第26話 異世界者の張り合いである
この我としたことが、背後を取られるとは不覚である。
しかし全くもって身に覚えのないことだ。
この世界にはいきなり襲い掛かる習わしでもあるのであろうか。
「間違いなく魔王級。この鎧で力を抑えているのだろうが、内なる魔力はごまかせない。こんな魔力持ちが一体なぜ単独でここにいる」
むう、この鎧のせいであったか。
どうやら我もルルと同じく恰好を改める必要があるな。
あの水着……とやらで歩いていたら、ルルもきっと絡まれていた二違いあるまい。
やはりルルは賢いようである。
「待て。我はルルの護衛と冒険者ギルドがどのような場所であるか見分に来た。ただそれだけに過ぎぬ」
「嘘を付くな。別にこの場所でぶっ放してもいいんだぜ。魔弾その四、アキネートバレットは対象の体内に入り込む細胞因子。寄生型魔弾だ。ぶっ放しても誰にも分からねー上に、楽に殺してやれる相棒さ」
こやつは一体何を言っておるのだ?
我を殺そうとでも? 背後を取った程度でか。
しかし……嘘は付いておらぬのだがな。
確かに我はルルの護衛以外にも、商売のタネになりそうなものを探しに来たとも言える。
……その魔弾とやらは魔術武具か。興味が湧いたぞ。新たな商売のヒントになるに違いあるまい。
聞いたことも無い魔術武具となればもしかすると……「貴様も転移者か」
「なに? 貴様も……だと?」
「我もルルも異世界の者だ。それゆえこの世界において我の魔力が絶大に感じるのやもしれぬ」
「嘘は……付いていないか」
「ちょっと! ベリやんになにしてるん? 物騒なものしまってぇな! お願い助けたって!」
「おや。穏やかな雰囲気じゃありませんね」
「おいおいドーグの旦那。あんたが背後を……ってなんだ、お前か」
む。我がちっとも動かぬからルルがアリアドルの旅団を引き連れて来たようだ。
「ちっ……面倒な奴が来た」
「アール、あなたですか。冒険者ギルドで武器を抜くなど許される行為ではありませんよ」
「アギト。お前の連れか。仕方ないだろう。大陸を滅ぼすほどの魔力を感じ取ったんだ。お前の知り合いなら気付いていたはずだ」
「あいにくですが、私の魔力感知はあなたよりはるかに劣ります。ドーグ殿が強者であることは理解しますが、彼は魔力を振るい暴れる低能共とは違います」
「……嘘は付いてないか。だが危険と分かれば即排除する。いいか? 真向から挑まずともさっきのようにいつでも背後を取り、あんたに寄生型魔弾を撃ちこめるんだぜ?」
「アールとやら。我はその武器、そしてそのスキルに興味があるのだが」
「はあ? お前、今殺されようとした相手に最初に言うのがそれか?」
「ううむ、我が殺されるか。では、撃ってみるがよい」
「ドーグの旦那!? そりゃいくらなんでも無理だぜ。そいつは別名暗殺者。ここいらでも有名な頭のいかれたチ……」
「おっとヤザク。それは禁句です。君まで狙われてしまうよ。ドーグ殿。やるなら別の場所に移りましょう。それにアリシャへの用向きと聞いております。彼女たちを道具屋へ送るついでにダンジョンで……というのはいかがですか?」
いやいや。我はそんなことがしたいのではなくてだな。
先ほどのアール? という者の武器をじっくり見たいだけなんだが、どうしてこうなった?
