熊本地震からの逃亡。(4)

今回も(2)と同様に地震後、Twitterに投稿した当時のツイートを途中まで紹介する。(3)で書いた内容を補強したい。


14日の地震と同じく家の前の道路を何台もの救急車や消防車がサイレンを鳴らし益城方面へと消えていく。ヘリの音がけたたましく響く。揺れの短い余震が続き乗り込んだ軽自動車が大きく揺れる。何時間も轟音と揺れ、恐怖が襲う。非常事態だと感じた。とりあえず眠ろうとするが頭がなぜか冴えていた。

電気は復旧していた。が、家の中に入る気がしない。近くの自販機でジュースを買おうとしたがすべて売り切れていた。狭い車中でワンセグに見入る。エコノミークラス症候群が懸念されるので1時間おきに車からでる。夜が白んできた、時刻を確認するともうすぐ夜明けだ。

じっと腕を組んで目を閉じる。瓦が散乱している庭。美しく咲いているのは何の花か。頭は冴えきっていたが狭い車中、身体的に疲労を感じていた。いつまでこの余震は続くのだろうか。そんな事を考えていた。少し頭を整理するために辺りを歩くことにした。

住宅街の様相は一変していた。全壊している古い家、所々ひび割れている道路は段差を作っていた。崩れ落ちた無数のブロック、外壁の剥がれ。不安そうに自宅を見つめる人々。当分の間は混乱が続くと思われた。家に戻ると畑にいた何件かの人々は近くの小学校に向かったそうだ。余震はなおも続いていた。

母親が自分たちも小学校へ行かないか、と提案した。私は反対した、というより対案を示した。家には佐賀に住んでいる父方の叔父、福岡に母方の叔母、他にも長崎にも親類がいた。そうして先程見てきた町の状況を伝えた。恐らく長期間の避難は避けられない、だからどこかの親類を頼らないか、と。

ただ一家全員で行くとさすがに迷惑なので離散して自主避難しよう、と。母親は足に血栓があり血圧も高い、父親は糖尿病に近い状態の体だった。そして私はうつ病を患っており、避難所での生活が家族それぞれの持病に悪影響を及ぼすのは必至だ。家族全員、暫く私の提案を検討していた。

そして父が口を開く。「自分たちだけ楽な方法をとりたくない」と。私は暫く何も言えなかった。母は避難に乗り気で父を懐柔していた。父の意見は感情論(というか近所の手前も考えていたのかもしれないが)だ、この非常時には大げさではあるが生き残るためには論理的に考える必要があるように思えた。

父に言う。3人が避難すれば3人分の救援物資が誰かに届く。3人分の水、食料、避難所のスペース。我々が楽をすれば誰か3人が少し楽になる。そう考えてみるのはどうだろうか、と。県外に避難するこは確かに「逃げた」ように見られるかもしれないが、それがどうしたというのか。

父は暫く車のハンドルに顔を埋めて黙考していた。午前6時。ようやく父がこの提案に同意した。車外に出て親戚へ連絡をとっている。私は母と共に家の中にある貴重品を車に運び出していた。何回か家と車を行き来している間に父は話をまとめていた。父は佐賀、母は福岡、そして私は東京へ県外避難する。

東京へ行く予定の私を熊本空港へ。熊本空港はのどかな田園風景が広がる山間部にある。空港への道のりは渋滞もなく所々道路に亀裂や段差があったが30分程で到着した。が、様子がおかしい。人や車が少ない。もしかしたらと思っていたら、職員が来てターミナルビルが破壊され閉鎖しているとの事。

さて、困った。とりあえず父の実家を目指す為に熊本市内へ引き返す。市内に入るにつれ車が増えてき、営業しているガソリンスタンドには20台位の車列ができていた。停電している信号が多数ある為、なかなか市街地を抜け出せない。そして車窓には無残にも全壊してまった家屋が多数。

ここまでが(3)に記したまでのTwitterへの投稿だ。やはり父親の言葉


「自分たちだけ楽な方法をとりたくない」

を改めて考えてしまう。多分、日本人の美徳なんだろうけれど、その我慢のせいで今回の地震では"震災関連死"が"直接死"を大幅に上回った感がある。


(5)ではその言葉に苛まれていた自分を救ってくれた方々が登場する。


(5)に続く。

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