第53話 猫と大会


まだ、肌寒い、今日のこの日。


「琢磨、忘れ物無い?」


「うん。」


「怪我しないでよ。」


「うん。」


今日は、空手の大会の日。。。


心配してくれる、彼女に、


「大丈夫だよ。ポイント制だし、

本当に、殴ったり、蹴ったりとか、

基本無いから。」


「でもさ、当たる事はあるんでしょ。」

不安そうに、僕の顔を覗き込む。。。


「ふふっ。大丈夫。多分それは、

避けるから。」


「避けられなかったら?」


「大丈夫。僕、強いから。」


試合は、もうすぐ始まる。。。


それにしても、全国とか、うちの、

空手部って、結構頑張ったんだなって、

正直、思った。


僕は、ポイント制より、

フルコンタクトが、好きだけど、

流石に、さくらが見てるから、

そんな、試合は、出れない。。。


「まぁ、見ててよ。さくらが、

心配してるようには、絶対に、

ならないから。」


「うん。頑張って。」


帯を、「ギュッ」と絞めると、

空手部の集まる場所に移動した。。。


「琢磨、本当にありがとう。」


部長から、「スッ」と出された手を、

握ると、


「うん。僕も、これが、

最後の空手だと思って、楽しむよ。」


と、答えた。


少しすると、参加する選手は、

集められて、横一列にならんで、

一礼をすると、試合は、始まった。


僕の試合は、一番最後。


何だか、中学時代を思い出して、

不思議な気分になる。。。


一番目の、試合は、接戦で、

どちらも、いい感じで、動けている。


ポイントで、初戦は、うちの、高校が、

取った。


その後も、お互いに、練習を積んだ

だけあって、いい勝負が続く。。。


結果的に、最後の僕の試合で、

運命が決まる流れになった。


ちらりと、さくらの方を見ると、

凄く、心配そうな顔をしていた。


うん。やっぱり、彼女の、

あんな顔は、見たくないなって、

心から、そう思った。。。


そして。。。


息を、吐きながら、僕は、

相手と、対峙する。。。


僕の、動きに、相手が、

着いて来れないから。。。


少し、可愛そうになるけど、

僕も、本気でやってるし、

怪我をしない約束なので、

相手の動きを、前部捌いて、

ポイントを取ると、必然的に、

僕の、圧勝で、試合は終わった。。。


僕の、中学時代を、

知ってる連中ばかりなので、

その後は、色々あったけど、

兎に角、彼女の元に、行きたくて、

必要最低限の、会話ですませて、

逃げるように、彼女の元へ。


「おまたせ。」


「もう。やっぱり、こう言うのは、

あたし、やだな。」


「うん。これで、僕の空手は、

ほんと、おしまい。

さくらの、

心配そうな顔を見たくないし、

それを、させてる僕が、嫌だったから。

ごめんね、今日は。」


「でもさ、琢磨、かっこ良かったよ。

ちゃんと、怪我しないで、

戻って来てくれたし。」


「うん。どこも、怪我してないよ。」

そう言って、ニッコリと、笑う。


「それにしても、琢磨の試合は、

凄い歓声だったね。」


「まぁ、一応、空手じゃ、

名前売れてるからね。でも、

今の、僕には空手より、さくらだし。」


「うん。ありがと。」

そう言うと、彼女は、今日初めて、

微笑んでくれた。


閉会式の、少し手前まで、さくらと、

一緒に、他の選手達の試合を、

眺めながら、過ごして。


閉会式が終わり、僕の空手は、

終わった。


色々、人が来る前に、僕は、さくらと、

二人で、その場を逃げるように、

立ち去った。。。


「ねぇ、琢磨、こんな風に、

隠れて、出てきちゃっていいの?」


「だってさ、絶対、囲まれて、

色々、聞かれるから。

それに、空手部との約束は、

果たした訳だし、もう、いいでしょ。」


「まぁ、そうなんだろうけど。。。」

少し、心配そうな顔をまたする彼女。


「ふふっ。その顔は、辞めて。」


「だって。」


「ねぇ、さくら、

帰りのバスの時間までさ、

どこに、隠れてようか?」


「えーっ。隠れるの?」


「うん。」


「ふふっ。じゃ、隠れてようか。」


僕達は、近くの喫茶店で、

ゆっくりと、珈琲を飲んで、

時間を潰してから、バスの時間、

ギリギリで、戻った。


まぁ、色々と、聞かれたけど、

さくらと、一緒に過ごす時間が、

出来たので、僕は、満足だった。


家に帰る、帰り道。


「ねぇ、琢磨。あんなに、強いのに、

空手、本当に辞めちゃっていいの?」


と、不思議そうな顔で、聞く彼女。


「うん。全く未練の、欠片もないよ。

だってさ、今日も思ったけど、

さくらと、過ごす時間が減るもん。

僕は、それが、一番辛いから。」


「ふふっ。本当に、琢磨は、

あたしの事、大好きなんだから。。。

でも、さ。そうだね。琢磨との、

時間が、減るね。」


「うん。そうだよ。そんな、

時間があるなら、僕は、

さくらと、勉強したり、バイトしたり、

ご飯食べてた方が、幸せだから。」


「うん。そうだね。あたしも、

そうだよ。それに、やっぱり、

心配しちゃうから。。。」


「でしょ。だからさ、早く帰って、

ご飯食べようよ。」


「ふふっ。うん。わかった。」


さくらと、手を繋いで帰る、

帰り道。。。


さくらを、心配させるネタは、

いらないって、僕は、心から、

そう思いながら、歩いた。。。










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