第22話 商売繁盛である!

 翌日。

 いよいよリニューアルした異世界道具屋レーベルの開店である。


「ふう。なんか緊張してきました」

「イーナちゃんは店長なんやから、どっしり構えてくれたらええよ。それにな? 部屋の中でも外の声がぎょーさん聞こえ取るで。お客さんめっちゃ来てはるわ」


 ルルは商売慣れしておる。しかしイーナ、そしてバレッタも不安そうにしておる。


「商品点数は多くないですけど、奪い合いになりませんか?」

「問題あるまい。我には全くこのような発想はなかったが、ルルの発案は我が恐ろしい商売根性と感じるほどである。商売熱心な世界から来たに違いあるまい」


 我らの商品点数はかなり少ない。

 何せたった一日二日で商品を用意せねばならなかったのだ。

 そのためルルが拾ってきた宝箱の中身も確認はまだである。

 こちらは商売が無事終わってから確認である。

 つまり店じまいの後。

 本日売る商品は魔道の小瓶が六つ。

 これらには全てイーナとバレッタが煎じた飲み薬……ポーションが入っている。これを魔道の小瓶に入れると、それらは上ポーションとなるわけだ。

 値段は一つ二千レギオン。

 前回の四倍である。

 これには注意書きで【仕入れ値大幅高騰中、さらに価格が上昇する可能性アリ】と書いてあるのだ! 

 なんとずるい。いや、さすがと言わざるを得まい。

 この言い回しを考えたのもルルである。

 

