第3話 我の力、その一端をとくと見よ! 

 これは相当に強い魔道具であるがくれてやろう。


「娘よ。我のこの指輪をやろう」

「……え? え? ええーー?」

「不服か?」

「指輪なんて、そそ、そんなの突然ダメに決まってるじゃないですか! 一体何考えてるんですか!?」

「指輪のどこが不服なのだ?」

「だって指輪ですよ!? 絶対にダメです。頂けませんし身に着けられません!」

「身に着けろとは言っておらぬのだが……ではどうすればいいか。我はいろいろと試さねばならないことがあるというに。他に我が差し出して良いものか。そうだ! この杖をやろう。少しばかりくたびれてはおるが、由緒正しき魔法の杖だぞ」

「魔法の……杖? お客さんは魔法使いなんですか? 戦士のように見えるのにどうして杖を持っているのか不思議だったんですけど」

「うむ? 我は魔法が得意だ。しかし我の魔法はちと特殊でな。せめてこれくらいは使えてくれよ……ハデス硬貨よ。その身を我が下僕に変えよ。サクリファイススケルトンソルジャー!」


 おお、硬貨の姿が変わっていく。成功だ! 我が魔道の力は滅っしてはおらぬではないか。


「わわわわーー! モモモ、モンスターー!」

「案ずるな娘よ。うむご苦労、スケルトンソルジャーよ。踊れ!」


 よし。見事にあほうな踊りを始めおったな。

 しかしサクリファイスは可能か。なぜ我が指定した薬草には変化せぬか……この世界に存在せぬとでもいうのか? なればスケルトンソルジャーは存在する、か。

 一つだけ不明なことが分かったかもしれぬな。

 だが……これまでと変わらぬこのサクリファイスのやり方ではいかんのだ。

 我がこの杖に頼ることはもう無い。


「……もうよい。消滅せよ」

「ええええーー!? き、消えた。今のモンスターですよね? はっ!? 私、分かっちゃいました。お客さんネクロマンサーだったんですね!」

「ふむ。まぁ全く違うとは言わぬが……我は好んでスケルトン共を使役しておった。あいつらは騒がぬから静かに作業が出来てよいのだ。よし娘よ。そなたもこの杖があれば中級までのスケルトンを生み出せるはずだ。対価として十分であろう?」

「そんな貴重そうな杖……本当なら一本でいくらするんでしょう。でも売り場はないから結局売れないし、一レギオンにもならないかぁ」

「くっ。これでもダメと申すならこの腹かっさぱいて!」

「分かった分かりましたー! これ、頂きますから! どうやって使うんですか?」

「我と同じようにして言葉を並べよ。さすれば強制的に持ち主の魔力を引き出せる仕組みだ。そうだな、最下級中の最下級スケルトンで試すか。そこの薬草を変えてみるがよい。これは自らの所有物を変える力だ。魔力が不足しておればその分体力を魔力に変換し使用する。気を付けて使うのだぞ。さぁ我に続けて言葉を並べるがよい。薬草よ。その身を我が下僕に変えよ。サクリファイススケルトンハーベスト!」

「薬草よ。その身を我が下僕に変えよ。サクリファイススケルトンハーベスト? これって薬草がいっぱいある場合どうなっ……」


 成功だ。うむ! 実に見事な最弱の収穫用モンスター、スケルトンハーベストの集団が完成したな。

 最弱スケルトンであるだけに、手に持つのは剣ではなく収穫用のぼろい錆びた鎌だ。

 スライムにすら負けるであろうな。

 なんならスライムに溶かされ養分となる個体だ。

 しかし随分と派手にやりおったな。

 全ての薬草を変えてしまうとは……よほど魔力に自信があるのか。

 ふむ? 娘がひっくり返ってしまった。

 そこまで嬉しいか、そうか……青白い顔で気絶しておる!? これはいかん! ひん死ではないか! 


