第9話 飛ぶように売れたぞ! 

「ええっと……どうなってるんですか? いえ、どうなっちゃったんですかバイアレッタさん、これぇーー!?」


 いいぞ、実に売れるではないか! 

 客のこの眼の色。やはり商売は魔族同士より異種族混合に限るわ。


「どうだそちらの……耳長族の娘よ。この魔道小瓶は凄いのだ。試しに飲んでみるか? この小さい入れ物も我が考えた味見ようのものだ。あのまずい薬草がこうも早変わりするのだぞ。そして何より我が作る回復薬は魔王の間で舌づつみが上がるほど美味いのだ! しかも保存も効く上、ここでしか売っておらぬものだ。数に限りがある。早い者勝ちというやつだぞ?」

「……美味しいし本当に回復薬だわ、これ。買うわ! 薬草がこんなに美味しい飲み物になるなんて。しかも持ち運び便利で即効性? 一つ五百レギオンなんてばからしいと思ったけど、この瓶ももらえるのよね?」

「うむ。そちらの小瓶の方が価値があると言っても過言ではない。なにせ我が作ったのだからな! 絶対にその辺に捨てるでないぞ? ぐわーっはっはっはっは!」

「お兄さん。こっちも買うぜ。いくらだ?」

「うむ、屈強そうな戦士の人族よ。その巻物は一つ二百レギオンだ。なかなかに広い範囲を攻撃出来る優れものであるぞ。戦士は囲まれると苦しい。きっと役に立つであろうな」

「ねえ、もっといろいろな道具を売って欲しいのだけど。もっと無い?」

「おい、この店だろ。珍しい道具売り始めたって外の壁に張り出されてた噂の店って」


 うむうむ。娘たちがちっとも起きぬので、ついでに商売も初めてみたが……我の作戦は上手くいったようだ。

 魔王同士で道具を売るにはどのような商品があるのかをリスト化して紙に書き、それを目立つようにして貼るのだ。

 すると周囲の者たちが見つけて噂を始める。

 これが我のやり方だ。

 まぁ作ったのは魔道小瓶五つ分と飲むタイプの回復薬、ポーションである。

 それとイーナが売りたがっていた巻物と、鉱石の中にあった銀鉱石を加工して魔力を流した魔銀の水入れ一つである。

 この魔銀の水入れは一つ三千レギオンで真っ先に売れおったわ。


「うむ。釣りがないのでちょうどで頼むぞ。よし、今日はこれで完売である! 皆、大義であった。近いうちもっと珍しいものを仕入れておこう。多くのものを連れて来るがよい! 多く連れて来たものは特別にまけてやるかもしれんからな?」

