第5話 便利な奴なのだ

 ふむ……見事なスカイブルーのスライムである。

 中心には魔核が見えており、弱点を現している存在だ。

 スライムの粘液には個体により強売弱はあるが、腐食性を持つ性質がある。

 飼いならせば好きなときにその効果を発生させ、ゴミなどを処分出来るという優れたモンスターであると我は認識しておる。

 我の隠れ住んでいた場所にもスライムは多くおったものよ。

 残念ながら魔族は人族のようにモンスターと契約するわけではない。

 だが……イーナは人族であろう。

 一つ試してみるか。


「モモモ、モンスターです! どうしましょう!」

「落ち着くのだイーナよ。ただのスライムであろう。我らの敵ではあるまい。さぁその杖を使うときが来たのだ!」

「そ、そうですよね。この杖で……一体何をスケルトンに変えれば?」

「ふむ? 何でもよいと申したであろう」

「ですから私、何も持ってませんよ?」

「何も?」

「はい」

「……仕方あるまい。ではイーナよ! その素晴らしい杖で殴りつけるのだ!」

「そんな適当な! ドーグさんが戦って下さいよぉ!」

「我は武器を所持しておらぬ。スライムに素手で攻撃するなどもってのほかであろう?」

「それじゃこの杖返しますから!」

「勇気を出せ。これは必要なことなのだ。我ではなくイーナが倒すことに意味があるのだ」

「私が? どうしてですか?」


 人族はモンスターを主として認めさせ、飼いならすことが出来る。

 これは我ら魔族と違い契約となる。

 そして契約されたモンスターは非常に従順となり、仕事を任せられる。


「よいかイーナよ。スライムとは極めて便利なモンスターなのだ。今後必ず我らが店の経営に役に立つ。ここで仲間にしなくてもよいかもしれぬが、いつかは必要となるのだ。我にはスライムを従わせる能力は無い。さぁ、やるのだ!」

「わ、私が……分かりました。それなら……ええい! わわーっ……」


 うむ、やると思ったが、一回転して転んだな。見事な素振りである。

 そしてスライムは避けているだけで何もせぬか。


「はぁ……やっぱり私には無理ですよぉ。運動苦手なんですから」

「ぐわーっはっはっはっは。イーナよ。そうでもない。良い動きであったぞ。どれ、我が少し力を貸してやろう。魔道の指輪よ。我が込めし力を放出せよ! パラライズシャフト!」

 

 ふっふっふ。黄色く細い麻痺棒。日に一度しか使えぬが、協力な麻痺を発する魔法が込められておる。


「わぁ……黄色い棒に触れたスライムがビリビリしてます。これ、特殊な魔法ですか? 今のうちに……えい!」

「ピキュアーーー……」


 さすがはただのスライムである。

 我の杖には多少の魔力が含まれておるとはいえ、イーナの攻撃でひん死ではないか。


「なんか罪悪感が……」

「よし。獣魔契約は人であれば誰でも可能である。特にスライムのような種族は契約の初歩で丁度良い。試してみよ」

「そういうことならやってみますけど……私商人なのに。でもスライム、可愛いかも」

「ではイーナよ。スライムを横から両手で触り、じっとしておれ」


 ふむ。このスライムは透明感があり、実に良い構造をしておる。

 魔核に名を刻みやすいな。

 

