第21話 大変賑やかである!

 ダンジョンから戻ると、異世界道具屋レーベルは何やら賑やかであった。

 中に入ってみると、見知らぬ子供が二人おる。

 それ以外はマーク殿、バレッタ、ルルにイーナ、そしてアリアドルの旅団員が食事をしておるようだ。

 ルルが我に気付き駆け寄って来る。


「ちょっとどこ行ってたん? お店の配置確認して欲しかったんやけど」

「うむ。少々野暮用でな」

「メルミルとドータまで来ちまったのか。ドーグの旦那。あのガキ共もアリアドルの団員だよ」

「ほう……あれは我の世界にもおる種族だな」

「我の世界? ドーグの旦那はこの世界の魔族じゃねえってのか?」

「ああ。我はベルゼハデスという世界から来たのだ」

「ベルゼハデス……聞いたことねえな。女のガキはメルミル。精霊コリガンの純血種。男の方はドータ。ランパスとコリガンのハーフだ」


 どちらも精霊種。コリガンとは夜にその美貌をあらわにするというが、まだまだ子供であるな。

 ランパスはその特徴柄、松明のような光を灯す術に長けておったり、その割に闇魔法を得意とする種族である。

 どちらもいたずら好き種族であるが……随分大人しくしておるようだ。

 これはあの男、アギトという者の影響だろう。

 少し微笑みながらこちらにやって来る。


「ドーグ殿。すっかりお世話になってしまったようで。イーナ殿に掃除をしてくれたなら食事もと、断れ切れずに」

「うむ。イーナならそう言うであろうな」

「ちょっとベリやん。うちを見ながらなんでそんなこと言うん?」

「いや、ルルを見ておったのはそういうことではなく……な」


 うむ。ルルは容姿端麗にしてはきはきとしゃべる人の子よ。

 人気がさぞや人気が出るであろうな。

 


「ん? なんや怖いお兄さんと何しとったん?」

「怖いお兄さんか……なんでもねーよ」


 おっと、アリアドルの旅団員と話しておる場合ではなかった。

 あちらで酒を飲み酔っぱらっているマーク殿に用事があったのだ。


「マーク殿。少々伝えねばならぬことがある」

「んー……? あれ、ドーグさんじゃないですか。ひっく、えーと話? お店のお金なら大丈夫大丈夫……ひっく」

「ううむ。少々失礼するぞ」


 我が紙に記した試作品であるが、この中にはムイよりはるかに小さいスライムが封入されておる。

 取り出すのに必要なのは極微量の魔力。

 息を吸う程度の労力である。

 それを流し呪文を詠唱することで取り出しが可能である。

 これはサクリファイスとは大きく異なる術式が刻まれたものだ。


「我が意を持ち我が思を叶えよ。具現魔術、魔道の一。リミットクリエーション発動!」

「ちょ、ええっ!? ドーグさん!?」


 うむ。成功である。

 紙切れに封入されたなんとも無害アピールをするスライムの登場である。

 試しに我が歩くとそちらについてくる。

 うむ、命令コマンドは四つ。

 

「待て」

「ピキー」

「ピッキーーー!」

「いかん、ムイまで反応してしまった。ムイは待たなくてよいぞ?」

「ピキーー?」


 うむ。これで我の跡をついてこず、じっと待機しておる。


「踊れ」

「ピキーー」

「ピッキーー!」

「……ムイよ。お主わざとやっておるな?」

「どど、ドーグさん。これは一体……」

「それは獣魔スライムではない。ルル。お主ならうまく説明出来るな?」

「あんな。それ観賞用やねん。可愛ええやろ? うちも一つ欲しい言うたのに、タダではやれん! って言うんよ? 酷い思わん? こんなに可愛く懇願こんがんしたんやけど」


 そういって両手を組み、胸の前に手をあて首を傾げてみせるルル。

 どちらかというとそれを見て慌ててそっぽを向いたのはヤザクである。

 しかしルルよ。我は魔王。

 そのようなお願いをしても無料にはならんのだ。

 しかし……これを見てどうやらマーク殿は意識がはっきりとしたようだ。


「観賞用……いや酔いが覚めました。この小さなスライム。これを一体どこで?」

「それは我のサクリファイス能力……を変化させたものだ。モンスター生成とはそもそも犠牲を伴うものであるが、それは戦闘など難しい役割を担わせるから起こる現象である。こ奴らは無害であり、命令も四つしか聞かぬ。その代わりに素材ごと消滅するものではない。実験第一段階であるな」

「……ドーグの旦那がすごすぎてわけが分からねえ」

「どうやら私たちはとんでもない方とお知り合いになれたようだね……」

「バレッタさん!? また気を失ってますぅ……私の腕折れてるから支えられませんよぉ! ルルちゃん助けて!」

「はいはい。ほんまバレッタちゃん可愛いのに仕方ない子やな。うちが観賞用にバレッタちゃんもろとこかな?」


 思案中のマーク殿であるが、これは果たして売り物として出してもよいものか。

 現在同一のスライムを封入したものが使用したのも含めて五枚はある。


「ドーグさん。これは戦闘や探索に特化したものも作れるのでしょうか?」

「戦闘となると消耗品となるであろう。探索用であるならギリギリ作れるやもしれぬが、どちらにしても必要となる素材が何一つない。このスライムに封入した紙。これも素材袋にたまたま入っておったものを使えたから作れたに過ぎぬのだ」