 そしてスライムカード……と現在は名を貼ってあるが、こちらは今後名称を変える予定である。

 今回のものはあくまで試作品として記載し、それを販売する予定だが……「ルルよ。本当にこの値段でよいのだな?」

「当たり前やろ。こんなん絶対売れるで? これでも安いくらいやわ。最初に販売したものやからきっとプレミア価格になって……ゆくゆくはこれ一枚で家が建つんよ?」


 ……ううむ、我には想像もつかぬが。

 値段はなんと一枚五千レギオンである。

 五枚あるのでこれらが全て売れると二万五千レギオン。

 イーナはそちらの利益は全て我のものとしておるが……我は金が欲しいわけではないのだ。

 まぁマーク殿に借りている部屋代くらいは稼がねばならぬのだがな。

 イーナはというと、ルルに教えてもらったレシピにより食事を多く用意しておった。

 食材はバレッタと共に買い込み、調理方法をルルに習い作り上げたものである。

 売れ残ったら我も食べてよいことになっておるので期待しておるが……新装開店では難しいかもしれぬ。

 今回はただの薬草類など一切売ってはおらぬ。

 それらは他の店でも買えるとして、今回は食料品、魔道の小瓶、スライムカードの三種販売としておる。

 料理はルルの異世界品、そして販売物は我の異世界品。そしてイーナ、バレッタの作ったポーションが詰められた。

 まさに異世界道具屋レーベルに相応しい道具である。

 しかし商品が極めて少ない。

 そこでここが鍵となるのだが、ルルは引換券なるものを作った。

 今回店に来て、買いたかったけど買えなかった人用に、魔道の小瓶購入権利引換券を発行するというのだ。

 これは今回の二千レギオンで購入するための券。

 手付け金としてこの券を百レギオンで購入する。

 後日入荷と共に千九百レギオン支払うと、魔道の小瓶が手に入るという仕組みである。

 なお、この券を紛失した場合は買えなくなる上、百レギオンは戻って来ない。

 購入を止める場合は券と引き換えに百レギオンを払い戻すという仕組みである。

 券にはそれぞれ番号が付与されており、チェックもしておるようだ。

 ……なんとも見事な商売魂である。

 さすがに百枚も券を用意したのは多いと思うが。

 仮に全部売れたら券の引き換えだけでも一万レギオンである。

 しかしながら、全て売れれば我は魔道の小瓶百本も作らねばならんのか……。


「ほな開けるで! 異世界道具屋レーベル、新装開店やでー! いらっしゃいま……うわわわっ!? ちょ、押さなくても入れるから! ゆっくり入ってなーー!」

「魔道の小瓶全部くれーー!」

「ちょっと割り込まないでよ! 全部とかあり得ないんだけど!」

「アギトさんが言ってた通り値段上がってるよ! 一個二千レギオン!?」

「くそ、やっぱ買い戻そうとしたのに。これじゃ五百レギオン損じゃねえか……」

「まだ上がるかもだって!? しかも六本しかない……」

「こっちに変なカードがあるぞ!? スライムカードって……なんだ?」

「見てあれ。異世界の食べ物? 本当に売ってる! 美味しそう……でも結構値が張るわね」


 むむう。予想以上にすごい数の人である。

 ダンジョンモールとはかようなほど人がおったのか。

 店に入りきらんではないか。

 魔道の小瓶は即完売である。

 全部買うと言っていた客にはバレッタが管理者であることを告げ厳しく指導しておる。

 イーナたちが売っている食料品も大量に売れておるが、ほとんど客は女性である。

 スライムカードはまだ一枚も売れておらぬが……ここは我の出番であるな。


「うむ! このスライムカードとは、四つほど命令を聞いてくれる可愛いスライムをいつでも呼び出し、しまうことが出来る優れた道具である! 我が意を持ち我が思を叶えよ。具現魔術、魔道の一。リミットクリエーション発動!」


 よし。小さなスライムが出て来た。

 これはムイと違う色のスライムであり、色は薄紅色である。

 ルルがそれを見て物欲しそうにしておるがダメである。


「ああ、うちのイチゴちゃんが売れてまう……ベリやん、そんな殺生なぁ」

「か……可愛い!」

「隣にいた獣魔と同じ動きしてる!」


 うむ。本日は我の肩にムイを乗せておる。

 ムイよ、少々手伝いを頼むぞ。


「よし。踊るのだ! ムイ、お前も見せてやるのだ」

「ピキーー」

「ピッキーーーー!」

「見て。あの人の肩に乗ってるのは獣魔かしら? 同じ動きをしてるわ。癒される……」

「見て! あっちで売ってるゼリーっていう食べ物と同じ色みたい。プルプルしてるしなんだか美味しそう……あんな風に肩に乗ってくれるの?」

「無論である。四つの命令はそれぞれ、踊れ、待て、ついて来い、回れである」

「うう、五千レギオンかぁ。高いなぁ……でも欲しい」

「これは唯一無二である。同じスライムは入っておらぬし、スライムに関しては同一色のものを作るつもりは無いのである。つまり……この色は購入した者のみの最大得点となろう!」


 それを聞いてバンとレギオンを我の前に出してきた娘。

 その娘に続いて次々に娘たちが金を出す。

 一番最後に出した娘には悪いが、売り切れである。


「完売である!」

『えぇーーー! もう!?』

「また入荷する機会を設けよう。スライムを……五匹分である!」

「はいはーいルルちゃんに注目やで? 今ベリやんが言うてたスライムカードな? まだちゃんとした名前決めてへんのやけど、違う種類も作る予定なんよ。それでな……色々決めたら店の中に告知する紙貼りだそうと思うててね。いつ貼るかまだ分からんからよー見に来てな? 何せ限定品やから……うちも欲しいのにベリやんのケチー!」

「私、別のモンスター……パルームとかあったら欲しいなぁ……」

「分かる。愛らしい白くてもふもふとしたアレ、いいよね」

「私はパピリオンラビット! 餌を上げて食べてるの見てるだけで癒されるー」

「この道具屋さん、女性店員が多くて入りやすいから、毎日通っちゃおうかな」

「魔道の小瓶引換券下さいー!」


 うむ、商売繁盛過ぎて困るくらいである。

 店の遠めにアギトたちが見えるな。

 上手く客を誘導してくれたようである。

 彼らにも礼が必要であろう。

 ――開店してわずかな時間で全ての商品が売れてしまったようだ。

 店じまいをして金額を計算してみると……「魔道の小瓶一万二千、魔道の小瓶予約券一万、スライムカード二万互千、食糧販売代金九千二百五十、合計……五万六千二百五十レギオン!?」

「スライムカード、売れたやろ? あれでも安い思うんよ。うちやってお金あったら全部買うてたわ!」

「でも、ほとんどドーグさんのお陰ですから……それでも私の作ったポーションや食べ物が全部売れて……幸せですぅ」

「ふうむ。我はあまり金に興味は無い。バレッタよ。その金で店舗の支払い、それに我とルル、それにバレッタの居住場所の料金を支払おうと思うのだが……次回用の食材、それから今回の食材分などを差し引いて、ひと月分以上は払えるか?」

