第13話 新たなサクリファイスを見るがいい! 

 便利道具屋イイナには鍵が掛かっておらぬ。

 どうやら開けたまま出て行ったようで、まったくイーナは不用心である。

 しかし室内に入ってぽつんと目立つように置かれた手紙と袋があった。

 袋は我が稼いだ金である。

 手紙にはこう書かれておった。


【これは私が稼いだお金じゃないので、食料品の分だけ頂きました。

 残りはドーグさんが使って下さいね。薬草は私を治そうとして使ってくれたものなので結構です。

 やっぱりお金は自分の力で稼いで支払いをしたいんです。

 ムイちゃんもいるし、ドーグさんから頂いた杖もありますから、ダンジョンでもう少し売れそうなものを集めてきますね! 

 お店、開けておきますけど取られて困るようなものはありません。

 寝室の鍵だけは閉めておきますけど! 

 それでは行って参ります。イーナより】


「……まずいですね」

「うむ、まずいな。我が勝手なことをしたばかりにイーナが販売する薬草が無くなってしまったのだな」

「ええ、ドーグさんにも責任はあると思います。急いで探しに行きましょう」

「ふむ。この際だ。試してみるか……」


 我の考え第一段階は、【モンスター共のパーティー】を組み、ダンジョンの階層に合わせたモンスター編成で階層にいるナイトメアとやらを倒す、あるいは素材や宝箱などを持ち帰ったり、モンスターの素材を集めたりすることだったのだ。

 まぁこれは、我が考える第一段階に過ぎぬがな。

 我はあらゆる道具などをモンスターに変化させるサクリファイス能力を持つ。

 これは我がベリ家に伝わる特殊な能力といえるであろう。

 無論この能力は変化させる元の材質により、生み出されるモンスター種族が同じでも、その能力に大きな変化がある。

 例えば鉄鉱石でも良質な鉄鉱石でアイアンスケルトンをサクリファイスした場合、その能力を調査すると、特異能力を保持しておったり、ステータス値にも大きな変化があるのだ。


「バレッタよ。我に秘策がある。我の部屋にこの道具を運ぶのを手伝うのだ」

「道具って、古代の秘宝と思われるこれですか?」

「うむ。イーナなら良しと言うであろう。というよりイーナでは使用出来ぬ」

「分かりました。当人を探すためですよね?」

「無論である」


 部屋が隣でよかったぞ。この道具はかなり重い。

 よくこのようなものを宝箱にしまえたものである。

 我の部屋まで運び終えると、バレッタはヘトヘトであった。


「……重すぎです。両手がちぎれるかと思いました」

「バレッタよ。少々休んでおれ。この鉄鉱石でよいか……鉄鉱石よ。その身を我が下僕に変えよ。サクリファイスアイアンゴブリンズ!」

「ギキーーーーッ!」

「ゲゲッ、ゲキャ、ゲキャー」

「うむ、お前たちは相変わらず騒がしいのである」

「ご、ゴゴ……」


 む? またバレッタが気絶しおった。

 やはりバレッタは相当疲れておるようである。

 ふむ、仕方ない。我のベッドに寝かせておいてやるか。


「ゴブリン共よ。バレッタを我のベッドに寝かせるのだ」

「ゲキャーー!」

「おい貴様……下手な真似をすれば我がただでは済まさぬぞ」

「ギキッ!?」

「うむ、それでよい」


 全くゴブリンというのは騒がしい上に品が無い。

 しかしこの程度の鉱石ではもっと上位の存在は呼び出せぬからな。

 素材袋にはいくつかの貴重なものもあったが……は使ってしまうには惜しい。

 鉱石ならまだ沢山あるので構うまい。


「よし、バレッタが寝ている間に早速作業に取り掛かるぞ。お前たちも手伝うのだ!」

『ギキーーー!』


 まずはそうだな。ドーグの魔道小瓶をもう少々作っておくか。

 それとパーティーとしてこやつらが戦うには、武器防具を装備させねばならぬ。

 そのうちの一匹にはリーダーをさせるため、昨日手に入れた装備一式を我が改造したもの、ドーグの魔道装備一式を身に着けさせよう。

 その一匹だけは等身大サイズでなくてはならぬ。

 残りはそうだな……形をなるべく変えろと言っておったか。

 なればどうだ、昨日のハレンチ娘のような恰好にしてみるか? 

