第2話 聖水の儀
「……はっうっ……」
ユリンは壁と壁の隙間に身体を押し込んで身を隠した。脂汗が止まらない。ずっと力を入れ続けた太ももが限界を訴えて、聖杯の少女はその場にしゃがみこんだ。
(聖水量120%……もう限界ぃぃいい……)
ユリンの中の聖水の昂ぶりはもはや痛みに近い。少女は右手を聖印に添えた。聖印の熱がユリンの指に伝わってきて熱い。ユリンは下半身と聖印に神経を集中させた。
プシッ……
「はっ……あ……」
ユリンの中の聖水が解放されてしぶきを上げる。この音を誰かに聞かれたらとユリンは羞恥するが、こうなるともう止めることはできない。
チョロッ……チョロロ……
(ゆっくり、ゆっくりぃいい……)
体内に溜め過ぎた聖水を放出して聖印で聖気に変換しつつ、それを籠手に蓄えていくエネルギーの相転移【聖杯祈祷】《聖水の儀》。聖水の放出と変換、蓄積のコントロールは聖杯教団の修行の基本であり、集大成でもある。
チョロロロ……
「……あっ……ダメダメダメダメっ……」
聖印で変換しきれなかった聖水がこぼれてユリンのお尻を伝った。群を抜く格闘センスで修行尼として認められたユリンであったが、聖水の儀においては「未熟」であった。
(うぅっ……こんなに、溢しちゃってる……)
(こんなところ、誰かに見られたら……)
ユリンは耳まで赤くして足元に広がっていく聖水だまりから足を避ける。彼女の「未熟」の原因はユリン自身の心の弱さだ。羞恥心が彼女の集中を乱し、本来のポテンシャルを引き出せずにいる。
ジョッ……ジョッ……
(……うぅ……ダメなのに……全部……全部……出ちゃう……)
水たまりを広げながらもユリンの中の聖水量は50%を割った。急な脱力感がユリンを襲う。【聖杯祈祷】《聖水の加護》、体内の聖水量によって人並外れた力を得る聖杯教団の基礎の奇跡、それがユリンの身体から急速に失われていた。危険地帯において本来体内に残しておくべき聖水を「未熟」なユリンはとどめ置くことができない。
……
ちょろ……ろ……
「はっ……はっ……はっ……はっ……」
(全部、出ちゃった……ぁ……)
生暖かい水たまりに尻もちをついて、脱力した四肢を投げ出し、ユリンは完全に惚けている。彼女の右手の蒼銀の籠手だけが聖気を補充されて力強い輝きを放っていた。
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