第14話 我の軍団出発である! 

 我が創造した軍団を見て、ルルは目を丸くしておる。

 しかしこやつ……もっと驚くかと思うていたが、そうでもないようである。

 ――ルルには説明をしておいてやるとしよう。


「へぇー。なんやびっくりしたけどおもろいわ。テーマパークの仮想ショーみたい。すごいんやな、異世界の人って」

「そうであろうそうであろう! 何せわれはドーグさんであるからな。ぐわーっはっはっはっは」

「ぐわーっはっはっはて。そんなおもろそうな笑いする人そうそうおらへんで。うちも真似してみようかな。ぐわーっはっはっはっはっはっは!」

「うむうむ。なかなか様になっておるではないかルルよ。よし、これでこやつらもばっちりであろう?」

「そうやね、一人ずつ名前書いて首から下げたるわ。そういうのある? オー君の装備とか強そうよ? 光ってて目立つやん。リーダーっぽくてええ感じやで。でもな、もちっと可愛さのセンス磨かなあかんよドーさん?」

「ドーさんとはなんであるか?」

「ドーさんはあんたのことよ。ドーグさんなんてかたっ苦しい呼び方嫌やろ?」

「うーむ。我はベリドーグであるが」

「したらベリやんの方がええやん。そっちのが言いやすいし」

「我は寛大かんだいであるからな。その呼び名を認めてやろう!」


 どうやらルルは実にネーミングセンスに優れておるようだ。

 素材袋にあった紐と紙を渡すと、それに次々と書き込み札を首から通していく。

 全員顔や腕などが分からない簡易的装備を施しており、謎の生物であるが、これならだれがだれであるか分かりやすい。

 オークヘヴィナイトはオー君、ソーサナーラビットはラビビン。マジシャンズスケルトンはマジ骨と書かれておる札を頭からぶら下げておる。

 ゴブリン二匹にはゴンとブリ。こ奴らだけやたらと安直な気がするのだが。

 しかし、一瞬でこれだけの名前を付けてしまうとは大した能力である。

 我はいちいち考えるのが面倒な上、どうせ消えるものと思い、いつもつけてはおらなんだが。


「消えちゃうって言っても名前くらい付けて上げんと可哀そうよ?」

「そんなものであるか。よし、ではお前たちはこれからダンジョンに入り、モンスター共を駆逐しながら我らが道具屋の主ともいえるイーナを探してくるのだ! 行け!」


 よし、全員言うことを聞いておる。縦一列で初の探索団出発である。

 

「ほんまに命令聞いとるで! うちもやってみたいわぁ。魔法とか使えへんかなぁ」


 そうであるな……今後は同じ道具屋で働く者であれば命令出来るように工夫も必要か。

 なれば今のままサクリファイスするのではなく……管理出来るサクリファイスにせねばならぬ。

 毎度毎度勇者が攻めて来てからサクリファイスしようにも、呼び出す準備をする時間など与えてはもらえぬからな。

 しかしルルは異世界より参った者か。

 我の世界でも勇者は異世界より参った者であった。

 特に……ニホ……ホン? いや、ニンジーンとかいう島国から来たという人種が多かったと聞く。


「お主が異界より参った者であるなら、魔法は使えるかもしれんぞ?」

「ほんま? うち、恰好良く雷魔法とか使ってみたいんやけどな。出来るかな?」

「ふうむ。まずはそれよりバレッタを起こして話を聞く方が良いのではないか?」

「そうやったわ! うち、今後どーしたらええんやろ。さっきみたいなお手伝いでええの? それやったら楽なんやけど」


 ほう。我と一緒にモンスターへ装備を身に着けさせたり、札に名前を書いて首から下げさせたりと、我がおっくうな作業を嫌とはせぬか。なれば我の助手となり作業させるのは悪くないな。それにルルはよくしゃべりおる。客の引き込みにもってこいと言えるであろう。

 容姿にも優れておるし、あれならば人族の戦士など容易に引っ張って来れよう。

 うむ、実に良い案ではないか! 