「じゃ、なーーい! ドーグさん、一体何やってるんですか。それ、私の前掛けじゃないですか!? ……ちょっと似合ってて可愛いかも」

「……もしかして私たちがいない間にお客さんが来てしまい、対応してくれたんじゃないですか」

「ええっ!? だとしたらまずいですよね。まだドーグさんを雇用したと、届け出ていませんし」

「いえ、確かに良くはないですけど、一番良くないことはお客さんが何も買えずに帰ってしまうことです。つまりその人がやったことは正しいことだと私は判断します」

「ふむ。紫色娘よ。我はその人などではない。我は……ドーグさんである」

「はぁ。イーナさん、売り切れたみたいなので店を閉めてもらえますか?」

「分かりました。行ってきますね」


 うむ、売るものが無ければ店じまいはやむなしである。

 片手間で作ったようなものであるが、わずかな時間で完売したな。 

 我の手に掛かればこのような道具……今のところイーナには作り方などを秘密にしておくか。

 イーナが店じまいをしに行くと、紫色娘がじーっと怪しんで見ておる。

 うむ……またひっくり返るつもりではあるまいな。


「ドーグさん。あなた、普通の入り方でダンジョンモールに入りませんでしたよね。考え辛いのですが、もしかして……転移で来たんですか?」

「む? よく分かったな紫色娘よ。我は確かに転移で参った」

「こことは別の場所でお話しないといけません。嫌とは言わせませんよ」

「よかろう。我もこの場所について知りたかったのだ。ムイよ、大人しくイーナと留守番しておるのだぞ」

「ピキーーー!」


 入口で店じまいをしているイーナに稼いだ金全てを預け、紫色娘についていくと、左回りに歩き出す。


 この時間は人……いや客が多いようである。

 我とイーナがダンジョンに向かうときはほとんどおらんように思えたが、今は活気に満ちておる。

 戦士、魔法使い、僧侶、吟遊詩人に踊り子、弓使いにおかしな機械じみた道具を持つもの、それにあちらにはネクロマンサーか。ドルイドやバーバリアンもおる。ドワーフ族、耳長族にラールフット族、ふむ、人族が多いが多種多様な種族がこれほど一堂に会する場所であったとは。

 これはまた、種族における特徴的な商品を作ることもやぶさかではあるまい。

 ――などと考え老けりながら進んでいくと、最奥までたどり着いた。

 そこに中央部分へ入るための扉があるではないか。

 中に入ると円形の中に魔法陣が刻まれておる場所が沢山ある。

 これは高度な転移方陣であろうか? 

 いくつかは機能しておらぬようにもみえるな。


「ここがダンジョンショッピングモール中央塔。ドーグさんには三つ、禁止事項に触れる項目があります」

「ううむ、我はその禁止事項とやらを知らずに行った可能性が高いのだが?」

「ええ。ですから三つのうち二つに関しては事情説明を行うだけで済むと思います」


 ふうむ。なればこのような場所に来て説明せずともよいではないか。

 

「ただ、三つ目が問題です。こちらの移動方陣に乗って下さい」


 指し示したのは部屋にある転移方陣のようなものであったが、移動方陣というのか。

 これは我が知る転移方陣と異なる造りだ。

 魔力供給せねば使えぬのが転移方陣であるが、これは魔力を供給する部分がどこにも無いではないか。

 これでは動かぬはずだが……「どうぞ。安全なものですから」

「う、うむ……これは!」


 驚いたぞ。転移というより乗った場所から上に登りよった。

 上は部屋になっており、目の前には巨大な透明板の壁。つまり暗い夜の世界が見えるのだ。

 あの壁はどのような作りなのか気になるが、かなり高度で精工に造られたものである。

 立派な机、そして人族がおる。目に掛けておるものはガラス細工か。見事な作りであるな。

 ……こいつはまさか人王というやつか? 


「主任。連れて来ました」

「随分遅かったね、バレッタちゃん」

「ちゃんは止めて下さい。これでも二十五ですからね」

「ごめんごめん。上司って部下の呼び名に困るんだよねぇ」

「では、私はこれで」

「おっと待った。それは無いでしょうバレッタ君」

「君も止めて下さい。これでも女ですから」

「……はぁー。あなたも難しいと思いませんか? 女性の呼び方って」

「そうであるか? この娘など、とても分かりやすいぞ。紫色の格好をしておるから紫色娘。それでよいではないか」

「よくありません!」

「ううむそうか。紫色娘では少々呼び辛いか。なれば紫娘に短く……」

「はぁ。主任、私も残らないとダメですか? 少し頭痛がして」

「なんと! イーナのベッドを借りて休んでおったのに、無理をして起きて来たというのか。それはいかんぞ紫色娘よ!」

「……寝てたのばらさないで下さい」

「おや、バレッタちゃんは仕事中にベッドで居眠りを……」

「分かりました聞きますから! 本当、主任っていじわるですよね」

「はっはっは。まぁ君は仕事熱心だからさぼってたなんて思ってないよ。さて……改めまして自己紹介を。私はここ、ダンジョンショッピングモール……通称ダンジョンモールを管理している者の一人。グルマイヤー・マークと言います。マークでもグルマイヤーでもお好きに呼んで下さい」

「ふむ、グールは嫌であるか、そうかそうか。我は……ドーグさんである」」

「グールはイヤ……ではなく、グルマイヤー・マークですよ。まぁ、グールは苦手なんですけどね。ドーグさん、よろしくお願いします」

「それで、我に話があると聞いたのだが?」

「ええ、実はですね……」

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