「おい娘よ! 大丈夫かしっかりしろ! そこらにある気付け草を! ……これは毒消し草だったか。ええいまとめて全て口に突っ込めばよいか。これだから草での保存は好かぬというに。しっかりするのだ。貴様は死ぬにはまだ若いぞ!」

「もごえっ!? ひょっほ! はひふふんへふは!」

「気付いたか。うむ。はっはっは!」

「はっはっは! じゃなーい! 死ぬかと思いました……あああ! 私の商品が! 全部、全部スケルトンと私の口に……ああ」

「うむうむ。きっと貴様の役に立つであろう。ではさらばだ!」

「待てい」

「お、おいどうしたのだ娘よ。我の肩をつかみそのように力を込めて。我は腕力に自信はないのだが」

「全商品ロストして骨を呼び出す杖一本ではいさようなら……なんてさせませんよ! 責任、取って下さいね」

「む、むう。その杖一本でもまだ足りぬと申すのか。さすがは人間。強欲だが……ふむ。我は魔王ベリドーグ。ここは一つ、協力してレギオンとやらをたんまり稼がせてやろうではないか」

「またそんなこと言って。モンスター出して逃げるんじゃないでしょうね!」

「約束しよう。この魔王ベリドーグ。嘘はつかぬ!」


 まずは情報が足りぬ。

 ここはダンジョンモールとやららしいが、どの程度の広きダンジョンなのか。

 我にも当然立ち向かってくるモンスターがおるであろうが、その強さを知る必要がある。

 それから我が安心して魔道具を作るための設備があるかどうかを確認する。

 それが無ければ話にならぬ。我は生身では大した力を発揮出来ぬ。

 うむ。安心出来る部屋も欲しい。

 つまりこの娘の店とやらを拠点にさせてもらえばよいのではないか? 


「ずばり。我がこの店を拠点として活動し、金を稼いでやるというのはどうだ」

「ええ? お客さんがですか? でも売るための商品、全部無くなっちゃいましたよ? それに、お金払わないと追い出されちゃうんです。もっともっと儲かればこのまま下の階層を作って色々なものも売り出せるーって喜んでいたのに……はぁ」

「何をしょげることがある。貴様にはこの魔王、ベリドーグが味方になってやろうというのだ。これほど素晴らしいことはない。しかし我は売り物を作るためにいくつも検証せねばならぬことがある。店とやらを継続させるのにどれほどの余裕があるのだ?」

「次の支払日が三日後なんです。ですからそれまでに最低でも二千レギオンは必要で。でも、私のお店には全然お客さんが来ないんです。やっと来てくれたお客さん第一号が貴方だったんです」

「ほう。この店の名前は何というのだ? いやその前にだ。貴様の名は何という?」

「私のお店はただの道具屋ですから名前なんてありません。私はイーナ。何かよさそうなものが売ってそうな名前でしょう?」

「イーナか。良い名ではないか。我の名はベリドーグだが、貴様は先ほど我の名を便利道具と言っておったな。なればこの店の名前は決まりだ。便利道具イイナ。貴様と我の名前を少しだけ変化させ付けた名だ。どうだ、売れそうな名前だろう? 世界を支配出来る魔王のような名前であろう?」

「世界を支配って……でも便利道具イイナですか。ちょっといいかも? ……って全然よくない! 売るための道具が一つも無ーい!」

「ふむ。まずは様子見でダンジョンとやらに向かうぞ。モンスターが出たり、宝箱があったりするのであろう?」

「そうです。とっても広いダンジョンなんです。モールとの間には門があって、ここモール内にはモンスターが普段現れないんです。だからさっきはびっくりして」

「いろいろと実験し、解明する必要はあるが、うかつなことは避けねばならんようだな。まずは急務として二千レギオンを稼ごうではないか。モールとやらの案内よりダンジョン側を案内出来ぬか?」

「私がダンジョンに入るんですか? 無理ですよ。だって私、ただの商人ですよ? 戦えません」

「何のためにスケルトンを呼べる杖を渡したと思うておるのだ。貴様はすでにスケルトンをいつでも呼び出せるネクロマンサーであるぞ?」

「でも無差別にスケルトンにしちゃうんですよね、これ……」

「使い方が分かっておらぬだけだ。変化させたい対象を指定して使うのだ」

「そんなこと一言も聞いてません! ちゃんと説明して下さい便利道具さ……いえ、ベリドーグさん!」

「ふむ。我は魔王ベリドーグであるが、我の正体に気付かれても敵わぬ。以後我を特別にドーグさんと呼ぶことを許すぞ」

「許すって……分かりました。私はイーナで構いませんから。貴様は止めて下さいね。それでは……ちょっと怖いけどダンジョンに向かいましょう。ちゃんと守って下さいよ?」


 うむ。まずは我の方針を定めねばな。

 ダンジョンには様子見程度。

 それから先どう素材を集めるかは、ダンジョン内で考えるとするか。

 出来る限り楽をせねばな……。

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