第16話 アイスクリーム屋にて


 ここはスキトロウの町の甘味処です。


 甘味処というのはピーチマンも初めてです。


『へーえ! こりゃ美味い!』


『本当! 私も知らなかったわ!』


 ピーチマンと伯爵はお汁粉を美味しそうに食べています。

 ピーチマンが味わって食べているうちに、伯爵の横にお椀が積まれます。


『そこの素敵なおしりのカワイコちゃん』


『あらやだ!』


『ぜんざいってのはなんだ?

 このおしるこってのと何が違うんだ?』


『こしあんがおしるこ。つぶあんがぜんざいなんです』


『こしあんとつぶあんってなんだい?』


『これ、小豆で出来た汁なんですよ。

 つぶつぶがある方がぜんざい。無い方がおしるこ』


『へーえ。じゃあそのぜんざい試してみるよ』


『はーい! ぜんざい1丁!』


 素敵なおしりの店員さんを見送りながら、ピーチマンがにやにやしています。

 伯爵がじっとりとピーチマンを見て、


『やっぱり尻執着者なのね』


『いや。和装だとイマイチ胸が分かりづらいんだ。

 もう少しこう上げてくれると』


『変態だわ!』


『おい、人前で大声で変態って言うなよ。

 俺が痴漢と間違えられて連れてかれたら、君1人で帰れるのか?』


『帰れるに決まってるでしょ! 子供じゃないんだから!』


『そお? じゃ俺は次のぜんざい食べたら帰っていいか?』


『駄目よ! アイスクリーム屋があるでしょ!』


『面倒だな』


『良い女ほど手が掛かるって覚えておきなさい』


『上手いこと言うな。女は男の3歩後ろを歩けって言うよな。

 君は300mくらい先を行ってるな』


『それって男尊女卑だわ! そう思うでしょ!?』


 ぜんざいを持って出て来た店員さんに、伯爵が尋ねます。


『さあ』


『女の子が前に立っても構わないぜ。

 代わりに、危ない時だけ男を盾にするのはやめてほしいな』


『か弱い女性を守る気がないの!?』


『そういう時だけ弱いんだって言えるのって、女の強みだよな』


『男は死ぬ気で女を守るの! 騎士道は死ぬ事と見つけたりって言うでしょ!』


 これにはピーチマンも驚きました。

 伯爵は最近流行りの騎士道を勉強しているようです。


『よく知ってるな。でもその後に、我も人も生きる方が好き也って続くぜ。

 さらに図に外れて死にたらば犬死なり、ってな』


『貴方はこの私の為に死ぬのが犬死だと言うのね』


『そう思わせないように女を磨いてくれって言ってるのさ』


 ばん!

 伯爵が勢いよくおしるこのお椀を叩きつけました。


『貴方は私がそれに値しない女だと言いたいの!?』


『少なくとも、命懸けで君を救った覚えはあるぜ』


 ピーチマンの答えを聞いて、伯爵は少し和みました。


『ふん。次もそうなさい』


『保証は出来ないな。かなり君の本性を知っちまったし』


『私の本性? 何かしら』


『そうだな。実はビビり屋でわけも分からず関係ない者をぶっ飛ばしたり』


『うっ』


『欠員が2名出たんで、俺達が行ったんだ。まさか君じゃないよな。

 おっと、うちの傭兵団でいう欠員は、怪我人じゃなくて死者の事だ』


『それは』


 伯爵が言葉に詰まって、下を向いてしまいました。


『分かんないわ・・・もしかしたら・・・

 いきなり襲撃されて、寝る間もなく逃げながら応戦してたんだもの・・・

 間違えちゃった、かも・・・』


 これは意地悪な事を言ってしまいました。

 ピーチマンも謝りました。


『悪かった。今言った事は忘れてくれ。次の本性に行こう』


『まだあるの?』


『コーヒーに関してはバカ舌だ』


『貴方がおかしいのよ!』


『じゃあ帰ったら皆に味見してもらうか』


『そうしましょう』


『次にいこう』


『次はなによ』


『シスコンだ』


『私は普通よ!』


 ピーチマンが店員を呼び止めました。


『なあ、聞いてくれよ。この子、お姉ちゃんは魔王様の次に神に近しい存在だって言うんだぜ! これってシスコンだよな!』


『うふふ。かわいいじゃありませんか。まだお姉ちゃん離れ出来ないのね』


『ほらな』


『きいー!』


『あとパンティーの色』


 ぼこん!

