第25話 冒険者は無粋である
早く行こうと急かすルルに続き、初めて冒険者ギルドなる場所へと向かうことになった。
行く先は中央塔。以前利用した移動方陣なるもので向かう手段もあるのだが、ルルは螺旋階段を使うという。
大半の者はこちらを利用しておるようで、皆和やかに階段を登っておる。
我が見ているのはそんな彼らの装備である。
豊富な種族がおる中、手入れが行き届いた武器を使っている者もおる。
ドワーフ族……彼らは武器製作のなんたるかを心得ており、希少な鉱石の扱いにも長けておる。
ベルゼハデスにおった頃には、ドワーフ族とも交渉することがあった。
とりわけ人より魔族寄りな種族がドワーフである。
彼らは利に繋がることであれば恐怖も感じず、遠慮もせぬ。
しかしどうだ。この世界においては、そのドワーフ族であっても魔鉱系統の武器を用いてはおらぬ。
「ルルよ」
「どうしたん? 難しい顔して。お腹痛い?」
「腹など痛くはない。むしろ頭の方が痛いかもしれぬ」
「風邪でも引いたん? 大丈夫? うちが看病しよか?」
「そうではない。この世界はもしかすると、魔の強い場所が少ないのではないか?」
「魔ってなに? 魔法のこと? うちの世界そんなんあらへんから全然分からへんけど」
魔のない世界か。
それは我の想像出来るような世界ではないな。
「説明してやってもよいが、今は止しておこう。それよりも用心せねばな。我らは目立つ存在であるぞ」
「そうやったわ……うちらこの世界の人間とちゃうもんね。ていうか日本人、おらんのかなぁ……寂しいわ」
「ふむ。我としてはルルの世界に興味をそそられるな」
「ほんまに? それやったら今度、ゆっくりお互いの世界がどんなとこか話さへん? 明日のお昼とかどう?」
「悪いがルルよ。我らは新しく店を開店させたばかりである。仕事が多すぎてそれどころではあるまい」
む……ものすごくがっかりしてしまった。
言い方が悪かったようである。
「明日というのは話が早いであろう? 自分の世界がどのような世界であるか。それを語るのに準備も必要であろう。我らの仕事が落ち着いたらゆっくり機会を設けようぞ」
「うん。そうやね……うちさぁ、不安なんよ。よー分からん世界でみんな外国人みたい。言葉は通じるけど、法律とかいろいろ分からんし。みんな人を殺せそうな武器握ってるから怖い。買い物任された時も本当はとっても心細かったんよ……」
武器が怖いというのか。
……我と、同じであるな。
しかし、この世界の武器であるなら怖くはあるまい。
「案ずるな。我が武器を作るつもりは今のところ無い。その逆、守るための道具をしばらく作ろうと考えておる」
「守る……道具? 何それ? うちも手伝ってええ?」
「無論である。ルルは我の助手であろう?」
「えへへ……そうやった。あんな、少しだけ……ホッとするんよ。ううん、なんでもない。さぁ着いたで! ここが冒険者ギルド……らしいわ」
いつの間にか三階層にまで登っておったようだ。
冒険者ギルドは我の世界にも存在しておった。
そこにはランクというものが存在し、依頼をこなしてランクを上げると難しい依頼を受けられ、報酬も多くもらえる仕組みであった。
さらに高ランク冒険者には様々な特典がある。
当然ながらこの冒険者ギルドにも商談を行ったことがある。
そう……特典の一つに我のギガインバイトレプリカがあったはずなのだ!
