第31話 残念である。いや、残念である。いや! 残念である! 

「サクリファイスクピピロイド!」

「クピィ?」

「……なんだ、このヘンテコなの」


 うむ、成功である! こやつは我が固有に開発したモンスター。

 愛くるしさと優れた能力を持つ中型探索用金属型モンスターである。

 こやつは条件が整わねばサクリファイス出来ぬ。

 まず一つ。それなりの道具を供物とすること。

 一つ。供物とした道具によりその形態、生体などが大きく変わること。

 そして一つ。魔チェーンと呼ばれるような魔を紐状にして繋ぎ魔力供給を絶えず行うこと。

 これら全てが整えば、サクリファイス可能……だといいなーというほど難しいサクリファイス能力である。


「鎖に繋がれた……機械? こんなの、この世界より文明が進んでた俺の世界でも見たことねーけど。なんかちょっと……可愛いかも」

「おいうかつに触るでないぞアーニーよ!」

「お前が担いでるから触れないんだよ。いい加減降ろせー!」

「お主を降ろすのはこやつの上である。我もアーニーを担いだままでおると魔チェーンを操りにくいのでな。このクピピロイド上部は丸形になっておるだろう? いつもは道具などを乗せるのによいのだ。我の代わりに運んでくれるからな。ぐわーっはっはっはっはっは!」

「変なの。上が丸くて目が黄色く光っててタルみたいな体で足がちょこんと生えてる」


 クピピロイドをじーっと見て大人しくなったアーニーをその上に乗せると、クピピロイドはくるりと上側部分だけをゆっくりと回転させおる。

 上に乗せたものを認識し、それが我の脳内に情報伝達される優れた機能が備わっているのだ! 

 ……アーニーの情報がこれで手に取るように分かってしまうのは内緒にしておこう。


 アール・ヴェニータ

 年齢 十九歳(獣人年齢想定不能該当資料無し)

 性別 雌

 種族該当資料無し

 血液型該当資料無し

 内包魔力値……高

 固有能力……有

 

 ふむ。このマジックウェポンでサクリファイスしたが、少ないデータである。

 意外ではあるが年齢は十九であるか。

 いや、きっと種族的にはまだまだ子供であろう。

 さすがは異世界の者。測定しようにも条件が合わず難しいようである。

 もう少し興味をそそられるようなデータが欲しかったのだがな。まぁよい。


「これ、動くんだ。へー、これなら担がれない分マシかな。でも紐がくくりつけてあるからちょっと嫌だ」

「この魔チェーンで魔力を注ぎ続けねば上手く機能せんのだが、こやつの能力はすさまじいいのだ。そんじょそこらのスケルトンなどより百倍、いや千倍役に立つのだぞ。例えばだ……クピピロイドよ。周囲一帯にいるモンスターの数を計測しろ」

「クピィ……ピピピピピピピピピピピピピピピピ」

「うむ。全部で十六匹おるな」

「なんだよそれ! 全然分からないじゃないか。適当だろぉ!」

「いやいや。ピと発した数により周囲のモンスター数が分かるのだ。だが、数値としてアーニーが乗っている部分に記載もされておるのだ」

「この上に? ……本当だ。十六って書いてある。へー……って俺の服、酷いところ敗れてるからやっぱり動けない」

「うむ、そのまま乗っておればよい。では、さらにクピピロイドのすごいところを見せてやろう。魔力供給、クリアランスプレッシャー。周囲一帯にある怪しい場所を発見せよ」

「なんか変なガスを放出し始めた!? 何、この紫色の透明っぽいの」

「それこそ魔力そのものである。我のだがな」

「へぇー。ちょっときれいかも……」


 この供給型魔術はこやつあってこそである。

 魔道具とモンスターの融合隊に近い存在であるが、優秀な反面魔力食いも半端ではない。

 

「なぁ。これって吸い込んでも平気なのか?」

「無論である。これは探知系の魔法を薄く広く魔力そのものを引き延ばしてて行うために用いる、我とクピピロイドの連携であるからな。ゆっくりと動く紫色の流れを見よ。そして我より鋭い魔力探知を持つアーニーであるならば、よりはっきりと怪しい場所が見えて来るはずである。まずはこの行き止まりから出るとするか」

「待ってよ。それならその宝箱だ。見え辛いけど全く動いてない。紫色の流れがそこだけ止まってるから」

「む? 宝箱であるか? しかしであるな……」


 ふむ、このダンジョンの宝箱か。

 むう、宝箱……宝箱がおかしいか。

 そうか、そういうことか! 


「道理で見つからぬはずである。ナイトメア、全場所を踏破したアリアドルの旅団。他の者たちもそうであるが見つけられぬのではない。見つけていて気付いておらぬ、いや気付かせておらぬのだな。見えたぞ。ナイトメアの正体! 宝箱そのものがそうであるな!」

「いや、違うと思うけど……」

「なんだと!? では一体どうだというのだ」

「だって宝箱が本体なら開けたりしたら襲ってくるだろ? ミミックみたいに」

「ううむ、それはそうであるが」

「その宝箱周辺が紫色で満たされてるから、そこが魔力の流れがおかしいところなんだと思うけど。俺にはよく分からねーもん。魔力そのものを見るのだって初めてだし」


 確かにアーニーの言う通り、宝箱の周囲は我の魔力がゆっくりと流れておるだけだ。そして宝箱に密着すべき箇所は停滞して紫色が徐々に濃くなり始めておる。

 クリアランスプレッシャーはこのような空間内で違和感が著しい場所へ我の魔力が停滞し集まるという仕組みであるが……ふむ。


「宝箱というのは本来……動かしたりするものであるか?」

「そんなことしねーよ。空の箱なんて持って帰ってどうするんだよ」

「我の知る書物には宝箱風呂なるものを作って入浴したりするらしいのだが」

「そんなことする必要あるの? 宝箱じゃなくても出来るだろ、そんなの」

「全くその通りであるが、何か道具をしまっておいたりするにも便利であるな」

「中身が分からないからしまっておくのにも合わないだろ」

「ふうむ。つまり宝箱自体には触りはするが動かさず……いや、いくつもある宝箱を一つずつ動かしていたら大変であるな。そうなると動かしてみるべきか……いや待て。まずは素材袋の確認である」


 む。これは! ……カネである。

 素材袋だと思うておったのに中に入っておるのはレギオンとかいうカネではないか! くそう! 


「ええい! 大外れもいいところである!」

「何怒ってるの?」

「下らぬ。素材袋だと思うておったのにレギオンが詰まっておるだけであった」

「それって喜ぶことだろ……なんでがっかりしてしかも怒るんだよ。意味が分からねーよ」

「仕方が無い。試してみるか。。残念なカネよ。その身を我が下僕に変えよ。サクリファイススケルトンソルジャー!」

「ん? ちょ、それ金貨だぁーーー!」

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