第24話 不思議な絵である
警戒しながら宝箱の中を覗くと……なんと、箱にあった絵が勝手に浮かび上がりおった!
「絵が……絵が、絵がぁー……」
「バレッタちゃんの支え、オッケーやで!」
「あれ見て言うのそれなんですか、ルルちゃん!」
言うまでもなくバレッタはひっくり返るを発動しておる。
しかし真っ先に自らを無力化するとは、すごい特技であるな。
「なんもしてこんねんけど、一体何が起きるん?」
「少し下がっているがよい……ふむ。害意があるような絵ではない。いや、そもそもなぜこれを絵だと認識させられたのだ?」
なるほど。揮発型魔術の一つがそれか。
幻惑魔法の類であろうな。
つまりこの絵は危険かもしれぬ。
「おい絵よ。浮かびながらこちらの様子を伺っておるようだが、我にはむかえば魔道其の八、カオティックエンシェントフレイムで貴様を焼き滅ぼすぞ」
「おかしい。おかしいですわね。ここはダンジョンではないのですわ。どういうことですわ? 宝箱はダンジョンに設置されたはずですわのに。なぜダンジョンにないのですわ?」
「質問しておるのはこちらだ」
「絵がしゃべっとるで!? もうなんでもアリやな……魔法ってすごいわ。簡単にホラーハウス作れるんとちゃう?」
「これは絵ではない。絵の形に見せている
「低級なモンスター? 違いますわ。わたくしは……わたくしはなぜこのような姿をしているのですわ? いえ、わたくしはどのような姿をしているのですわ? 思い出せないのですわ」
「ねぇドーグさん。何か困りごとでは? わけありみたいじゃありませんか?」
「ふうむ、イーナよ。しかしな……この絵のような擬態を解かねば相手が何者かも分からぬ」
「それってベリやんの力で解いたりできへんの?」
「ううむ、試してみるか。我が魔道其の六。ディシーブミミクリー!」
この魔法は結界や見えざる道、インビジブルメント魔法などで姿を消した者を見通すための古代魔法である。
エルフなどが好んで使うのだが、取引相手であったエルフに道具と引き換えに伝授してもらったのだ。
こういった取引による魔法習得は我の得意とするところである。
そして……ふっふっふ。我の予想通りである。
絵にビシリと岩が砕けたようなヒビが入り……「よし、成功である。解けた……ぞ?」
「見たらあかん! ベリやん後ろ向き! 早よ! なんであんた裸やの!」
「あわわわ。私の替えの服、取ってきます!」
ううむ……我が恰好良く擬態を解いてやったというに。
後ろを向くなどすれば襲ってくるやも分からぬが……女子の裸など見るべきではあるまい。
大人しく従うとしよう。
「どうなっているのですわ? わたくしは確か、ダンジョンで箱を開けたものを攻撃するよう命じられて……誰に命じられたのですわ? 覚えていないのですわ。わたくしは……誰ですわ?」
「あんたちょっと黙っとき。それに、ですわの使い方おかしいで? にしても……なんて大きさなん。ずるいわ。もぎとってやりたいくらいやわ。別にこんなん無くても生きていけるけどな? 生きていけるけどこの差はなんなん……そもそもなんでうちがあんたの隠そうとしてるんよ。自分で隠しいや!」
「持ってきました! でも、私のだとサイズが合わないかも」
「あら、衣類ですわ。これは衣類。それは分かりますわ。わたくしどうして何も着用していないのですわ? あなたたちは一体……ダメですわ。色々ダメですわ。何も思い出せないのですわー!」
「ううむ、これはまた騒がしくなるような予感である……その娘はルルたちに任せて我は冒険者ギルドに向かおうと思うのだが……」
「こっち向いたらあかんから待っとき。イーナちゃん、この服もういらん?」
「え、ええ。衣類はまた買えばいいですから」
「うちも替えの服が欲しいねん。ベリやん、それくらい買ってもええかな?」
「好きにするがよい。我は金になど興味は無い。そうであるな、その代わり我にイーナの食事を振る舞って欲しい」
「ええ。今夜はいっぱい稼げた分奮発しちゃおうかなと思ってましたから。うわ、本当にきつそう。ショックですぅ……」
「痛いですわ! 絞め殺すおつもりですわ? わたくしはもう一つ上の衣類が……」
「今はこれしかないの! それともなに? 裸でうろうろしたいん?」
「それは寒そうですから嫌ですわ。それにしても、ここはどこですわ?」
記憶喪失であるか。厄介であるな。
ムイよ、我の肩に乗りあちら側の様子を見るとはずるいのである。
我の方向には何も無いのである……。
「……よし、こんなもんでええやろ。大事なトコは隠せてるけどこのままはあかんわ。マークさんに連れていくにしても男の人やしな。バレッタちゃんは気絶しとるままやし」
「あのぉ……この宝箱って私が見つけて持ち帰ろうとしてたものなんですよね。だから、私の責任かも……」
「言うてもベリやんの道具で持って帰って来たんやろ? それやったらベリやんに責任……あかんあかん、そういう責任やなくてな? どないするか考えてもらお。ちょっとうち、急ぎで服買うてくるから待っててー……ってここ、もしかして服買う場所ないんやない!?」
「そうなんです。服って防具扱いですから……買おうとすると消滅しますよ。今みたいに譲渡なら別ですけど」
「困ったわ……うちには水着とバレッタちゃんにもろた福しかないわ」
「まぁわたくしは布にくるまってるだけでもいいのですわ? それに、擬態も出来ますわ。ほら」
それを聞いて振り向くと、再び絵の姿になり空を舞っているではないか。
当然そのせいで着つけた衣類が地面に落ちたのであろう。
「せっかく着付けてあげたのになんで脱いでしまうんー! あほー!」
「ふむ……お主その姿のままであるのに不自由はあるか?」
「ありませんわ。こちらの方が自然ですわ」
「その絵があまり美しい絵ではないのだ。いや、絵と呼ぶに相応しくない。内容を変えられぬか? 例えばそうであるな。魔道の小瓶などと書かれた絵には出来ぬか?」
「絵の内容を変えるのですわ? 出来ると思うのですわ。でもお腹が空いていて出来そうにないのですわ」
「なんかうち、力抜けてもうた。はぁ……あんな大きさの服やったら……そうや! アリシャちゃんや。アリアドルの旅団におった女の子。あの子やったらあんたより少し小さいけどなんとかなるかも。ちょっと聞いてくるね」
「大丈夫そうなら私は何か軽く作ってあげることにします。バレッタちゃんと絵の人? は私が見てますから。ドーグさんはルルちゃんについていってあげて下さいね」
「冒険者ギルドとやらに向かうのだな。では参るとするか、ルルよ」
おかしな流れではあるが、奇妙な絵はどうやら敵というわけではないようだ。
記憶喪失で宝箱から出て来た絵。
魔族……いや悪魔の類ではあろうがな。
現れたのが魔王の前だったのであるから、我に従うほかあるまい。
ぐわーっはっはっはっはっは!
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