第29話 ダンジョン変動により迷子の魔王である
次々に地形が変わり、我の立っている場所ごと違う構造へと変化し始めてしまった。
少々離れた場所におったアギトやヤザクはどこにも見当たらぬ。
我のマントは我に引き寄せることが可能なので、アールだけは直ぐ近くに呼び寄せることが出来た。
その拍子で目を覚まし、我から慌てて離れるアールをひっつかむ。
……しかしこれはまずい状況である。
ダンジョンに入ったまま地形が変わるとこうなるのであるか。
直ぐ近くにはモンスターの集団である。
「グール三匹、ホブゴブリン二匹にあの大きなモンスターはなんであるか?」
「こんなときに! マージマンティコアだ……ここの階層の中で恐らく一番強いのが二匹……数が多すぎる」
「ふうむ、見たことが無いモンスターである。詳しく調べたいのだが……ただのマンティコアではないというのだな?」
「おいお前。逃げた方が……」
「忘れたのか。お前ではない!」
「分かったよ! ベリドーグだろ! いいから逃げろ!」
「その通り。我はベリドーグであるが呼び捨てにされるのはご免こうむりたいのである。これでも我は魔王であるからにしてだな……」
「そんなこと言ってる場合じゃない!」
ええい、話しておる最中にも遅い掛かってきおったか!
これだから野良のモンスターという奴は!
「ええい邪魔をするでない。我は呪いの解読をしたかったというに。個々は一つ、一気に吹き飛ばして……いかん、ここはダンジョンである。この魔法は使えぬか」
我の魔法はその威力ゆえ、外でなければ危険なものが多い。
我自身を吹き飛ばしてしまいかねないゆえ、勇者などが襲ってきても使うことが出来ぬものが多いのだ。
つまり……「やはり一度退くか」
「戦うんじゃないのかよ、お前ぇー!」
マントに包まれ膝を抱えておるだけの獣娘にだけは言われたくないのである。
仕方なくかついで連れてってやるだけ有難く思うのだ。
「くそ、離せ! お前の世話になんか……」
「暴れるな。マントが外れてしまうであろう!」
「うっ……くっそ。俺なんて放っておけばいいだろ」
「子供を見捨てたらそれこそ、偉大であった亡き父上に笑われてしまう。我は客と成り得る子供を見捨てたりはせぬ」
「……どうせ魔族なんて信用出来ない」
ふうむ。我の造る偉大な商品を知らなければ信用出来ぬのは無理もないか。
しかし軽い娘である。食事を摂取した分もあの呪いの魔道具に吸い取られておったか。
変化したダンジョンの中は入り組んでおる。
そのため逃げ道は多い。
先ほどの状況では背後からも襲われたやもしれぬが、広い場所さえあれば……「ああっ! そっちに行くな! 強い魔力反応が!」
む。奴らから少し逃げるために入り組んだダンジョンの通路を西へ西へと進んだのだが……この娘、かなりの魔力探知であるな。
「だから止まれってーー!」
「いや、この奥は通路ではなく部屋であろう。なれば丁度良い。我は部屋を探しておったのだ」
「部屋? なんで」
「それはだな……いや、なんだこの部屋は? モンスターの
その部屋は異世界道具屋レーベルほどの広さがあった。
しかし、異世界道具屋レーベルの商品数より多いモンスター共がひしめく部屋であったのだ!
種類も豊富である。スライムも数種類、ゴブリン共にスケルトン、コボルトスに挙げていけばきりがないほどである。
「モンスターヴィレッジだ……しかも数が多い。最悪だ。後ろから追ってくるモンスターまでいる。ここまでかな」
そうであるな。これだけ広ければ十分か。
この魔法は少々危険である。
広い部屋、そして多量のモンスター。
餌も十分であるが、問題はアールの存在である。
「おい、獣娘よ。我に接しておれ。さもなくばば巻き込まれて死ぬ」
「獣娘って呼ぶな! この状況で何言ってんだ。俺はお前を殺そうとして……だから俺が死んだっていいじゃないか」
ぎゃんぎゃん獣娘が騒ぐので、こちらに部屋のモンスター共が気付いたか。
勢いよく襲い掛かって来るな。
もう説明しておる暇は無さそうである。
「我と我。契約せしは落王の魔。捧げられし魔と呪いを喰らい尽くし、我が敵を討つ下僕となれ。ニプルヘイムエンシェントメデューサ招来!」
これは広い面積と豊かな魔力、そして強めの呪いを餌にして呼び出す禁忌召喚魔法である。
問題なく呼び出せたが……与えられる呪いによりその姿は変わる。
これはやはり……三流の呪いである!
血管のような管の髪ではないか! 本来は蛇髪であるぞ!
「狩り尽くせ。我ら以外をな」
「プシャアアアアアアアアアア!」
奴は巨大がゆえに広い場所がなければ呼び出せぬ。
そして首だけの存在であり、その場から動くことはない。
しかし我の周囲におるモンスター共を捕食し、あるいは石化させる。
残念ながら本来は蛇髪一つ一つが石化可能な存在であるのだが、この形態では血管で捕食し養分として取り込む形であるな。
せっかくのモンスターが台無しになりそうである。
さらにその口からは甘い匂いが発せられ、対象を眠りに誘う。
仮に攻撃目標をあのメデューサに仕向けたところで無駄である。
奴は高い属性防御能力と斬撃耐性を持ち、攻略するならそれこそ勇者パーティーでもなければ難しい。
勇者であるなら圧倒的な電撃攻撃で討伐出来よう。
雷とは反則的攻撃である。
最強は雷であり、他の追随を許さぬのは道理である。
それがゆえにギガインバイトを持つ勇者……ああ、恐ろしい。
なにせ耐電防具で身を固めたところで、あの武器に付与された能力はそれらを無効にできるほどの力を秘めておる。
我の中でも最高傑作であるのだからな。
まぁ、少々変な能力もついておるが。
「な、なんだこれ。こんなの、ただの魔族の力じゃない……」
「おいアールよ。何度言ったら分かるのだ。我は魔王、ベリドーグであるぞ。ぐわーっはっはっはっはっは……」
と笑ったのはいいものの、道具や素材などがほとんどなく、たまたまこやつから手に入れた呪いも使用してしまった。
餌となったので結局詳しく調べられなかったではないか。
参ったのである。ここでモンスター素材をはぎ取りたいのだが、それもメデューサの餌になってしまいそうである。
ううむ……スケルトンでも石から呼び出して何か集めさせるか。
いや、アールに少し役立ってもらうのもよい。
「なぁ。なんで俺を見捨てなかったんだ」
「なんだ、獣娘よ。今我は考えごとをしておるのだが? 獣娘一人見捨てて戻ってもみろ。我は生涯笑いものである」
「立ったそれだけの理由かよ。はぁ。俺が、悪かったよ……さん」
「ん?」
「ベリドーグ、さん。俺が、悪かったです」
「うむ。我はベリドーグであるが、いちいち子供のやることなどに腹を立てたりはせん! ぐわーっはっはっはっは!」
「だから子供じゃねーって言っただろ! この変態魔王! フンだ。本当、変な魔族だよ……」
何やらブツブツと言っておる獣娘であるが、さて。
これからどうしたものか。
我はさっさと戻って道具開発をしたいところなのだが。
アギトやヤザクがおらぬから、戻り方すら分からぬではないか!
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