第2話 矛盾と一目惚れとお弁当
私は昔から前向きに生きてきた様に感じる。
小学生の頃読書感想文で暗い物語を読んだのにも関わらず、それを私は明るい物語と解釈して平然と書いたことがある。
先生には余りの楽観さに怒るどころかため息一つされて、再提出をくらった覚えがある。
小学生にする態度じゃないだろ、と正直今思っている。
「
この学校には感情の暗い人が多そうだ。
インターネットが普及した現代に於いて成長期である私達は経験の浅さとは裏腹に、世界中の凡ゆる人を見ることとなった。
そうすれば無理にでも世界の何かしらの猛者達と比較することになる、それらと比較してしまえば自分の才能や努力などちっぽけである事に気づく。
これまでの大人の様な楽観的な青年期を過ごす事は難しくなった。
つまりここに集まっているのは現代一般の青年に他ならない。
「はい、次」
「
翌日。
昨日のことが嘘かの様に、高校最初の授業日が始まった。
毎授業先生の自己紹介から始まり、(それだけで終わる事もあった)その後は授業の科目と関係のあるゲームの様な物をやって終わる。
そんな事を繰り返している内にあっという間の昼休み、俺は一人教室の机でひっそりとお弁当を食べていた。
小中時代給食の時には態々他人と机を繋げて何かしら喋らなくてはいけない状況を無理矢理作らされていた為、俺はこの方が気持ち良い。
だが、昨日のことがやけに頭をよぎる。
(あ、あの!もしよければ友達になってくれませんか!)
正直これは今始まったことではない、今日起きてからずっとこんな感じだ。
授業中もボーッと外を眺めながら延々とこの言葉がリピート再生されていた。(同時にシルヴィーのあのうめき声も何度か思い出した)
別にこの現象自体は、好きな曲を思い出して頭の中である場所だけが延々とリピートされる現象と似ていた為どうって事もないが。
斉藤の方へ無意識に目が行ってしまうのも確かだ。
斉藤は前の席で、俺と同じ様に一人で弁当を食べている。
と思ったら、急に弁当を持って立ち上がった。
何をするつもりだろう?と思いながら眺めていると、その体は授業初日にして圧倒的なコミュ力と美貌と人当たりの良さで早速クラスの人気者になっている榊広野さんの方へ向いている事に気がついた。
その瞬間皆と仲良くなりたいという昨日の話が、俺の頭の中でフラッシュバックした。
いや、余りにもレベルが高すぎるだろ。
榊さんの周りには既に一つのグループが形成されており、昼休みの最初から既にそのグループの人達と仲良く弁当を食べている。
そこに突っ込もうとする斉藤さんの勇気には感服するあまりだが、多分彼女はその事を余り理解していない。
やめろと言うべきなのか?
いや、そうすると彼女の決意を否定する事になるのか?
だけど、レベル1であれは無謀にも程がある。
やはり止めるべきなのか?友達として?
、、、。
「ちょっといいかな?」
「えっ?」
俺は斎藤さんの様子をとりあえず介入しないで眺めていると、突然横から続きはCMの後でと言わんばかりの勢いで誰かが話しかけてきた。
「あ、そういえば誰だか知らないよね。どうも
更にまたこれは、中々いい顔つきをしたお嬢様っぽい輪郭を持つ女性だ。
「え、えっと青山さんですか。、、どうかなさいましたか?」
「ねえ、君って昨日の記憶ある?」
「は?」
突然何を言っているのだろうか?というか距離が近い様に感じるのは俺だけなのだろうか?平然と俺の顔数センチ先に彼女の顔があるのは普通のことなのだろうか?
「き、昨日ですか。それはまあ、記憶はありますが」
「じゃあ、じゃあ」
この人は初対面の男子とキスでもしたいのだろうか?彼女は更に顔を近づけてきた。
流石の俺も少し顔を後ろへずらした。
「昨日の自己紹介で、小塚さんの次は誰でした?」
「佐藤さんですよね?、、、あれ?、そういえば榊っていなかったような」
「良かった!まだ記憶保持者がいた!」
「え?えっ?記憶保持?って、えっ!?」
「こっちにきてください」
突然彼女は俺の腕を掴むと、さっさと教室を抜けた。
突然のこと過ぎて意識していなかったが、多分食べかけのお弁当を地面へぶちまけた。
更に結局斎藤さんはどうなったんだ?
榊さんとは話したのだろうか?
あっ、いや、思い出したが昨日榊なんて人はクラスにはいなかったはずだ。
そしてそれを平然と受け入れていたのは何なんだ?
いくら斎藤の声が頭を中を縦横無尽に駆け回っていて俺が朝からボーッとしていたとしても、それぐらいの違和感は気づくはずだ。
そしてそれを突然問いかけてきた青山さんは何なんだ?一体何が起きてるんだ?
