ、書置きがあるな。


【ベリやんへ。うちとイーナちゃん、バレッタちゃん、アリシャちゃん四人で町へ買い物に行ってくるね。可愛いおべべ、沢山買ってきてまうかもやけど許してな? ちゃんとベリやんにもお土産買うてくるから。それまでお店の開店準備頼むで!】


 むう。全員で町へ行ってしまったのか。

 まぁ仕方あるまい。何せこのダンジョンでは衣類が買えぬ。

 しかしバレッタまで行ってしまうとは。


「いや、こんなことをしておる場合ではない。アーニーよ、今助けてやる」


 まずはこの破れた衣類である。我のマントをいつまでも貸してやるわけにはいかぬからな。

 適当に布でくるんでおけばよいであろう。

 さて、体内に入り込んだエンシェントスペルは本来解く方法が無いとされておるが……このエンシェントスペル自体が道具のように利用可能なものであることを知っておるのだ。

 つまり、であるな。


「サクリファイスエアーレイス! さぁ我の下へ出て来い!」

「……」


 よし、成功である。エンシェントスペル自体を実体のない霊モンスターへと変える。

 これにより無傷でエンシェントスペルを取り出し、消滅させるのだ。

 瞳を確認すると……無事、スペルは消えておる。

 このようなやり方でエンシェントスペルを取り除くとは、スカアハの奴も夢にも思うまいて。


「よし、滅せよ」

「……」

「む? 滅せよ!」

「……」

「なんだと!? 我の命令を聞かず消えない?」


 参ったぞ。これはどういった不具合であるか。

 アーニーから無事エンシェントスペルは取り出した。

 しかし取り出したエンシェントスペルは現在レイスとなり、そのレイスは我がサクリファイスしたにも関わらず言うことを聞かぬ。


「……絶対呪縛の類か。さて、それでレイスよ。お主は一体どう行動するつもりか」

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