第27話 とある自衛隊系YouTuberの防災動画を題材に①


 先日、非常に再生数の多いYouTuberの方の防災系動画を拝見しまして、ハッとするような新たな発見や気づきがありました。それと同時に、個人の視野の限界というものもまた、色濃く感じることとなりました。


 その方は、元自衛隊員という触れ込みで動画を投稿してらっしゃいました。以下、この動画配信者の方をAさんとお呼びします。内容も現実に即しており非常に含蓄のあるものでありました。同時に考察するに値する点もありましたので、Aさんの動画の内容を精査しつつそこから求めるべき具体的な方法というものを考えてみたいと思います。


 上記のAさんの動画は、きたる南海トラフ大地震をターゲットに防災方法を構築しておりました。


 Aさんはまず前提として、

 『避難所には行けないものと思え』

 という考え方の基本姿勢を貫いております。


 南海トラフ大地震での予測される被害地域とそれに対応する避難所の総数と規模を比較した場合、『明らかに避難所のキャパシティが足りていない』というのがその理由です。これは、非常に重要なでもあります。実際、避難所の容量が足りなくなるであろうことは行政側も把握しており、その場合『広域避難』という名の自治体の枠を超えた避難が必要になるという見解を示しております。

 しかし、実際のところはその具体的な内容も手段も未だ確立していないというのが現実ではないでしょうか。発生する避難者を全て他の自治体まで移送する手段と、受け入れ先となる建物の想定、その費用負担等の具体性が見いだせていないというのが主な要因ではあります。


 さらに、避難所にたどり着けたとしてもその中の環境は決して文化的と呼べるものはないであろうとも仰っております。これについては本作第一期でも触れておりますが、現実の避難所というのは行けばなんとかなる、というものではありません。実際には物資も乏しくストレス溢れる環境になるであろうことは想像に難くありません。


 これらをふまえ、この動画配信者Aさんは自身の経験なども交えながら、かなり先鋭的ではありますが必要な防災用品と手段を提示しております。

 では、その具体的な内容を紐解いてみましょう。


 まず、持出し防災用品。

 こちらで提示されているものは必要最小限です。


 ・テント1~2人用(小型なもの)

 ・防水リュック

 ・雨合羽(防寒用にもなる裏地付き・災害用に蛍光色のものが望ましい)

 ・防水バッグ(リュックとは別に、水袋にもなる)

 ・飲料水(500ペットボトル5本)

 ・塩(1週間分程度)

 ・缶詰(魚、肉、ツナ缶など)3個

 ・園芸用ミニスコップ

 ・ゴム手袋

 ・トイレットペーパー

 ・防寒用アルミシート(トイレの際の目隠し用)

 ・生理用品

 ・絆創膏、常用薬

 ・ラジオ、電池

 ・携帯電話・スマホ、充電用バッテリー

 ・防水メモ帳、ロケット鉛筆

 ・手鏡(カバー付き)

 ・ライター

 ・カッター


 非常にコンパクトな品揃えです。リュックに余裕をもって収納でき、余裕をもって持ち運ぶことのできる量です。


 その上で、徹底して繰り返し言っておられる事が、

「まず逃げろ、命が助かっていればなんとでもなる」

 というものです。


 第一期で、私も備蓄物資やら生活方法やらを長々と書いてきましたが、それらは全て命が助かってから機能するものばかりです。津波に呑まれてしまっては元も子もありません。そのため、上記の物資も家にいたときに災害が発生した場合に限り、これが入ったリュックだけ背負ってとにかく高いところへ逃げろ! というものなのです。

 そして、それ以外の出先で地震と津波に遭遇したならとにかく高いところへ避難すること。間違っても、ということを繰り返し提言しておりました。

 当然のことのようにも聞こえますが、準備が周到であればあるほどそれに囚われ依存した方法論しか思い浮かばなくなってしまうというのは想像できます。

 準備はもちろん必要ですが、まずは自分の命を守ることを最優先に、物資云々は余裕がある場合に考える、というのがAさんの言葉でした。


 津波浸水想定域に居住している人の場合、自宅に多くの物資を溜め込んでいてもそれらは役に立たない可能性のほうが高いのは、残念ながら事実なのです。


 それらを踏まえての私見ではありますが、

 万全を期すならば……


 ・津波浸水地域居住の場合、物資よりも避難経路、避難方法を全力で考える。

 ・自宅で地震に遭った場合と、出先で遭った場合をより具体的に考え避難方法を考えておく。

 ・避難後のことまで現実的に考えるなら、津波浸水域ではなく安全が確実な場所を用意するなり借りるなりして物資をそちらに備蓄しておく。


 ということが必須になります。


 特に、自宅以外の拠点を用意するということに関しては、かなりの困難がついて回ることになるかと思います。そのため避難後は避難所に頼る、という考えに行き着くわけですが、実際には津波浸水域に居住する人数だけであっても指定避難所だけでは収容しきれません。なまじ収容できたとしても、食料などの物資が間に合うか、というのはまた別な問題として残ります。


 Aさんは避難所という考えを最初から除外し、避難所で使うようなスリッパなどのアレコレは用意しないこと。そして、一週間という期間をただひたすら「生き延びる」ということに全神経を向けてほしいということを仰っておられます。


 持ち出し物品の内容も、その考えに基づいて運用されます。

 まず、「人間、そう簡単に餓死はしない」ということを述べています。


 ……②へつづく

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