第5話 二人きりの後夜祭
連日の体育祭と文化祭で学校はお祭り騒ぎ。
締めくくりとして、後夜祭が行われている。
教室から見える広大なグラウンドではキャンプファイアーでたくさんの生徒が楽しそうにフォークダンスをしている。
「みんなのところ、行かないの?」
誰もいない教室で二人きりになる。
「俺にはあの光は眩しすぎるってかぁー」
「いやー、おみそれします」
「そんなこと一言も言ってない?
……やっぱり心の声が聞こえるのかも」
「……」
「いつもならもっとふざけてる?
まぁ、こういう時ぐらいはね」
「……そっちの外がよく見える特等席、私も座っていい?」
主人公のとなりに座る。
少し空いてる窓からは音楽が流れ込み、外の様子が見える。
「――ほら、あれ見て。
あそこって最近うわさの二人だよね?」
「えー知らないの?
なんか、幼馴染らしいよ? 確か関西から来たとか」
「私からしたら、関西と関東って日本から海外に行くのと同じくらい緊張するから、二人が支え合ってる感じがしていいよね~」
「あんまり興味ないか。
ううん、アンタらしいなーとは思うけど」
「でもさ、絶対明日になったらカップルまみれになるよ~?」
「あっちを見ても、こっちを見ても、カップルで溢れかえって、カップルじゃない生徒は寂しく教室の隅っこで涙を流すんだよ」
「そんなことはないから安心しろ?
……ぽっ、うそ、私のためにやっと決意してくれたんだね//」
「俺がお前を彼女にしてやるから、そんな悲しい思いはさせないってことだよね?」
「……?」
主人公が何も言わないので、急に恥ずかしくなった幼馴染は両手で肩を持つ。
「な、なんで何も言ってくれないの!?」
「私の調子が戻ってきたから?
……ふふっ、別に私はいつもこんなんじゃないし」
「――私は、すっごく普通の女の子。
何か特技があるわけでもないし、才能もないし、時間を忘れるぐらい没頭できる趣味もない」
「普段勉強しないくせに、ちょっと本気になればすぐに結果が出たり、友達と熱く語れるものとかないの」
「だから、アンタのことがすごいっていつも思ってる」
「私は何もないから、アンタはきっと何かを持ってるから」
「――私、いろんなことを諦めてきた。
……、でも、アンタに会ってこれだけは譲れないってものができた」
「それを追いかけてる時の私は、すっごく楽しい」
「疲れとか悩みとか吹っ飛ぶぐらいに」
「癒しだったの」
「……でも、もうやめようと思う」
「私が勝手に癒されてただけだから、その人のこととか、全く考えてない独りよがりなことをずっとしてた」
「――ごめんね、勝手に自分の話しちゃってさ」
「……そ、そうだ。
私、友達と最後に独り身フォークダンサーズを結成するために、下に降りなきゃ」
「――それじゃあ……」
主人公が教室を出ようとする彼女の手を取る。
「……え? ど、どうしたの?」
主人公は幼馴染を抱きしめる。
「――ひぇ!? なななな、なんでぇ!?」
「……そ、そんな男らしいこともできたんだね……」
「――ずっと言えなかった? 本当は私がアンタにかまってくれるのがうれしかった?」
「いつも私が話しかけてくれるのを待ってたし、好意を寄せてくれてるのも知ってた?」
「うぅ……」
「自分から言わなくても、私が言ってくれる日がくるんじゃないかと思って……ずっとはぐらかしてたけど?」
「……私のことが、好きっ?」
「――」
「――うぅ、もうっ! ばかぁっ!!!」
抱きしめられながら、主人公の背中をぽかぽかと叩く。
「ずっと待ってたのは、私なんだからっ!
小学生から、ずっと、ずっと、待ってたんだから……」
「……私、私、めっちゃうれしいよぉ~」
うれし涙を流す幼馴染。
「ありがと。……もちろん、私も大好きだよ」
主人公が彼女に手を伸ばす。
「――ダンスのお誘い?
ふふっ、ええ、喜んで」
彼女は手を取り、見つめ合う。
二人は外から流れている音楽に合わせて、つまずきながらも踊った。
耳元で囁く。
「今日からよろしくね、彼氏くん」
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