第4話 ダンジョンの構造はどうなっておるのか

 店の入り口扉を大きく開くと、そこは円弧を描くような広々とした通路であった。

 左回りに進むと、先にはずらっと扉が並んでおる。

 ふむ、人の往来はまばらだが、これは時間によるものか? 

 亜種族も多く見受けられるな。

 ふむ、店の名などはいかにつけておるのか調べてみるか。

 一つ一つにそれぞれ名札のようなものが張り付けてあるではないか。

【俺だけの道具屋】【あふれんばかりの闘志道具販売屋】【そこそこ安い道具屋】【ぶっ倒れても意気投合】【薬草ならここでっせ】【世界一美味しい食べ物屋】【換金するならアイの換金ハァト】などなどだ。

 どれも個性的な名前であるが、ふふふ……我らが便利道具イーナに比べればさしたる良さを感じぬな。

 しかしどの商品が売りなのか。それを表記する必要はあるだろう。考えておくか。


「ドーグさん。そんなにお店のプレートをじっくり見て何か分かるんですか?」

「イーナよ。店の名前というのは重要なものだ。どのような特色あるものを売りたいのかが分かるのだ」

「そんなものですか。私まだ始めたばかりだからなぁ……あ、お店閉めないとでした」

「閉めておる時間は勿体無いな。我であれば店番に代理で作業をさせるが……まぁよい。今は時間も売る道具も無い。ダンジョンはこの奥なのか?」

「いえ。なぜかドーグさんが反対方向に突き進んでしまったので……」


 ……ならば先に言わぬか。どうも我を観察して楽しんでいるような節がある。

 そして存外イーナも抜けておるような気がするな。


「ダンジョンへは店を出て右回りに進み、突き当りを右に進んだ先から入れます」

「ふむ。右回りにも店があるのか?」

「ええ。それとここから先の部屋は倉庫があるらしいんです。私はお金が無くて借りられませんけど」

「そういえばこの場所は、誰かが支配して貸し出しをしておるのか?」

「ええ。ご説明しましょうか?」

「いや、今はよい。行くぞイーナ」

「分かりました。説明は後。まずは商品の仕入れですね!」

「そういうことだ」


 ……売れるものが見つからなかった場合のことも考えておかねばな。

 ふむ。左回りの最奥までは見なかったが、ここは円を描くような造りか。

 中央には何があるか分からぬが、ぐるりと反対方向へ回ると確かに突き当たりである。

 そこを右手に進むと、とても巨大な門があるではないか。

 これは押して入ることが出来るような門ではないな。


「それでは参りましょう!」

「待てイーナよ。一体どうやってこの門の先に?」

「やだなぁ。ドーグさんはダンジョンから入って来たんですよね?」

「いや。我は転移でだな……」

「転移? 転移って魔法の? そんな方法があるんですか!?」

「いや、あれは試作品でな。相当なレア素材を駆使して試作的に造った携帯型だったのだ。実験第一号はある魔王配下に取引で譲ったのだが……そちらは対象の身代わりになり、その身代わりを呼び寄せるという優れものであったのだ。まぁそれはよい。この門は押して開くような門ではないと思うが」

「とても気になる話ですが……まずは見ていて下さいね。あ、その前に。こちらを渡しておきます」


 ふむ、何だこれは? 

 紙で出来た腕輪か? 【ダンジョンモール関係者】と書いてあるな。 


「腕輪……にしては材質が安物だな。ペラペラではないか」

「これはお店側の人の証です。付けてないと入場料が取られますから。あー! もしかしてここから入って来なかったなら、ドーグさんには後でお金の請求があるかもしれません。あわわわわわ……」

「よく分からぬが、我は魔王ベリドーグだ。些細なことなど気にする必要はない。これを身に着けて門に触れればよいのか?」


 ……そうか、これはただの門ではないな! 

 結界門。そう呼ぶに相応しい。見た目こそ門であるが、恐らくモンスター共がこちらには入って来れないように封じてあるものだ。

 実験してみたいが……いや待て。

 それであるなら魔王である我はここを通れるのか? 

 いや、イーナから渡された、このペラペラ腕輪があれば通れるのかもしれぬ。

 このような貴重なマジックアイテムを簡単に寄越すとは。

 娘め。我の与えた杖がよほど気に入ったとみえる。


「ほら、うんうんうなずいてないで行きますよドーグさん」

「うむ。分かっておる」


 門の外に出ると……なるほど。これは確かにダンジョンである。

 しかし妙に明るい上、おかしな音楽まで鳴っているではないか。

 なんだこのダンジョンは。


「私、実は一度だけダンジョンに入ったことがあるんです。直ぐに出ましたけど。この音はどこから鳴ってるんでしょうね?」

「差し詰め魔王の趣味であろうな。最下層にいる魔王がそのような構造にしたに違いあるまい。入口は陽気。地下に進めば進むほど怖くなる。そんな造りかもしれんな」

「そうなんですか? 私にはよく分かりませんが……」

「ひとまず勇者などはおらぬようだ。それにしても広く明るい。よく造りこまれたダンジョンだ」

「ここ、私が前に来た時と道が違うんですけど。この門から出たはずですが、直進に道なんてありませんでしたよ?」

「つまり構造を自由に変化させる魔力が込められたダンジョンというわけか。厄介だな……イーナよ。まずは真っすぐ進んでみるとしよう」


 壁も頑丈だがこの光は内側に仕込まれた光魔法の類か。

 道具で光らせているのであれば、構造が変わればぐちゃぐちゃになってしまうだろう。

 つまりこのダンジョンを生み出した者は非常に高い魔力を保有している。

 ……そして早速か。青いプニプニしたあれ。

 うむ、見間違えるはずもない。

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