「私のもですか? 私は仕事で手伝っているんですけど」

「何言うてんねん。一緒に作って一緒に働いて。それでなんもいらんなんて言わんといてな?」

「そうです。バレッタさんもお店の従業員なんですからね?」

「それではお言葉に甘えて……計算、それと説明もします。食材、それからドーグさんの必要となる素材も仕入れましょう。もし貴重な素材となるものを入手する場合、冒険者ギルドに依頼を出すのが基本となります。依頼代金にはダンジョンモールの維持費も含まれますのでご活用下さいね。仕入れ代金分として一万レギオンは用意しておきましょう。次に我々の部屋は基本一日百レギオンです。イーナさんは店舗備え付けの部屋ですからいいとして、三人分ですと三部屋でひと月九千レギオン。ドーグさんはレンタル道具代金が含まれますが、全てを含めてもひと月分を約一万レギオン。ふた月分で二万レギオンです。店舗代金は三日で二百五十レギオンですから、こちらも一万レギオン分となる四つき分を払ってしまいましょう。それと引換券用のお金を一万レギオン残し、残り六千二百五十レギオンから給料を払う。これでいかがでしょうか?」

「ううん、バレッタちゃん計算早いわぁ。うち細かい計算苦手やから分かりやすくてええわ。つまり四つき分の店舗代金、それからふた月分の家賃を払えたってことやね」

「六千レギオン近くを給料としてイーナさんが分け与えて下さいね」

「それはドーグさんにやってもらいたいですぅ……ほとんどドーグさんが稼いだお金ですもの。私はもう受け取れませんよ」

「ふうむ? 小遣いのことであるな。なれば一人千五百レギオンずつ使えばよかろう。残ったお金は店に置いておくがよい。余った金を入れる道具も必要であるか……ううむ、鉱石が足りぬ」

「仕入れは一万レギオンもあればお釣りが来ますよ。魔道の小瓶引換券用のお金もありますしね」

「そうやね。ベリやんには魔道の小瓶量産してもらわんとな? 何せ引き換えるたびに千九百レギオンが入ってくるんやで? これだけでも、二十万レギオン近く稼げるんやで……ぼろもうけ間違いなしや!」

「そういえば魔道の小瓶って素材は何で出来ているんですか? 仕入れるのかなり大変なんじゃ」

「鉄鉱石と銅糸鉱石という特殊な鉱石である。この銅糸鉱石というのが無かったので、我が銅鉱石と糸を組み合わせて作ったのだ。最初から銅糸鉱石があれば直ぐにでも大量に作れるのだが……」

「ええ!?」

「我の初歩魔術である鉱石に魔力を浸透させ、魔鉄とした上で更にその効果を高める術式を付与した魔道具である。つまり仕入れて欲しいのは鉄鉱石、そして出来れば銅糸鉱石ないし銅鉱石と糸である。宝箱にでも入っておればよいが、そちらは期待すまい」

「鉄鉱石って原価どれくらいなん? 銅糸鉱石なんてうちの世界でも聞いたこと無いわ」

「鉄鉱石は一つで十レギオンくらいです。銅糸鉱石は四十レギオン程度ですね。確かに多くは売っていませんが……」

「うわ、めっちゃぼろもうけやん」

「しかしな。一つ製作するのに銅鉱石と糸へ我の魔力を込めねば物質変化は出来ぬのだ。加工をするにも高熱を発する上、危険を伴う。我以外には行えまい。量産するとなると少々今の部屋では手狭である。我の製作にはスケルトン共の力を借りた方が効率的であるしな」

「ドーグさんはスケルトンを生み出せるネクロマンサーさんでしたね! 最初見たときはびっくりしました」

「イーナよ。我はネクロマンサーとは少々異なる存在なのだが……まぁ似たような力はあるな」


 と、随分と売り上げに花を咲かせてしゃべってしまったが、残念極まりないことが一つある。


「どうしたんベリやん? 残念そうな顔して。ええ男が台無しやん」

「我もイーナたちの作った食事を取りたかったのであるが、何も残っておらぬな……」


 金は美味くない。腹の足しにはならんのである。

 そして金を出しても二階の食事処は美味くないのだ……。

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