第12話 二階にある食事処は美味くないではないか
「父上。どうして魔族は隠れてくらさないといけないの?」
「力が強すぎるためだ。我ら魔族は簡単に他種族を葬り去ることが出来る。だが、その強すぎる力は周囲から恐れられ、滅ぼすべきものと忌み嫌われる力だ」
「だったらみんな殺せばいいよ」
「魔族は魔族のみで生きていけぬ。魔族は他種族があればこそ生存できる種族だ。ドーグよ、この意味が分かるか?」
「怖がられるのに守れってこと?」
「そうだ。我ら魔族は他種族と違い……力はあれど、存在するだけで魔が強く、作物を育てられぬ。食い物をまともに作ることが出来ぬ。花も育てられぬ」
「だからお家、こんなに怖いの?」
「……ドーグよ。お前はどのように生きたい。どう振る舞っていたいのだ? お前も俺の息子だ。必ず魔王になるだろう、そのときは……」
――む、気付いたら眠りこけておった。
ここは静かでよい。今のところ勇者などが襲って来る心配も無いであろう。
さて……資料も大体読み終えた。
しかし……「腹が空いたな」
「失礼、ドーグさんは在宅かな?」
「うむ? この声はマーク殿か。構わぬ。開けるがよい」
「お早うございます。よく眠れましたか? 実は今朝、バレッタさんには別の仕事を頼んでしまいましてね。ドーグさんへの相談事が増えたので、食事でもしながらお話をどうかなと思いまして。ちゃんとご馳走しますから」
「うむ? そういうことなら行ってやらんでもない。ぐわーっはっはっはっは!」
実に良いタイミングではないか。
バレッタに飯を振る舞えなどと、昨日の状況から見て言えたものではない。
しかしこの男であるならば問題なかろう。
「その前にこちらが契約書だ。資料もほぼ全て目を通しておいた。問題はない。このダンジョンモールについてかなり分かったぞ」
「ええ!? たったの一晩でですか? ご冗談でしょう。五百ページはあるんですよ」
「問題ない。何せ我は……ドーグさんだからな?」
「はっはっは……契約書はお預かりします。それではダンジョンモール二階まで参りましょう。中央塔より二階へ向かうには二通りありますが、移動方陣を使うのが早いです」
マーク殿についていくと、昨日同様中央塔へと案内される。
昨日の帰りは馴れ馴れしいハレンチ娘以外おらなんだが、今日はかなりの者たちであふれかえっておる。
「少々混んでいますが、二階はそうでもありません。理由は食べてみれば分かりますが、後日にでも感想を聞かせて下さい」
「ふむ、二階全てが食事処なのか。地下一階には食糧を売る道具屋もあるであろう?」
「ええ、そちらは主にダンジョンへ用いれる携帯型食糧売り場ですね。これから向かう二階はダンジョンへ持ち込む食糧の販売は一切禁止しています」
――ふむ。昨日利用したような移動方陣に乗り、二階とやらに着いてみると、我の知らぬ世界が広がっておるではないか。
個性的な作りの店、店、店である。
しかし……閉まっておる店が多いな。
「実はダンジョンと一体化してから店を辞めた方が多くて。こちらでは店舗募集もしているのですが、店舗を持つ方は少なくて」
ふうむ。ダンジョンがあり、他種族が集まり、なおかつ交流が出来る場所であれば、店を持ちたがる者は多かろう。
そうなると何か理由がありそうであるな。
マーク殿が選んだ適当な店に入ると、客は多いが大したものは売ってないように思える。
我が頼んだのはスープに麦を煮込んだものに小さな肉である。
これならまだ、イーナの店で食べたものの方が美味そうである。
「ふう。大きい声では言えませんが、食事処がダンジョンモールの一つの悩みですね。そうそう、早速ですがドーグさん。昨日、水本さんという方と知り合いましたよね?」
「ふむ? 水本……ハレンチ娘のことであるな?」
「ええと……ハレンチ娘?」
「うむ。下着一丁でふらふらしておったのでな。我とバレッタが注意をしてやったのだ」
「ええと、恐らくはその娘です。実はその方も監視対象になると思うんですが、担当がバレッタしかつけられないんです。それで、一カ所どころにまとめて監視したくてですね……彼女も行き場がないため、便利道具イイナで一緒に働かせてあげられないかと思いまして。バレッタさんにはイーナさんにその提案をしてもらってるんですよ。こちらとしても厄介ごとをお願いするわけですから、イーナさんの道具屋店舗料金をしばらく半額にするということで持ちかけております」
「うむ。我としては小間使いが大いに越したことはない」
「はっはっは。ドーグさんならそう言ってくれると思いましたよ。話は変わりますが、必要となる機材の目星はつきましたか?」
「うむ。重さを
「ちょっとお待ち下さい。いくつかご用意出来ないものがあります。それらは今後話を詰めて行いましょう。用意出来るのは、重さを
「うむ。それと金属を冷ますための設備も欲しいのだが……」
「金属をですか? 溶かすのは魔法で?」
「いや、昨日手に入れた道具でな。実に便利であったが、昨日使用した際には苦労したのだ。仕方なく鉱石の一つをモンスターに……」
「……これは食事処ですべき話ではありませんね。やはり一度、私の目でも確認せねばならないようです」
ふむ、考え込んでしまったな。
しかし、イーナの焼いた穀物が食したいものである。
この店のスープなども実に味気ない。
いや、だからこそ道具屋で食べ物が売れるのか。
しかし、この世界の者共をもっと多くダンジョンモールへ呼び寄せるには、二階の改革も必要であろうな。
そうでなければ我の道具をこの世界におる多くの者に知らしめることが出来ぬ!
――馳走になった例をマーク殿に述べ、我は一人で便利道具イイナの店へ向かう。
ちょうどやつれ顔のバレッタがその入口前におった。。
「バレッタよ。疲れておるようだな」
「お早うございます、ドーグさん。はぁ……立て続けに問題が起こって疲れていますが、顔に出ていますか?」
「うむ。きれいな顔が台無しであるぞ」
「からかわないで下さいよ。ちょうどイーナさんに伝えようとしていたんですが、先にドーグさんにお伝えした方がいいのかな」
「昨日のハレンチ娘のことであるならマーク殿から伺ったぞ。我としては問題ない。後はイーナがどうかであろうな」
「そうでしたか。耳が早いですね。イーナさん、いますか? 開けますよ」
「む? イーナめ、寝坊しておるのか? ムイよ。出てくるのだ」
むう。人の気配がせぬな。
ムイの気配までしないではないか。
これは一体どういうことだ?
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