 それを聞いてすっと手を挙げたのはアギトであった。

 

「素材でしたら地下二階ではかなり多く手に入ります。しかし……地下二階にはナイトメアに遭遇する可能性があります。ドーグさんにそのことで相談があったのですが、お話する機会を見失っていました」

「実は私もドーグさんに少々相談をしたかったんです。不思議な道具を作るドーグさんなら地下二階の謎が解けるかもしれません」

「ううむ二人とも。申し訳ないが我は道具を作り、それを売りたいのだ」

「ダンジョンに行けとはいいません。話を聞くだけでも結構ですから」

「ふむ。なれば話してみるがよい」

「では……」


 ――なるほど。聞く限りでは地下一階層と同様、地形が変わるダンジョンである。

 さらに地下二階からは罠が多いようだ。

 広い部屋に多量のモンスターが湧き出る部屋も確認。

 そして奇妙な話だが、アリアドルの旅団が一度この階層を路破……つまり地図を描きながらくまなく地下二階を探索し、全て調べたが、ナイトメアなるものがどこにもいなかった……という。

 しかしながら路破した噂は広まり、多くの者が地下二階に行くようになり……命を落とす者が出始めた。

 ここまでは理解したが、ふうむなるほど。


「これは恐らくギミックであるな」

「ギミック?」

「うむ。ある行程をこなさなければ出現しないモンスター。あるいは何かしらの捧げものをする場所があり、そちらに捧げものをすると現れるモンスターを倒すと道が開く……などであるな」

「そうか! バレッタさん、メモを……って気絶してる!?」

「スライムが出たときにはもう、意識を失ってましたよ」

「はぁ。仕方ない。報告用に私がメモしておこう」

「私もです。我々の活動において大きな参考になります」

「ドーグの旦那。異界ってのはそういったギミックってのがあるダンジョンが存在するのか?」

「うむ、そうであるな。ダンジョンは自然発生するものもあるが、魔王が構築するダンジョンもあるのだ。我の知人であった魔王など、地下九十九階のダンジョンを作り、ごっそり宝を用意したから攻略出来るものならしてみろと息巻いておった。その中のマル秘アイテムを我に依頼してきおってな。あのときは稼がせてもらったぞ。ぐわーーっはっはっはっは!」

「ぐわーっはっはて。ベリやんてすごいことしとったんやな……九十九階なんて気が遠くなるわ。うちなら絶対行かへんよ」

「地下九十九階か。俺は逆に行ってみてえな」

「結局誰も攻略出来ず、その魔王が取り壊してしまったのだがな」


 などと与太話をしている間に随分と遅い時間になってしもうた。

 

「マーク殿。これらの販売は許可してもらえるだろうか?」

「ええ。そちらのスライムを呼び出すものに関しては明日、販売して頂いて結構。今後そちらの件についてはバレッタを通じて相談させてください。本日はお邪魔しました。今度ゆっくりとまた酒でも飲みましょう」

「ううむ、我は酒より美味い食事をだな……」

「ああ、ベリやん。それ、うちがなんとかしたるわ。明日お客さん呼び込んだらうちは少し外してもええかな?」

「うむ? 構わんが一人で大丈夫か?」

「平気よ。そっちのバルゲンさんて人とメルミルちゃんとドータちゃんと四人で行ってくるから。心配せんといて」

「にっひひー。すっげー魔族の兄ちゃん。今度ゆっくりお話ししよーぜ!」

「ドータは馴れ馴れしいの。ね? 素敵なお兄様。私、あのときの夜が忘れられないの……」


 どっちが馴れ馴れしいのであるか!? あのときの夜とは一体なんであるか!? 


「メルミルの方が馴れ馴れしいだろ。こいつの冗トークってやつさ」

「冗談で言ってないもん。見てこの鎧! 絶対お金持ち!」

「あはは……うちの団員がすみません。さ、お前たち。長居し過ぎてしまったからkちんとお礼を告げて戻るぞ」


 そう言って一礼するアギトは笑顔を見せ、全員部屋から去っていった。

 マーク殿もルルを個室に案内すると告げて去り、残ったのは失神したバレッタとイーナ、そして我だけである。


「なんだか一気に賑やかになりましたね。つい先日まで私一人だったのに」

「すまぬなイーナよ。我が店を訪れたばかりに」

「いえ。私……嬉しいんです。父がいなくなり、私一人でどうにかしなきゃと必死でしたから」

「イーナの父上は亡くなられたのか?」

「まだ分からないんです。父はこのショッピングモールで地下五階層で働いていて。。私は遠方に母と二人、父の仕送りと農業で暮らしていました。ある日を境に父からの仕送りは無くなり、母は流行り病で他界しました。父にもきっと何かあったのかもしれないと思い……結果この通りです。私、それから一人ぼっちになりました」

「そうであったか……すまぬな。辛い話をさせたようだ」

「ドーグさんは?」

「我は既に父も母もおらぬ。だが、随分と昔のことだ」

「そうですか。でも、私もドーグさんももう、一人じゃありませんね」

「うむ。明日からじゃんじゃんと稼ぐぞ、イーナよ」

「はい! いっぱいお金を稼ぎましょうー!」

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