「ルルよ。お主は我の助手、及び客引きなどが良いのではないか?」

「それ、うちが得意なことやん。うち居酒屋でバイトしててな? ぎょうさんお客さん来てくれるようになったって店長に評判だったんよ?」

「うむ。実に賑やかで気立ての良い娘ではないか」


 むう、なぜそういった瞬間だまってしまうのだ。

 そこは大いにはしゃぐところであろうに。


「やだ、もー。突然なに? そんなほめてもなにも出ーへんからね?」

「我は何も要求などしておらぬのだが……さてバレッタよ。そろそろ目覚めるのだ」

「うーん……ゴブリンが攻めて……はっ!? あれ? ドーグさん、それに水本さんじゃないですか。私、どうして……すみませんドーグさん。勝手にベッドを使ってしまったみたいで」

「気にするでない。特異能力、ひっくり返る持ちであれば仕方のないことである」

「そうだ、こんなことしてる場合じゃありませんよ! 急いでイーナさんの救出に向かわないと!」

「それやったらもう、オー君たちが向かったで。強そうやし、きっと無事に帰ってくると思うわー」

「オー君? 冒険者の雇用を早速行ったんですか?」

「我ら便利道具屋の私兵を差し向けたに過ぎぬ」

「私兵て。軍隊みたいなこと言うたらあかんよベリやん。あれはそうやな、お手伝いさんたちのグループ。手伝い隊っていうねん」

「手伝い隊……ですか」

「そうや、手伝い隊。結果どうなるか知らんけどな。オー君いてダメやったら、その冒険者言うんが行ったところで無駄やて。せやから安心して待っとこ。それよりもバレッタちゃん。うち何したらええのか聞きたかったんやけど」

「そうでした! 仕事が積み重なり過ぎて混乱してました。私が呼び出したのにすみません……」

「別にええよ。関西は細かいこと気にせーへんのがイイトコよ。それでな、さっきベリやんと話ししてな? ベリやんのお手伝いとお客の引き込みやることにしたわ。それがうちには合ってる思うねん」

「はぁ。ええと……私が気を失ってる間に一体何が?」


 しかし決断力がある娘であるな。

 このような世界に一人で来た娘なら、泣きわめくところであろうに。

 ルルは実に芯の強い娘である。

 思考が少々魔族に近いともいえるであろうが、どう見ても人族であるな。

 変わった人族もおるものよ。


「ではルルよ。早速ある道具を造るのを手伝ってくれぬか?」


 と言ったところで扉を叩く音である。

 来客が多い日であるな……「すみませーん。ドーグさんのお部屋へお届け物です」

「配達のドンガさんじゃないですか。ご苦労様です」

「こちらに置いておきますね。それではー」


 おお、我の依頼していた道具であるな。

 これで寸法たがわず道具が作れるというものよ。

 

「実はだな。オー君に装備させた一式は、我の魔力によりその正面に映る景色を投影出来る優れものなのだ」

「それって盗撮とうさつっていうんやないの? ベリやんって悪い人だったりするん?」

盗撮とうさつ? 何を言うておる。ダンジョンの中を探索させる装備としては最高の品であろう? 必要に応じて状況確認が可能な上、我が赴かなくてもダンジョンの様子が分かる優れものであるぞ」

「……! ドーグさん、それ本当ですか?」


 ううむ、ルルに分かりやすく説明しおったが、首を傾げたままである。

 逆に飛びついたのはバレッタの方であった。


「うむ。しかし投影する装備があっても、こちらに写す道具を造らねばならぬ。まぁこれは便利道具屋イイナで売るつもりはないぞ。一つ造るのにも大変であるからな」

「そうですか……それがあればダンジョン遭難者が減るかと思ったのですが」

「そのダンジョンっていうのなに? うちにも説明して欲しい。イーナさんて人探しに行くゆうんは分かったんやけど」

「ドーグさん、ちゃんと説明してなかったんですね。私が説明しますから」

「仕方あるまい。では我一人でこなすとしよう」


 見るための道具だけであるならそう難しくはないのだ。

 音を拾うとなると更に大変である。今回は見るだけであるな。

 装備一式に五カ所、周囲を確認するための道具をあしらう方が大変であった。


 まず鉄鉱石四つを我の魔力で満たし、魔鉱石へと変える。

 これに素材袋に入っていた種子……これは我の能力、調査により成分を確認済みであるが、この成分を分解して取り出し、魔鉱石へとすりこむ。

 この色合いにより完成した魔鉱石が様々な効果を発揮するのが第一段階である。

 これらを熱で溶かし、更に我の魔力を込める。

 これにより完成したものを更に……「我が魔鉱石よ。同じ成分である魔鉱石の効果範囲を投影するのだ。ビジョンズアブゾープション!」


 よし、成功である! 我の研究室に見事オー君の鎧視点が巨大に映し出され……むう、戦闘中であるな。


『きゃーーーーーーーーーーーーー!』


 ……うむ。バレッタがひっくり返るを発動したのは言うまでもあるまい。

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