第10話 ダンジョンモールの真実とは、かにも深いものであるか。

 外に映る景色といい、マーク殿の目に掛けているものといい、侮れぬ技術があるようだ。

 

「まず初めに、ドーグさんは本日初めてダンジョンモールに来たんですよね?」

「うむ。実はだな……」


 これまでの経緯を、我が魔王であること以外話してみるとしよう。


「……つまり、異世界転移ですか。実はここ数日、同じ例が数件報告されていたんです」

「なんだと? 我以外にもこの……モシモシラッキーという世界へ来てしまった者がおるのか!」

「モシャストラッピーですよ……」

「そうなんです。そして……それはここ、ダンジョンモールのダンジョンも含めてね」

「なんと!?」

「実は本来、この場所はただのショッピングモールだったんです。人々が集まり買い物をするために建てられ、規模も大きくなりました。地上五階地下五階で構成されていたんです。そして突然地下層がダンジョンと一体化し、地下で働いていた方々と連絡が取れず、通路も無くなってしまったんです。そして地下一階を攻略すると、地下二階への道が現れ、その先にいて戻って来れなくなっていた方々が救助されました。そこで働いている人は無事です……というか、解放されるまでの記憶がありませんでした」

「つまりこのダンジョン自体が異世界から来たダンジョン。そしてこのモール側ではダンジョン攻略を進め、取り残された他の階層者を助けたい。そういうことであるか」

「分かりやすく言えばそういうことです。封印……なんて言葉が適切かもしれませんね。我々は冒険者を集め、クエストを発行して冒険者たちに実力をつけさせて、地下階層攻略を目指しています。商売をしながらですけどね」


 ふうむ、我にはあまり関わりたくないことであるが、我としては道具を売りこむ機会にはなるか。


「ランダムに地形が変わるダンジョンであるがゆえに、攻略が困難ということだな」

「その通りです。そして階層のどこかには階層支配者であるモンスターがいます。これを我々はナイトメアと呼んでいます。このナイトメアを見つけ撃破出来れば、さらなる地下階層へ進めるはずです。地下一階層でナイトメアの報告は、撃破されてから一度もありません」

「ふむ、ナイトメア……悪夢か」

「ええ、実に分かりやすい区別でしょう? そして現在、地下一階のナイトメアを倒した勇者とも言える人物がいます」

「ゆゆゆ、勇者だと!? 我はそのような者に会いたくはない!」

「はっはっは。彼はダンジョンに入り浸りですから。それにドーグさんはイーナさんと共に道具屋をやりたいのでしょう?」

「うむ! その通りであるぞ。勇者などのパーティーになど入らぬからな!」


 びっくりさせるでない。早速我の邪魔をしに来る者がいるのかと思ったわ。

 

「ダンジョンとモールの関係については理解して頂けたかと思います。ですが一つ確認があります。先ほど転移と伺いましたが、全ての転移者は、ここ中央塔に転移されています。そして彼らに共通するのは、元の世界に帰れないということ。ドーグさんはこの中央塔に転移した。そうですね?」


 む……それは違うようである。

 我はゲートをくぐったらイーナの道具屋の扉を開けたところにおったな。


「我はこの中央塔から入って来てはおらぬ。ゲートをくぐったらイーナの道具屋におったのだ」

「……その転移方法といいうのはドーグさんが転移方陣に乗り、魔法を発動させて行ったのですか?」

「違うぞ。我が開発した簡易用転移方陣を使用したのだ」

「あなたは転移方陣を作れる……で間違いありませんね!?」


 ふむ。少々目の色が変わったな。

 我に大分興味を持たれたようだ。

 紫色娘が手を挙げておるな。


「あの、主任。ドーグさんは三つの違反を指摘するという話で連れて来たんじゃないんですか? それでは話があまりにも違いますよ」

「確かにそうだね。その三つについてはさらっと説明しましょう。一つ目、ダンジョンモールで値札の付いた商品を購入する際はお金を必ず払うこと。二つ目、モール内での無断転移を固く禁ずる。簡単に盗難されちゃいますからね。三つ目、獣魔契約をしたモンスターを連れ歩く場合、速やかにモール側受付に報告し登録すること。モンスターと間違われて退治されないためです。この三つ目が問題だったんですが……私の方で握りつぶしておきます。他にも細かいことはありますが、問題となったのはこの三つだけです」