 いやいや待て。あれはいくらなんでもあるまい。

 ゴブリンにあのような恰好をしたら、耳長あたりに焼き殺されるかもしれぬ。

 なれば、そうだな……そうか! イーナの前掛けがあればこそ、我は違和感なく客に商品が売れた可能性がある。

 モンスター全員にあの前掛けのような衣装を着せさせればよいか。

 しかし布系素材が足りぬな……ええい、全てモンスターの色をピンクに統一して今は代用しよう。

 探索と言えば耳や鼻が利くモンスターがよいな。

 つまり……「よし、残りの貴重鉱石を一つ使うとしよう……ううむ使い捨てにせねばならぬ現状勿体無いが……その身を我が下僕に変えよ。サクリファイスオークヘヴィナイト。……よし、残りは適当な鉱石でよい。サクリファイスソーサナーラビット、サクリファイスマジシャンズスケルトン!」


 うむ。全員見事にピンク一色である。

 良質なレア鉱石、魔金鉱石をオークソルジャーに変え、残りは適当な鉱石でソーサナーラビットへ。これは聴覚に優れた小型のモンスターである。それと魔法攻撃が得意なマジシャンズスケルトンである。これにアイアンゴブリン二名を足した五人パーティー。

 まずはこれでよかろう。

 現状オークヘヴィナイト以外武器は所持しておらぬ。

 マジシャンズスケルトンは武器無しでも魔法は撃てるが、杖の代価品が必要であるな。

 ふむ……時間もあまりかけられぬし、鉄の杖でよいか。


「よし、ゴブリン共よ。我の作業をさらに手伝うのだ」

「ううーん、ゴブリンが……あれ、私また気を……」

「ギキー!」

「フガフガ」

「キュイーー、キュイー」

「……」

「うむ? 寝ながらにして起き上がり仕事をしようとしておったのか。しかしそのまま力尽きてしまいおったわ。無理をする娘であるな。よし、まずは金属を溶かし鉄の箱を造るところからである。冷却を手伝え、マジシャンズスケルトンよ!」


 ――うむ、ひとまず無骨な身を隠せる装備も完成したぞ。

 全てを隠し通せぬが、顔が見えなければどうにかなるであろう。

 うむうむ、ソーサナーラビットなどまるで動くピンクのゴミ箱よ。

 と思ったら、誰かが部屋を突然開けおった。

 ええい、鍵をかけることも忘れておったわ。


「あれ、この部屋でもちゃうなぁ。おっかしいなぁ……って昨日のけったいな恰好したお兄さ……」

「うむ? 我の部屋にノックせず入るとは。危険極まりないことをする者であるな。一体どこの者であるか」

「え? 何これ? やっぱコスプレ趣味なん? へぇー、すっごく凝ってるわぁ。何その槍みたいなもの。先尖っとるし危ないで?」

「ううむ、騒がしい奴め。しかしどこかで見たような……」

「昨日会ったやん。うちようち。水本流留奈。覚えてへんの?」

「むむ? お主は確か……そうだハレンチ娘であるな?」

「誰がハレンチよ、誰が。ビキニ言うてもいろいろあんねんて。うちのは控えめ、胸も控えめってな。って誰の胸が控えめやねん!」

「ううむ、なんという早口な呪文詠唱であるか……」

「誰が呪文唱えた言うてんねんって……あれ。そこで寝てるのってバレッタちゃん?」

「うむ。気絶しておる」

「もしかしてバレッタちゃんに変なことしたの? うち許さへんで?」

「いや、バレッタは連日の仕事で疲れておるのだ。気にするでない」

「何それ。うちバレッタちゃんに便利道具屋イイナってとこに来るように言われてたんやけど。おらんかったから部屋間違えたかと思うてここに入ったんよ」

「そうであったか。お主のことはマーク殿より聞いておる。我、そしてイーナと共に仕事をするのであったな?」

「うち、めっちゃ困ってんねん。お家に帰りたい……」

「ふむ。我と共に研究を進めれば、あるいはこの世界でも転移方陣が作れるやもしれぬ。その時はお主の世界に帰れる可能性が無いわけではなかろう。まだ分からぬがな」

「ほんま? ほんまに帰れるの? やる! うちなんでも手伝うさかい頼むわ」

「うむ。だがな……今は先にやらねばならぬことがある。早速だがハレンチ娘よ」

「だから水本流留奈言うてるやろ! そうやな長いっちゅーならあれやで。特別にルルって呼んでもええで?」

「ふむ、ルルか。ハレンチ娘より良い名を持っているではないか」

「そもそもハレンチ娘を名前として認識してたんかーい! んま、しゃーないか。ここ異世界言うてたしな。お兄さんはなんて名前?」

「うむ、よくぞ聞いた! 我が名は……ドーグさんである」

「ふうん、ドーグさんさんいうんやね」

「ドーグさんさんではない! ドーグさんである」

「なんやちゃんと突っ込み出来る人やん。安心したわ」

「我は出来る人ではない。これでも! ……ドーグさんである」

「名前はもうええて。したらうちは何を手伝えばいいん?」

「そうだな……」

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