第20話 鬼ヶ村襲撃


 次の日の事でした。

 大佐はたくさんの傭兵を連れて、鬼ヶ村に向かっていました。

 隊列の真ん中辺りに、綺麗な馬車がいます。

 きっと偉い人が乗っているのでしょう。


 もうすぐ村です。

 これから殺し合いが始まりますから、偉い人は下がってもらいましょう。

 大佐は馬車に近付いて行きました。

 馬車の横には凄い筋肉の獣人の人が歩いています。


『そろそろです』


 どかーん、という音が遠くから聞こえてきます。

 もう戦闘が始まっているようです。


『馬車を止めて』


 筋肉の獣人が頷きました。


『はい。おい! 馬車を止めろ!』


 馬車が止まりました。


『大佐。頑張ってきてね』


『は!』


 ぴし! 大佐は敬礼して前に出て行きました。

 前に出ていく途中に、ドンクロウとバットをちらっと見ました。

 2人はにやっと笑って頷きました。



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 大変です。

 鬼ヶ村が燃えています。


『発射ー!』


 ぐるーん。

 投石機が回って、たくさんの石が飛んでいきます。


『きゃあー!』


 叫び声が聞こえます。


『ぶち殺してッ! すり潰してッ! 肉団子にしてやるぁー!』


 トゲトゲがたくさんついた金棒を持った人が居ます。

 頭に角があります。

 あれが鬼でしょう。


 ばきーん!


 金棒を振り回すと、一振りで投石機が壊れてしまいした。


『退避! 退避ー!』


 海兵隊の人達が逃げて行きます。

 鬼は追いかけずに次の投石機に向かってジャンプしました。


 ばきーん!

 また投石機が壊れました。


『外道共がッ!』


 どんどん投石機が壊れていきます。

 海兵隊が逃げていきます。


『構えーっ!』


 大佐の声です。


『射てーっ!』


『うわらばー!』『ぎにゃあー!』『あばすっ!』


 逃げてきた海兵隊の人達に矢が刺さりました。


『逃げる者は構わんッ! 前に射て!』


 びゅんびゅんと矢が飛んでいきます。

 これで海兵隊も大打撃を受けるでしょう。


 どかーん!


『何だ!』


 大佐が音がした方を向きました。

 爆発です。

 木が空を飛んでいます。


『確認! 報告急げ!』


『は!』


 どかーん!


 また爆発です。

 今度は岩が空を飛んでいます。

 落ちてきたら大変です。


『まずいぞ! 魔術師だ! 場所が割れている! 総員を下がらせろ!』


『はい!』


 どかーん!


『く、急げ!』


 どかーん!

 大佐のすぐ近くで爆発です。


『うおっ!』


 大佐が身を伏せました。

 部下も一緒に身を伏せます。


『このままでは狙い撃ちだ! 撤退だ! 撤退命令! 合図を出せ!』


『はい!』


 ぴゅ! ぴゅ! ぴゅ! ぴゅ! ぴゅいー!

 ぴゅ! ぴゅ! ぴゅ! ぴゅ! ぴゅいー!

 高い笛の音が響きました。


『お前も走れ! 殿は任せろ!』


『しかし大佐!』


『一番強いのは私だ! 行け! 走れ! あの程度の爆発』


 どかん!

 大佐が耳を押さえました。


『うっ・・・くそ! 行け! 走れ!』


『ご武運を!』


 部下が走って行きました。

 しばらくして、大佐がにやりと笑いました。迫真の演技です。

 そこら中で、どかん、どかん、と爆発していますが、誰も空を飛んでいません。


『ふふふ。伯爵、流石の腕。恐ろしい魔術だ』


 海兵隊員も傭兵も、慌てて走って行きます。

 しばらくして、海兵隊員も傭兵も居なくなりました。


『ふしゅー、ふしゅー』


 怒りの表情で、鬼が周りを見渡しています。

 あっ! あれはピーチマンです。

 作戦には参加していなかったはずですが、なぜここに居るのでしょう。


『よう! 元気があり余ってそうだな!』


『てめえもか!』


『俺は別口さ。どうだい? ちょっと散歩に行かないか』


『ブッ殺す!』


『話が通じない奴だな。敵の大将の顔を拝みに行こうって言ってるんだ』


『何ッ!』


『すぐそこに来てるぜ。どうだい。一緒に来るか? 俺はこれから仲間と一緒にそいつを殺しに行く予定なんだ。来たそうに見えて声を掛けたんだが』


『俺も行こう』



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 ピーチマンが鬼を連れてやって来ました。

 大佐がにっこり笑って手を振りました。

 鬼が大佐を見て怒りました。


『このクソアマが!』


『勘違いするな。このクソアマが後ろから海兵隊を攻撃してくれたんだ』


『クソアマとは何だ! 言葉に気を付けろ!』


 鬼は素直に頭を下げました。

 自分の間違いを素直に認めるのは難しい事です。

 この鬼はとても人が出来た鬼のようです。


『味方だったか。すまん』


『エリザベータって言うんだ。エリザって呼んで良いぜ』


『良くない! 大佐と呼べ!』


『エリザ大佐、汚い口をきいて悪かった。申し訳ない』


『エリザはいらん。大佐と呼べ』


『すまん、大佐』


 ピーチマンはにっこり笑いました。


『さ、行こうぜ!』


 歩いて行くと、岩の陰から伯爵とドンクロウとバットが出てきました。


『セリナ、上手くやったな』


『当然よ!』


『あっ!? スティアン伯爵!?』


 鬼が驚いて頭を下げました。


『いいのよ。大丈夫・・・じゃないわよね』


『はい。何人か』


『そう・・・間に合わなくてごめんなさい』


 伯爵は頭を下げている鬼の前で、膝を付きました。

 鬼の手を取って、両手で握りました。


『ごめんなさい。これから話す事を聞いたら、きっと、貴方は怒ると思うわ』


『怒りません。お聞かせ下さい』


『海兵隊を動かしたのは、私の姉なの』


『・・・』


『傭兵団も来ていたの。でも、もう大佐が撤退させてくれたわ。

 命令は、海兵隊も鬼ヶ村の者も皆殺しにする事。

 知ってるかもしれないけど、お姉ちゃんは、傭兵団の長よ。分かるわよね』


『・・・』


『私達、これから龍人と戦うの』


『姉君を』


『ええ。私、自分の姉を殺すの』


『お供をお許し下さいますか』


『ありがとう』


 ピーチマンが手を取って伯爵を立たせました。

 伯爵は泣いていました。

 ピーチマンはハンカチを出して伯爵に渡しました。


『メインディッシュが待ってるぜ』


『ええ』


 遠くに派手な馬車が見えます。

 ピーチマンは歩き出しました。

 後ろに、伯爵、大佐、ドンクロウ、バット、鬼が続きます。

 これから、ピーチマン達は団長と戦います。

 ピーチマンは落ちていた剣を拾って、ぱ、ぱ、と土を払いました。

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