熊本地震からの逃亡。(6)

今回も(4)と同様に地震後、Twitterに投稿した当時のツイートを紹介する。(5)で書いた内容を補強したい。


高速道路は通行止め。ならば佐賀へ行くには有明海沿いを北上するしかない。ようやく市街地をぬけ左に雲仙岳を見ながら進む。不思議なことにこのルートで県外へ移動する車はほとんどいなかった。ミカンの里、河内でガソリン給油、北上を続ける。海沿いの町の家屋には殆ど損傷がなく瓦が少し落ちていた。

海とミカン畑。のどかな風景に一瞬、現実を忘れそうになる。家をたってから3時間。ようやく佐賀県に入る。朝から何も食べてないので休憩がてら食事処を探す。空いているファミリーレストランを探すがどこも閉まっている。あまり被害もないこの辺りでも地震の影響があったのか、少し違和感を憶えた。

仕方なく佐賀空港を目指す。流れはスムーズ。まるでドライブを楽しんでるかのようだった。携帯で状況を調べると佐賀羽田便は一日5便。10時台の便にはさすがに間に合わないので12時台の便を目指す。ラジオから被害状況が続々と入ってくる。熊本の事を考えるとやはり逃げているようで心を苛まれる。

10時30頃、佐賀空港に到着。空席があるか心配だったが幸い空いていた。空港内のレストランで食事をとる。中国からLCCが就航しているからか店内は中国人観光客の団体がいた。ウェイターも中国語を話す。食事中、家族でこれからのことを話す。父は佐賀、母は福岡、私は東京。それを再確認した。

食事をとる。異常に旨くないというか味がしない。頭の中は熊本の事。はたしてこの行動が正しいのか、繰り返し自問自答する。父にはああ言ったが私にも葛藤があった。味のない食事を終えると(大げさだが)いよいよ一家離散の時だ。父母と一緒にいるのが何故か苦しい。逃げるように金属探知機をくぐる。

後ろを振り返ると父母が手も降らずに私を見つめていた。まるで”熊本”という大きな瞳が私を凝視しているようだった。飛行機を待っている間、堂々巡りが続く。熊本から、そして現実から逃げている。市民病院で行列を作っていた救急車のイメージが頭から離れない。幻聴の様な緊急地震速報の音。

搭乗のアナウンスが私を現実に引き戻す。羽田便の機内は半分以上空席だった。機内アナウンスでキャビンアテンダントが熊本地震に触れる。陽気な中国人観光客の笑い声、ゴォーという地鳴りのような音。飛行機のエンジン音が地震を想起させる。それから逃げて逃げて、逃げる。揺れる機体、揺れる心。

ここで一端、熊本地震に関するツイートは途切れている。自分でも迷いながらツイートしていたのが3年経った今、わかる。


ちょっと地震直後のツイートを引用してみたい。


猫島警部はとりあえず無事ですが…猫たち…

余震がひどいですが…明るくなったら猫たちの確認にいきます。

うちは熊本市。震源の近くですが、電気・水道・ガス(プロパン)ともすぐに復旧しました。ただ瓦は飛びタンスなどは倒れてしまいました。

まあ余震がくるので散乱したものを片付けても仕方ないし…明日に備えて寝たほうがいいのかな。

余震が続いてますがこちらは大丈夫です。

うーん。twitterのトレンドから熊本の地震が消えた。まあ熊本市でも温度差が激しいぐらいだから仕方ないのだけれど。

なんともいえんのう。

余震は収まりつつありますが、油断は禁物だと思います。なにかいっつも揺れてるような感じですね。

ここまでが4月14日のいわゆる「前震」に対してのツイート。続いて


まだ揺れてます。

また同じくらいの地震です。

現在も小刻みに揺れています。

震度4程度の短い地震が続いております。

ガス臭いので元栓占めました。

避難する時はブレーカーを落として。拡散希望。

震度6強です。電気はついてますが水は断水しました。

忸怩たるおもいですが親戚のうちに身を寄せる事になりました。詳細は追ってお知らせします。

こまでが16日の「本震」直後のツイート。そして避難先(逃亡先)でしたツイートが興味深い。


それはこの『熊本地震からの逃亡。(7)』最後の章で紹介する。


(7)へ続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る