第8話 ドーグの魔道小瓶である! 

 我が命令すると、早速スケルトンシーフが罠外しに掛かる。

 こ奴はスケルトンなのに手先が器用であり、我はちょくちょくこやつに細かい作業をやらせておった。

 だが、こ奴は色々と試した結果、ハデス硬貨からしかサクリファイス不可能な特殊個体であることが分かっている。

 ハデス硬貨が仕入れられぬ以上、あまり多用は出来まい。


「へー。罠ってこんな風に外すんですね」

「どうやら爆発の罠であったようだ。この罠が発動すると、周囲一帯を吹き飛ばすようだ」

「怖っ! でも大丈夫なんですよね? もくもくと宝箱に仕掛けられた罠をいじってます……一言もしゃべらないですね」

「スケルトンは最上位以外しゃべったりはせぬ。骨を震わせる程度であるな」

「ふーん。なんだか可愛く見えてきました。他の宝箱は開けてもいいんですか?」

「構わぬぞ。よく分からぬものは我が調べよう」


 うむ、罠はスケルトンシーフに任せて三つの宝箱を確認しようではないか。

 一つ目は……鉱石がこれでもかと敷き詰められた箱であるな。

 これは重すぎて我がいなければ全て持ち帰られぬであろう。

 我のお陰であるな! 

 二つ目は防具一式のようである。

 三つ目は素材袋と大量の様々な薬草、そして巻物である。

 

「売れるもの、ありましたよドーグさん! 見て下さい! 巻物と薬草がこんなに。よかったー……」

「イーナよ。その素材袋を預かってもよいか? それと鉱石類もだ」

「ええ、素材袋なんて売れませんし。薬草と巻物は販売してもいいですか?」

「構わぬがイーナよ。その薬草、再びそのまま売るつもりか?」

「はい。全部売れればかなりのレギオンになるかと!」

「飲み薬に加工して売らぬか? 我は魔法の小瓶を創造する能力に長けておる」

「魔法の……小瓶?」

「うむ、そうだな……説明してやろう」


 魔法の小瓶とは、回復薬などを保存し、効果を保つための入れ物である。

 しかーし! 我の作る魔法の小瓶は一味も二味も違うのだ。

 名付けて……ドーグの魔道小瓶。

 これに薬草などを飲み薬として入れておけば、一つ上の効果となる。

 つまりただの回復薬は上回復薬となり、魔力回復薬は上魔力回復薬となるのだ。

 これぞ我の持つ特殊な能力のうちの一つである。

 ……とイーナに説明していたが、首を傾げているだけではないか。

 ううむ、まずはこの鉱石を調べ加工せねばならぬな。


「イーナよ。要するに、我に預ければ高く飛ぶように売れる商品を作れるということだ」

「そうなんですか? それなら……薬草はお預けします。巻物は売ってしまっても?」

「ふむ、この巻物は範囲攻撃可能な巻物のようだ。扱いには注意するのだぞ」

「そうだドーグさん。こちらが店舗備え付けの資料です。少し目を通してもらえますか? というか読めますか?」


 そういえば我はこの世界の者ではないが、文字や言葉などは違和感なく理解出来る。

 これはどういうことであろうか。

 しかし、イーナが差し出した資料は我の好物である。

 出来ればじっくり椅子にでも座り読みたいのだが……「この資料を確認する前に、スケルトンシーフの罠解除が完了したようであるぞ、イーナよ」

「本当ですか!? 最後の宝箱さん。どうかもう少し売れるもの、お願い!」

「はっはっは。そうであるな。スケルトンシーフよ、祈願の踊りを舞うのだ!」


 うむ、実にあほうな踊りを始めたな。

 この踊りはスケルトン特有のものであろうか。


「ふー。すみませんベッドをお借りしてしまったみたいで……」

「ピキーー!」


 ふむ。ムイが紫色娘と一緒にやってきたぞ。

 ちょうどよいタイミングではないか。


「紫色娘よ、目覚めたか」

「……ス」

「す?」

「スケルトンーーーー!」


 むう。またひっくり返ってしまったぞ。

 これは恐らく、固有能力【ひっくり返る】を所持しているに違いあるまい。


「あはは……バイアレッタさんって結構愉快な人ですね」

「そうであるな。またベッドまで運んでやるとしよう」

「……だい、じょうぶです。気絶してませんから。一体このスケルトンをどうやって連れて来たんですか?」

「これは我が創造したものだが?」

「つまりあなたの仕業で間違いないんですね?」

「うむ。それよりもイーナよ。罠が掛かっていた宝箱には何があったのだ?」

「これ、何でしょう? 私にはさっぱりです」

「……! それ、ダンジョンで稀に発見される古代の秘宝かもしれません!」


 ふむ。古代の秘宝? 我には魔力を流して火を起こす道具に見えるが。

 この世界には我が創造せし便利道具のようなものが秘宝であるのか。


「どれイーナよ。少し我が見てやろう。これならば調査を使うまでもあるまい。ここに魔力を流し込むと……」


 ……これはいかん、火力が強すぎるではないか! 

 火を起こすといってもこれはどうやら鉱石を溶かすだけの火力を誇る道具であるな。

 魔力を高温の炎へ変換する魔道回路が組み込まれておるに違いない。

 これがあれば鉱石加工が容易……うむ? 

 全員ひっくり返っておるな。


「ムイよ。娘たちの間ではひっくり返るという固有能力が流行っておるようだな」

「ピキーーー……」


 仕方あるまい。我がベッドにこ奴らを運んでやるとしよう。

 ……小さなベッドであるが、娘二人寝かせておくには問題あるまい。

 ここは書物とベッド、テーブルと椅子があるだけだな。

 イーナはこのような場所に一人で暮らしておるのか……いや、人族の娘の部屋などじろじろと見るべきではなかったな。

 さて、娘たちはムイに任せ、我は確認に戻らねば。

 火を起こす装置以外にも素材袋があるな。

 鉱石に素材袋三つ。そして加工用魔道具まで手に入った。

 これだけあれば十分便利な魔道具が作れよう。

 この装備一式も我が手を加えて……ふふふ。売れぬのが残念であるがよい考えが浮かんだぞ。

 どれ。一つ娘たちが起きる前に我がよい道具を作ってやろうではないか! 

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