第11話 我以外の転移者に遭遇である

 中央塔地下一階に戻ったのだが、活発そうな黒髪娘が何かを叫んでおる。

 妙に馴れ馴れしい感じの娘であるが、なんという恰好をしておるのだ! 

 下着しか身に着けておらぬではないか! 。

 あれでは悪漢に襲われでもしたら身を守れまい。


「なんて恰好をした人でしょうか。私から見ても目のやりどころに困ります」

「ちょっと聞いて? 友達とプールで泳いでたんよ。そしたら突然水に流されてしもうたん。気付いたらこんなとこにおってな。ほんま驚いたわー。それでな? とりあえず服、貸してくれへん? うち水着のままやからここやと寒くて、な? ほんま頼むわぁ」

「落ち着いて下さい。私のローブを貸しますから。ドーグさんはこちらを見ないで下さい!」

「我は何も見ておらぬぞ? 安心するがよい。ぐわーっはっはっはっは!」

「さっき見てましたよね……はぁ。この下着……水をかなり吸い込んでますね。大丈夫ですか?」

「ん? これ水着やし。何言うてるの? 見たらわかるでしょ?」

「水着……いえ、水に関わる着衣ですか。いくら何でも下着一枚は可哀そうです。ドーグさん、お部屋の案内は少しだけ待って下さいね」

「うむ。我なら構わぬぞ。してハレンチ娘よ。貴様はどこからやって来たのだ?」

「誰がハレンチ娘やって? ……そういえばここ、コスプレ会場か何か? うち一体どうなってしまったん? 頭ぶつけてパーになった? よー分からんけど美奈も里子もおらんし、うちどうしたらいいんやろ……めっちゃ不安になって来たわ」

「ぐわーっはっはっはっは。案ずるでない。そこのバレッタは存外親切な娘なのだ。魔王船にでも乗ったつもりでおるがよい」

「魔王船? けったいな恰好のお兄さんなかなか愉快な表現するやん。あんな。うち水本流留奈みずもとるるな言います。しゃべり方聞けば分かると思うんやけど、こてこての関西人やで。名前に水がつくだけにな、よー流されてしもうたんよ。あはは……分かる? これ、水だけにやで? 笑うとこよ? 聞いてる?」

「……ドーグさん。もしかしてこの方、ドーグさんと同じ異世界転移者かもしれません。それに酷く頭をぶつけたようです」

「なんだと!? つまり貴様は勇者か!」

「へ? うちが勇者? ちょっと何言うてるの。おっかしー。うちが勇者? ゲームの? 好きやけどな。そういうの好きやけど無いわー。勇者……ふふふ。あかん、つぼったわー。うちが勇者? くっ……おっかしいー」

「ふむ。勇者ではないと申すか。しかしよく笑う娘であるな」

「……着付けはひとまずこれでいいです。下着は見えませんから」

「ありがとな。紫の服、結構かわええな。うちに似合うとる? まぁ下着ちゃうねんけど。水着くらい見えても平気やで? な? そっちのお兄さん」

「何を言うておる。人族の娘はうかつに肌を露出ろしゅつするものではない。イーナもきちんと隠しておるぞ」

「あら彼女さんおるん? 残念、ちょっといい男やなーて思ったのに。それでな。うち迷子やねんけど、ここどこなん?」

「……主任がまだいますからあなたは一緒に来てください。ドーグさんはこちらで少々お待ちを。なるべく早く戻りますから」

「ん? ん? 何? どこ?」


 騒がしい娘を連れて再び移動方陣で上へ昇っていく紫色娘。

 うむ、心労絶えぬ娘である。今度我特製のポーションを作ってやるとしよう。

 ――そして紫色娘だけが降りて来た。

 大きくため息をつくと、ようやく我の研究室へ案内してくれることになった。

 研究室はイーナの店の隣である。

 そこそこの部屋ではあるが、道具はまだなく、ベッドと椅子にテーブルがあるだけだ。

 今日はバレッタに渡された資料とやらに目を通して終了であろう。

 そうだ、一つバレッタに質問しておくべきであった。


「バレッタよ。我はなぜこの世界の文字が読めるのだ?」

「このモール全体に掛かっている言語理解の魔法による影響です。これほど多くの種族が干渉出来るのは、世界中みてもここだけでしょうね」

「強力な結界構築士もおるのであろう?」

「はい。商売をするならこのモール側だけでも覚えることが多いです。資料はこちらに置いておきますので、何日かかけて読んでおいて下さい。試験もパスなんてちょっとずるいです、ドーグさん」

「ふむ? 試験まであったのか。だが我は……ドーグさんだからな。当然である」

「何が当然なんですか。私、今日は疲れたので失礼しますね。明日の朝モール内を案内しますからお部屋へ伺います」

「うむうむ。大儀であった!」


 ようやく我の時間である。

 久しぶりにこの資料の束……の前に契約書とやらを確認しようではないか。

 どれ……。


【ダンジョンショッピングモール出展者用契約書……及びグルマイヤー・マークとの契約書】


 ふむ。これは後から書き足されたような感じであるな。

 内容はおおまかに、我はダンジョンショッピングモールの主任との契約となる。

 不祥事はマーク殿が責任を負うこと。

 販売物は資料にあるもの以外でも許可すること。

 ただし購入する客に被害が出ないか確認をすることを許可してもらうこと。

 定期的にマーク殿が作って欲しいものを相談しに来ること。

 新商品は出来る限り試してから販売すること。

 試す役割を担うのは監視対象者であること。

 ダンジョン攻略も許可。

 ナイトメア撃破許可を含むあらゆるダンジョンに関する項目を許可すること。

 同時に冒険者登録を可能とすること。

 冒険者にクエストの提供を許可すること。


 ……なんと多い項目数か。

 しかしおおまかにはこれらが主である。

 こちらに都合が悪い項目は見当たらぬが、きっちり金を納めなければ退去させられるのは間違いないようだ。

 それにしてもマーク殿はどうやら悟っておるようだな。

 我が優秀な道具を造るということを。


 明日はイーナの下へ顔を出し、我のダンジョン探索における実験をするため、モンスター共を……くっくっく。楽しみである。

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