「主任、問題の三つ目について追加報告が。獣魔契約を探知出来ないモンスターを確認しました。スライムとスケルトンでしたが、スケルトンは消失しました」

「バレッタちゃん。そのスライムとスケルトンは君に危害を加えたのかな?」

「いえ。スライムは私が目を覚ますまで見ていただけのようですし、スケルトンは怪しい踊りを踊っていましたけど無害そうでした」

「怪しい踊り……それももしかしたらドーグさんの力によるものでしょう。ネクロマンサーは珍しい能力をお持ちですから。ただ、お店での使用は今後控えて頂きたいのですが……いえ、こちらは少々相談があります」

「うむ? 我に相談とな?」

「もしかすると、ドーグさんは様々なモンスターと契約したり、モンスターを使役させて何かを命令……例えばダンジョンを探索させたり出来ますか?」

「可能である。我は開発に忙しいので今後はそうするつもりであったのだが……」


 ふむ。かなり深く考えておるようだ。

 しかしこれが通らねば何か方法を考えねばな……。


「外見を大きく変えさせたりすることは出来ますか? 例えばスケルトンに鎧を着せて、人型のように見せる……とか。小さいサイズで活動させるなどは?」

「主任!?」

「可能である。なにせ我は……ドーグさんだからな?」

「では契約をしましょう。バレッタちゃん、契約用紙を取って来てくれるかな。ドーグさん、店舗はイーナさんと同じでいいですね?」

「主任がいつも持たせているものがありますよ。こちらです」

「……ちょっと契約内容を書き足しておきます。ここがこうであーで……よし、これをバレッタちゃんに渡しておきます。後ほど部屋へ案内しますので、問題なければ記入し、後日バレッタちゃんに渡して下さいね」

「ふむ。よく分からぬが我の研究室を手に入れられるのだな?」

「ええ。ドーグさんに個室を用意します。店舗としては使用出来ませんが、店舗備え付け個室とは異なり、それなりに広く作業にも向いています。この個室はもちろん無料ではありませんし、導入する設備によって支払い金額は上がります。先払いではなく後払いですから、支払日までにレギオンを稼いでもらえれば結構。まぁ言うなれば、借金の肩代わりのようなものですね」

「我が指定する道具を用意出来るのかどうか分からぬが、何レギオンほど掛かるのか聞いてもよいか?」

「部屋代金のみで一日百レギオン。導入出来る大型機材一つにつき五百レギオンといったところでしょう。細かくはバレッタちゃんに聞いて下さいね」


 紫色娘はものすごく嫌そうな顔をしておる。

 嫌がっておるのであれば避けるべきであろう。

 我は強制したりなどせぬ。何せ我は寛大かんだいな魔王であるからな。


「紫色娘よ。無理をするでないぞ。立場が上のものであろうと具申することは悪いことではないのだ」

「ドーグさん良いこと言いますね。その通りですよバレッタちゃん」

「では先ほども言いましたが、バレッタちゃんは止めて下さい。せめてさんと呼んで下さい」

「嫌がってるの、そこだったんですか……へこむなぁ。さん付けだとなんかしっくりこないけど分かりました……とほほ」

「私はドーグさんが物を売っているときの姿勢を確認しましたから、お二人の違反監視任務を行うことに不服はありません。よろしくお願いします」

「ふむ、違反監視の役目を請け負うのであるか。それは具体的にどのようなことをするのだ?」

「しばらく一緒にお店で働くことになりますね」

「ただの商売仲間ではないか。うむうむ、紫色娘よ。よろしく頼むぞ」

「はぁ……その呼び名も止めて下さい。私はバイアレッタ。確かに長くて覚え辛いかもしれません。バレッタでいいですから」

「ではバレッタよ、早速我の研究室に案内するのだ」


 どのような罰を受けるかと思えば、我の研究室を手に入れたぞ! 

 どちらにしても今の環境、状況で勇者に出会ったらひとたまりもない。

 まずは金を用意する必要があるが、今日の売り上げを見る限りきっと余裕であろうな。

 と、元来た移動方陣とやらに乗り下に降りると――「なんや誰か降りて来おった! おーい、おーい! ちょっと助けて欲しいんやけど。ここ、どこぉーー!?」


 ……一体何なのだ。我は部屋に戻り今後のことをだな……。

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