第2話 幼馴染ならいきなりお家に行っても許される
玄関のドアをノックもせずに、いきなり開ける。
「仕方がないから、来てやったよ~」
「呼んでない?
ノンノン、何も言わなくても分かるんだよ私は。
助けを求める悲しき人間の心の声がね」
「どうせ、ろくに授業も受けてないからノートも全然取れてないし、数学なんてチンプンカンプンなんでしょ?」
「というか今回の期末テストの出題範囲すら分かってないんじゃない?」
「そうなんでしょ? もー私がいないと何にもできなんだから」
「――それはこっちのセリフ?
……冗談はよしこちゃんだよ~」
「ノートは取ってないけど、教科書にすべてかきこんでいるから問題ない?」
「数学はむしろ解き方が決まってるんだからその通りに解けばいい?」
「出題範囲のプリントなんて、だいぶ前にもらってるから誰でも知ってる?」
「な、なに? 私の顔じーっと見てさ。
私に見惚れちゃった?」
「間抜け面を見てただけ?」
「おー言うね、それだけ自信たっぷりなら今日出た課題プリントぐらいちょちょいのちょいって感じかな~?」
主人公がカバンからプリントを取り出して、ひらひらと見せびらかす。
「な、もう出来てるの!?」
「だって、これ私全然解けなかったし!
てっきり、応用問題ばっか集められた激ムズプリントかと思ってた……」
「……いやー、時の流れとは恐ろしいものですな~」
「四則演算すら怪しかったアンタが私と一緒の高校に入りたいという理由で血が滲むような努力をしてきたんだね」
涙ぐむ演技をする。
「私には伝わったよ、アンタの強い思いが」
「だから私に――」
「変な記憶の改ざんはやめてくれ?」
「な、なんのことか私にはさっぱり分からないな〜?」
「アンタがここの高校に行きたいって思ったのは、中二の春から?」
「は、早すぎない!?」
「あっ……いや、私もそれぐらいの時期にはなんとなく考えてたよー」
「ホントダヨ?」
「四則演算どころか、九九すら怪しいかったのは私!?」
「そ、そんなにひどくなかったよ!」
「4×7は?」
「……にじゅう、七! じゃなくて、一っ!
どーだ、全然余裕ですけど」
「テスト範囲、分からないのか?
……プリント、なくしちゃって、分かんなくなった」
「数学? ……うん、考えるだけで頭ズキズキする」
「となり、座ってもいい?」
「ありがと」
「てか、一人暮らしなのに座布団二枚あるんだね」
「重ねて使うと、さらに弾力が上がるから?
ふぅん、金欠大学生が座布団二枚かぁ。怪しいにおいがプンプンしますねぇ」
「勉強しに来たんじゃないのか?
もちろん今日はお勉強会だよ。
でも、学ぶところはたくさんあるからね。
人生一生学びだから、気になったら気が済むまで。
それが私のモットー」
手でマイクを持っているふりをして、主人公の口元に手を近づける。
「それで、やはり一人暮らしの部屋に女子高校生を連れ込むために購入したのでしょうか?」
「理由はさっき説明した?
ほほー、アルバイトもしていない大学生が、私利私欲のためではなく、自分の尻を思って余分な出費をしたと?」
「ドヤ顔がうざい?
そんな口の利き方していいんですかぁ?
私、ちゃーんとアンタのお母さんとメッセージでやり取りしてるんですけどねぇ」
主人公のお母さんとのトーク履歴を見せられる。
「お宅の息子さん、お布団二枚買ってるんですけど、怪しくないですかって、今からでも送れるんだからな~」
「やましいことは考えてない?」
「それでは、なぜ二枚購入を?」
「……」
「――私が家に来ると思ったから?
いつでも来ていいように、してた?」
主人公の家は学校の机の引き出しの惨状とは比べ物にならないほど、綺麗に整頓されていた。
「わ、私のお尻のために?」
「なんでそうなるんだ?
じゃあ、私のためってこと?
私が来るかもしれないという淡い期待を密かに待ち続けてたってこと?
「――そこまでじゃない?」
「――ねぇ、アンタってさ」
「私のこと、めっちゃ好きでしょ?」
「好きじゃねぇ?」
「ツンデレか、男のツンデレはあんまり需要ないぞ」
「うるさい?
おいおい、いいじゃんか。素直になっちゃいなよ」
「そういうところが嫌い?」
「嫌よ嫌よも好きのうちってか。ドヤァ」
結局、この日は二人ともおしゃべりして帰った。
『え……数学どうしよ』
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