「ううむ、我としてはそうではなくてだな……」
「アールもそれで構いませんね?」
「ああ。魔弾が効かないなどとほらを吹くこいつの鼻をへし折ってやる」
やれやれ、困った子供である。
そう、我の背後にいたのは子供であった。
背丈が我の腰より少々高い程度しかない。
アリアドルの旅団におるメルミルとドータ程度の身長なのだ。
しかも見たことが無い種族と思われる。
装備を見ると、なるほど。
間違いなく転移者のそれと分かる装備である。
紫色に近い黒いローブを頭からかぶり、その隙間からは青く透明がかった鋭い目がこちらを睨んでおる。
腰に革製のベルトを撒き、そこに何やら不気味な闇色を放つ魔道具がある。
常にこのような闇色を放出し続けており、それは誰の目から見ても魔道具……マジックウェポンの類であると分かる。
……どちらかというとこれは呪われておる装備であろうな。
そしてそれ以外にも装飾品を多数身に着けておる。
戦闘準備を完全に終え、死地に赴く姿に見えてならん。
そして我が気になったのは、それらが全て身を守るための道具類であることだ。
つまりベルゼハデスと同等程度の魔を有する世界から来た者に相違あるまい。
こいつが……勇者と呼ばれる奴なのかどうかはまだ分からぬ。
我は異世界の魔王。
敵はなるべく減らさねばなるまい。
新たな魔道具……我の関心はアールという者ではなくそこにあるのだがな。
「なんやベリやん。ちょっと機嫌良さそうやな」
「そうなのか? 俺にはドーグの旦那を見ても全然分からねえ」
「ルルにはなぜか顔で心を読まれるのだ。これもきっと、スキルの影響であろうな」
「さっきからお前、スキルスキルと一体何のことだ。もしかして身体能力のことか?」
「いいや違う。スキルとは特別な技、力、知恵、個性。才能と言ってもよいものである。我の道具屋にはそんなスキル持ちがゴロゴロおるのだ。すごいであろう? ぐわーっはっはっはっは!」
「あれスキル言うんか? ちゃうとおもうねんけどな……特にバレッタちゃんのは天然やん」
「……天然の個性。危険だな、その道具屋」
「アール。そんなことはありません。さぁ着きましたよ、ここが異世界道具屋レーベルです」
「異世界……道具屋? きっと怪しい場所に違いない!」
勢いよく扉を開けるアール。
子供とはいえ勢いよく開け過ぎである。
「あ、お帰りなさーい。見て見て! ドーグさん! 魔道の小瓶の絵になりましたよ、ほら!」
「これくらい朝飯前ですわ! でも昼飯前ですわ! お腹が空いたのですわ!」
「あちゃー……」
「はぁ。これもマークさんに報告しないと。どうしましょう。私が気を失ってる間に……」
……そういえば異世界道具屋レーベルは今、おかしな状況であった。
謎の絵である女の衣装を拝借するためにアリシャを探しておったのだった。
このアールとやらの影響で忘れておったわ。
「ちょっとあんた。元に戻って……ダメやった! はい、男子は全員外!」
「一瞬女の裸が空飛んでたような気がするぜ……俺もついに頭がおかしくなったのか?」
「一体何があったんです? あれはドーグ殿の魔法ですか?」
「アギトよ。お主は冷静であるな……説明すれば長くなる。ダンジョンへ向かうとするか」
レーベルの中は女子共に任せておくしかあるまい。
我ら男共はさっさと退散せねば厄介ごとが起こる予感である。
結局アリアドルの旅団全員がついてきたわけだが、子供に見せるべきようなものではない。共に連れて行くか。
「なんかまた面白そうな道具屋になったんだな……」
「ほら行くぞメルミル」
「私女の子だもーん。ね、アールちゃんも」
「俺に触るな!」
む? なんだこやつは子供の女であったか。
しかしぶっきらぼうなしゃべり方でまるで男であるな。
それにそ奴が残ったら我がダンジョンへ向かう意味が何一つないではないか。
「ドーグ殿。実はダンジョンと言っても向かって欲しいのは地下二階なのです。我々と共にであれば、直接地下一階を
「む? それはどういう意味であるか? 直接二階へ降りられるというのか?」
「この門が鍵なのです。本来であれば地下二階層へ降りる正式な道が解放されています。しかしそちらは冒険者登録が必須。更に地下二階へは冒険者ランクC以上でなければ侵入禁止にしているのです」
「死人が出てから制限してるってわけさ。まぁ俺たちと一緒ならそっちからでも入れるとは思うけどな。暗殺者も一緒なわけだしよ」
「別に地下二階層に降りる必要ないだろ。俺はこいつに分からせてやろうとしてるだけだ」
「本気で……やらないとあなた自身が殺されるかもしれませんよ、アール」
「アギト、言わせておけば……」
「さ、参りましょう。時間が惜しいですから」
……ううむ、我はあまり行きたくないのだが。
研究室を作り引きこもりたいのである。
それには素材も足りぬし金も足りぬ!
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