青山さんに引っ張られるままフラフラ着いていくと、人気のない廊下階段まで辿り着いた。
「そう、昨日の時点で榊さんはいなかったのです」
側から見たら何を言っているのか意味不明なのだろうが、段々彼女の言わんとしている事を理解し始めた。
「だけどそれを俺は何の違和感もなく受け入れていた。記憶はあったはずなのに」
彼女はやっと俺の腕を離した。
「そうその通り」
彼女に一体どういう意図があるのかわからないが、取り敢えず彼女の話を真面目に聞いてみる事にした。
「この世界は変更されているんだ」
「変更?ですか」
「そう、正確には現実曲解。世界が意思を持ち始めて因果が因果として成立しなくなるんだ」
「えーっと、つまりは」
「宇宙に意志が生まれ始める、それは宇宙そのものが思考して判断を下す。これに抗える物は正規法で存在すらしない」
「えっと、つまりは宇宙が生き物になったって事ですか?」
「そう、その通りです。そうするとどうなるかはわかりますか?」
「いえ、全く」
「宇宙が生存の為に行動し始めます、つまりはこれまで我々生物などが巻き起こす現象の因果が変な形で世界に曲解され、宇宙全体の生命体が書き換えられる恐れがある。つまりは人類が絶望する可能性があるのです」
「宇宙の意志が個人的に判断した行動が、世界その物に影響を与えるって事ですか?」
「その通りです。
「すみません、その混沌理論と宇宙の意思についての話がつながらないのですが」
「つまりは、宇宙が意思を持ち世界のコントロールが可能だとすれば。本格的にこの混沌理論でさえ通用しなくなります、つまりは真の不確定世界になってしまうのです。人間は完璧に予測はできませんが、ある程度の予測の上で生きています。だから信じるという行為が存在するのです。しかしそれが通用しなくなると人は何を信じていいのかわからなくなり、殆どの人間はそれを認識できた場合精神崩壊を起こします。今の時点では因果の違和感を受け入れられずに、まだ殆どは今までの経験と何となく統合して勘違いしている状態です。貴方も先程まではその状態でした。が、徐々に宇宙意思のコントロールが激しくなると我々の因果経験とはそぐわない事に気がつき始めます。そうなると世界は徐々にパニックになりだし、何を起こすのか、、、それこそ混沌です」
「えっと、、何となく話は分かりましたが。何故俺がここに連れ出されたのでしょうか?」
「貴方は私が昨日の記憶を問いただした瞬間、昨日の記憶とは違う事に気づき。それを勘違いだとは思わず疑問に思い、私の話をすんなり聞き入れてくれました。貴方は他人より自己意思の強い人間です、そこで協力して欲しい事があります」
「協力ですか」
「そう、この宇宙の意思がある限りパニックは免れません。ならば宇宙意思その物も破壊しなくてはならないのです、そうするには宇宙に現象を勘違いさせる必要があります。それで宇宙意思を破壊するほかありません。側から見たら魔法を使ってる様に見える為、我々はこの計画を魔法作戦と名づけています」
「我々はって、何かの組織なんですか?」
「そのことは後程、つまり言いますと貴方に魔法計画を手伝って欲しいというわけです」
「そういわれましても、魔法というのがどうすれば起こるかわかりませんし。、、あっ」
そういえばシルヴィーが魔法を使っている時の事を思い出した。
あんな事できるはずないが。
「何かありました?」
「いえ、何でも」
「魔法というのはたった今私が起こしています。今現在宇宙意思に反する事を考えているのにも関わらず私は貴方に情報を伝える事ができています、普通だったらこの情報は削除されているはずです。なのにも関わらず、私の情報が削除されないのは私がこれを自身の創作だと本気で思っているからです。つまり今私が離したことは設定だと本気で思っているのです」
「はい?、えっと。つまり青山さんは今設定を話しているに過ぎないと?」
「その通り」
「つまりは嘘ってことですか?!」
「そう思っている」
「なんなんですか?聞いて損しました」
「いやいや、そうじゃない。これを嘘だと思っているからこそこの宇宙意思への反抗を言っても改変されないというわけだ」
「いや、待ってください。整理が追いつきません。つまりは青山さんはこれを嘘だと思っているけど嘘だと思っていないとこの宇宙意思への反抗を伝えることができないという訳ですか?」
「その通りだ」
「それだとおかしいじゃないですか!嘘だと思っている事を本当のことの様に伝えて。矛盾ですよ!混沌ですよ!」
「だがしかし、本当だと信じていたら宇宙意思に情報が消される。ならばこれを嘘だと思っていないとそもそもこの設定が成立しない、だからこれをフィクションだと思うほかない。違うかな?」
「確かに違いませんけど」
「私は正直嘘にしか思えない、だがしかし本当だと信じたらその情報を削除されている筈だ。ならば私がそれを本当だとか嘘だとか確信する方法がない。ややこしいけどこれこそ魔法なんだ、つまりは人間の認識。信じるという機能を理論的かつ根本的に麻痺させることなんだ。こうすれば辻褄は合うだろう?私はシンプルにそんな存在がいる事を信じられないだけ」
「いや、だがそうだとしたら榊がいなかった云々はどうなるんだ?実際榊はいなかったって確信しているということは確信しているわけだし、それを証拠だと思っている訳じゃないのか?」
「いや、そもそも榊くんは最初からクラスにいたよ?」
「えっ?」
「何となく適当な事を聞いてみただけだよ。それが本当だったとはね」
「いや、えっ?だって、、そんな事があり得るのか?」
「まあ、これが魔法なんだ。これが宇宙意思の欠点、僕は嘘つきだ。みたいな根本的にパラドックスを起こす事象には反応する事ができないんだ、そもそも判断という行為自体が不確定な物だからね。これで宇宙意思を混乱させるんだ。あっ!因みに私がこれを真実だと確信しそうになった時に、組織が都合いい様に記憶を曲解させてくれるの。ねっ?辻褄の合ったいい設定でしょ、これに必要だったのは一つの偶然だけだったんだよ。そうすれば矛盾の様に見えるんだよ」
「さっきから何を」
「まあ、つまりは君に話しかけたのはシンプルに君に、、その、一目惚れしちゃったからなんだ。、、これは、そのキッカケ作りのために作った設定というか何というか、、」
「はっ?」
彼女の綺麗な茶髪が廊下窓の陽射しに照らされていたのが、何故か懐かしく思えた。
コスモス•エンジン 転生物語 砂糖鹿目 @satoukaname
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