 ピーチマンの顔に伯爵の拳がめり込みました。

 龍人族の拳なので、さすがのピーチマンも吹き飛びました。


『いってえーなあもう!』


『言うな!』


 ピーチマンは頬をさすりながら伯爵の隣に座りました。

 そして、ぽん、と伯爵の肩に手を置きました。


『なによ』


 ピーチマンは力強く頷きました。


『大丈夫さ。今夜から俺が見立ててやるから。

 シャワーの後に呼んでくれ。履く前にな』


 ぼこん!


『あいたあーっ!』


 またピーチマンが吹き飛びました。



----------



 次はアイスクリーム屋さんです。


『おっ。ストロベリー・パフェがあるな』


『貴方、意外と女の子っぽいもの好きよね』


『勘違いするなよ。女の子っぽいものじゃなくて、女の子が好きなんだ』


『そう』


 もうスルーです。

 伯爵が金貨を放り投げました。


『私はピーチよ!』


『ストロベリー・パフェ』


『へいお待ちっ!』


 ピーチマンがスプーンでパフェを口に運びます。


『んー! たまんないねえーっ!』


 ピーチマンが一口食べる間に、伯爵は一玉食べています。


『次よ!』


『お待ちっ!』


『この横のちょっとだけ溶けた所が美味いんだ』


『次よ!』


『お待ちっ!』


『よーし、イチゴちゃんいただきますっと』


『次よ!』


『お待ちっ!』


 2人の様子を、じっと見ている者がいます。

 ただの見物客ではなさそうです。

 ピーチマンは気付いていましたが、美味しそうにパフェを食べています。

 食べながら、パフェのグラスに映る者を観察しています。


『セリナ』


『邪魔しないで』


『まずい事になったのかな。良く分からんが』


『なによ』


『君の客が来たみたいだ』


 ちら、と伯爵が後ろを見て、溜め息をつきました。


『あれか』


『新しい私兵を雇う時は、元海兵隊員ってやめとけよ』


『そうするわ』


 ピーチマンは立ち上がって、スキンヘッドの筋肉ダルマの対面に座りました。

 筋肉でシャツがぴちぴちです。

 日焼けした肌には血管がいい感じに浮いています。

 きっとボディービルダー大会で良い成績を取れるでしょう。


『よ! あんた、この町は初めてかい?』


『ああ』


『この町には海はないんだが、道に迷ったのか?

 良かったらセント大永劫に案内しようか。

 あそこは良い波がくるんだ』


 う! と筋肉ダルマがたじろぎました。


『何故! 何故分かった!』


『あーのなあ。あんた、自分の顔を鏡で見た事あるのか。

 アイスクリーム屋のパラソルの下で、目立たないと思わないのか。

 周り見てみろよ』


『・・・』


 ふう、とピーチマンが溜め息をつきました。


『待っててやるからさ。もう1回隠れろよ。ここじゃ目立って仕方ないぜ。

 通りすがりにナイフで一瞬とか。

 傭兵団の中に傭兵のフリして入るとか。

 あるだろ? 色々』


 気不味そうに海兵隊の男が目を逸らしました。

 伯爵が近付いてきて、アイスクリームをふたつ差し出しました。


『お仲間さんに持って行きなさい。暑いでしょうし』


『施しなどうけぬ』


『ごめんね。私、もう少しここにいるのよ。熱中症になったら大変じゃない』


『分かった。だが気持ちだけ頂く。アイスクリームは筋肉の敵なのだ』


 ピーチマンと伯爵は目を合わせて変な顔をしました。


『そう・・・アイスクリーム屋を選んでごめんなさい』


『いや、このような場所で監視してこちらこそ済まなかった』

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