ううむ、なぜ本物にすり替わったのだ。解せぬ。
「ほらベリやん。入口でぽかーんと口開けてぼーっとしてると邪魔やで。あれ? 邪魔って言うのがもしかして魔ってこと? ううん、分からんわやっぱ」
「邪に魔か。あながち間違ってはおらぬが……それよりも、ふむ」
この冒険者ギルドがあるからこそ、このダンジョンモールは賑わっておるのだな。
想像以上の広さである。
酒を飲める場所もあり、更に窓口が十五か所もある。
それだけ数があっても全く足りておらぬが。
……受付は一心不乱に処理しておるが、列は延々と続いておるな。
あれでは身が持つまい。
ふむ、ここにも我の手助けが必要であるな。うむうむ。
やはり散策するのは大事なことである。
やるべき道筋、我を知らしめるための行程が手に取るように浮かんでくるわ。
「ぐわーっはっはっはっは! って笑いそうな顔しとるで?」
「ルルよ。顔色で我の台詞を取るでない」
「うふふ。さぁ人探しや。アリアドルの旅団おるかな?」
「昨日の今日である。まだダンジョンには入っていまい。そこなエルフの娘よ。ちと人を探しておるのだが……」
「はぁ? 冒険者ギルドで堂々とナンパ?」
「い、いや違うのだ。我はそのようなつもりは……」
「ふん。しかも女つき。最低」
……ええい、これだからエルフという奴は!
男が話しかけると直ぐにナンパなどと勘違いをしおって話にならぬ。
ベルゼハデスと同じではないか!
容姿に優れる種族は困りものである。
「ベリやん……どんまいやで」
「
「ん? 金は?」
「……そういえば金は持っておらんようだ」
「あっそ」
行ってしまった! ええいこれだからドワーフという奴は!
ついて出る言葉は金、鉱石、竜素材!
利が無ければ指先一つ動かさぬ不器用種族め!
「そこなラールフット族の子供よ。少し話を……」
「おいらは子供じゃねえ! これでも九十二歳だ!」
「ぐぬう……」
「くっ……あっはっはっはっは。おかしー。ベリやんてほんまおもろいわ。おかしすぎて涙出て来た……もうええよ、うちが変わるわ。そこのお兄さん。ちょっとだけ教えて欲しいことあんねんけど」
「ん? 俺か……あの、なんでございましょう? お嬢さん」
「アリアドルの旅団と知り合いでな? 探してるんやけどどこにおるか知らん?」
「……はぁ。俺なんかに声掛かるから何かと思ったら。アリアドルの旅団なら一番奥の受付辺りに一人いるのを見かけたぜ」
「有難うな。好みやないけど女性に優しい男はきっといつかモテるで? 頑張り!」
「本当か!? よおし俺はこれから全ての女性に優しくするぞ!」
なぜだ。ルルは一回で教えてもらえるとは。
これは何かのスキルに違いあるまい。
まさかルルは勇者ではあるまいな!?
「教えてもろたよ。全ての女性に優しくするのは違うねんけどな。それ女性にとっては逆効果やわ……ほないこ? ベリやん」
「うむ。ルルよ、お主実は勇者ではないのか?」
「せやからそんなんちゃうって。あんな。声かける人ちゃんと選んでんねんて。ベリやんが声かけた人、みんな忙しそうな人やったやろ? 動き見てたら分かるようになるから。それにしてもすごい人やわ……」
これだけ大勢いる中から特定人物を探せるものであるか。
我は種族程度しか見ておらぬが、ルルにとっては種族すら分かってはおらぬようである。
先ほども話していた通り全て外国人とやらに該当するのかもしれぬ。
つまり種族における常識などは無く、仕草や動作のみを観察しておるのがルルのやり方というわけか。
ふむ。ルル用にも便利道具を作ってやると、更にその真価が発揮されるやもしれぬな。
「おったおった! アリシャちゃーん!」
ふむ、駆け足で行ってしまったか。
ここ冒険者ギルドにおいてもルルは目立つ。
よからぬ者に絡まれぬようしっかりと見張りを……いや、ヤザクもおるな。平気であろう。
「動くな」
「……!」
突然我の背後に何者かが!
バカな。我はいくら油断していたとはいえ背後に忍び寄る者に気付かぬだと!?
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