「我は魔王ベリドーグ。汝が抱えるその者、そしてその名に永劫忠誠を誓うがよい! チェインズモンスター!」

「あわわわ。すっごく光ってる……」


 これは本来従属の魔法である。

 この状態のみであるならば、獣魔契約したとは言い難いが、これに我秘蔵の指輪を足せば可能なはずである。


「イーナよ。好きな名前を念じながら、これをスライムの体内へ入れるのだ。スライムに名を刻むことが可能である」

「スライムに名付けですか!?」


 我から手に取った指輪を不思議そうに見ておる。

 なぜか一度指にはめようとしたが、ブカブカである。

 ふうむ、指輪というのははめたくなるものだ。気持ちは分かるがそれは麻痺を放出する方とは違い、使用用途が限られる指輪である。


「遠慮することはない。その指輪もまた、我が作ったものなのだからな。それにくれてやるのはスライムにだ。文句はあるまい」

「うーん。やってみます。名前はそれじゃあ……ムイちゃん!」

「ほう。スライムのイムを逆さまにしたのか。良い名だ」


 指輪を体内に入れたムイ。

 この指輪があれば獣魔契約は完了するであろう。


「えへへ…有難うございます。でも指輪、本当に良かったんですか?」

「構わぬ。これはな、知性の指輪というものに名前を刻む効果が付与された、我が開発したが誰も要らぬと言われた指輪なのだ」

「ムイちゃんのボディーの中に、ムイって刻まれてる……すごいです! 絶対売れますよこれ! って地下一階じゃ指輪は売れませんけど」

「そうであろう? 我は偉大なる魔王ベリドーグなのだからな! ぐわーっはっはっはっは!」


 と大笑いしてごまかしておるが、スライム一匹手に入ったところで商売になるまい。

 このダンジョンの探索を続け、まずは売り物となる道具を手に入れようではないか。

 イーナと共にそのまま直進すると……「ドーグさん、宝箱です!」

「木で出来た宝箱か。最も価値の低い宝箱であると言えようが、今の我らにとって貴重である。まず罠などがないか……」


 などと我が注意を呼び掛けるまでもなく、宝箱に飛びついて開ける娘。

 危機感がまるで足りぬではないか! 


「すごいですよドーグさん! 見て下さい!」

「イーナよ。突然開けると危ないぞ。宝箱というのは大抵罠が仕掛けられている。気を付けるのだぞ」

「そうだったんですか? でも地下一階でこんなお宝が!」

「ほう……巻物スクロール、薬草の束、木の腕輪? それに、素材が詰まった袋か」

「宝箱って色々なものが一杯詰まってるものなんですね」

「これは少ない方であろうな。しかしこの巻物は……鑑定と書かれておる」

「鑑定の巻物! 道具辞典がお店に備え付けてあるんですよ。それでですね……」


 これは広げて使うものか。つまりはこうであるな? 


「ふむ。鑑定……なんと!」



【木の腕輪】

 それはトネリコの木で出来ている。

 効果 HP3を向上する。


「これは我の能力、調査インバスと同等のものか。それにしても大した効果が無い腕輪だな」


 しかし待てよ。何か閃きそうだ。

 我の能力と同等。巻物。知ることが出来る。

 うむ? ダメだ、何かが足りぬようだ。


「……ちょっとドーグさんーー! なんてことするんですかー! せっかく売り物になりそうだったものなのに! 慎重にって言ったのドーグさんですよね!?」

「うむ? 我は巻物を読んだだけなのだが……」

「その鑑定の巻物、一回使ったら消滅しちゃうんです。それを売れば一つで五百レギオンですよぉ……どーして使っちゃったんですかぁー!」

「これが五百レギオンだと?」


 この程度の巻物。我であれば比較的容易に量産出来ると思うが。

 ふむ、しかしまたひらめきそうである。使用で消滅、売り物、五百レギオン……ううむ少し違うか。

 もう一越えで閃きそうだぞ。


「でも、巻物はあんまり売れないって聞きますし……でも、今度は使う前に一言伝えて下さいね」

「そうしよう。我はこの腕輪の情報を確認したのだが、イーナには見えたか?」

「いえ? 私には何も」


 つまり使用者にのみ分かる情報か。

 それならば価値以上の値段がついておるな。


「この腕輪はいくらで売れると思う?」

「初めにお話しした通り、この階層で道具以外のものを手に入れても売れないんです。値札は指定されたもの以外つけれません。譲渡するだけなら出来ますけど、それじゃ意味がありません」

「そうか、そういう話であったな。つまりダンジョンモールとやらには強い制約の魔法が掛かっておるのだな。読めて来たぞ、このダンジョンとモールとやらの関係がな!」

「それはいいですから、その道具を持って帰りましょう」

「しかし薬草に木の腕輪に素材袋か。もう少し収穫を得たいが……」

「ピキーー」

「どうしたのムイちゃん?」


 現状売れぬものをどうするか。

 価値以上のものを……と考えておったら行き止まりの壁に向けてムイが反応しておるように見える。

 これは……隠し通路ではないのか!? 

 ムイのやつ、知性の指輪効果が早速出たか。

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