フィルム6枚目 憩い
雑誌の入った本屋のビニール袋を手に持つ、オーバーサイズのニットに落ち着いたカーキのロングスカートを履いている少女、
思考より先に、ふらりと身体の向きを変えて木製のドアを開いて、
「いらっしゃいま、せ……」
黒エプロンを首から下げる男子アルバイトこと、
目の前のスタッフに、いつまでも席に案内されない違和感に一拍置いて
「あ。ここでバイト?」
「はい、先輩は買い物帰りですか?」
「そう。雑誌買ってた」
「いいですね。じゃあ席案内しますね」
しばらくすると、
「ブレンドのホットと、レモンタルト一つお願いします」
「はい。学校の人?」
「です。前にカメラ持ってたって話した人ですね」
「あーあの」
今まで社交的に特化したような言動と表情に、些細ながら自然さが透けて見えたように感じた。
欲が無いからこそ、円滑に人生を回す彼の心のよりどころになりうる前兆に、店長として彼がどう成長するのか想像すると口角が自然と上がる。
彼女の内心同様に、フィルターの中で挽かれた珈琲豆たちはドームを描き、豊かな香りがポットの中に垂れる。一杯分の珈琲をカップに注ぎ、丸いお盆にすでに置かれたレモンタルトの隣で白い湯気が優雅に舞う。
「
「はい」
カウンターを拭く
「お待たせしました」
「ありがと、……写真撮っていい?」
「はい、大丈夫ですよ」
彼女は胴に当たるカメラを持ち上げ、儚く散らされた粉砂糖の隙間から覗く艶のある鮮やかな薄黄色のレモンクリームにレンズを向け、カメラは静かに瞬きをした。
満足した彼女は、熱いコーヒーを薄い唇に当てる。
「先輩って食べ物も撮るんですね。てっきり景色ばかりかと」
「んー、景色もこれも同じ。雰囲気」
「雰囲気ですか? この花綺麗、とか美味しそうとか、みたいなことですかね」
「……多分?」
言語化が苦手だからこそ映像に記録する
「
「そう、ですね。でもみんなそうなんじゃ……」
「どうだろ、私は写真撮るの好きだけど……、でも理由……なんだろ」
「それは好きが理由になってるじゃないですか」
「好きの理由探す人居ますけど、好きって一番わかりやすい理由じゃないですか?」
「そうなの?」
「……個人の見解です」
「……そっか」
静かに熱を持つ言葉に押されながらも、
自身の発言で顔のパーツを細める彼と、安心が滲む彼女の表情を温かい日差しが照らす。
小屋に戻るようにカウンターに近寄る
「仲良さそうじゃん」
「……仲いいんですかね」
「これ、いる?」
「盗撮ですよ」
「すごい良い感じだったし、知り合いだしいっかなって」
「ダメです」
「だめか」
「ダメです」
「おかわり、いかがですか?」
カウンターの中に入り、店長が二人を眺め止まっていたフィルターに残る豆かすの処理をしていると、機嫌よさそうに
「
「……なんで」
「さっきの写真あげた」
「――なんで」
「本当に写真要らない?」
「……先輩が怒らなかったなら、もらいます。綺麗な写真でしたし」
3人しかいない穏やかな空間に、通知音が一つ響いた。
カメラ、先輩。 ただの浅倉 @asacura
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