第7話 時間の推移とともに顕在化する問題~状況を楽しむ?

 ◯ 土鍋でご飯。


 お料理本では美味しいと推していますけど、自分ではしません。だって、鍋の底の焦げ付きが酷いですからねw 一応、やったことはあるのです。

 でも、これを普段わざわざやろうとは思わないものです。土鍋炊飯愛好家のみなさん、申し訳ありません💦


 でも、体験だけはしておくべきことだと思います。

 炊飯器が無ければご飯が炊けない、これはコメを主食とする民族としては少々恥ずかしいことです。


 鍋を使ったご飯の炊き方というのはお料理の本やサイトを巡ればそれなりに情報が得られます。停電時に経験してみたことがある、という方もいらっしゃるかもしれませんね。まあ、炊飯器ほど美味しくは炊けませんけど食べられなくもありません。いざとなったら挑戦してみる価値はあると思います。


 ちなみに停電時の私の家では、発電機を使って炊飯器を動かすという誠に横着で贅沢な事をして乗り切りました。あるものは遠慮せずに使う、可能ならそれが一番良いのです。


 しかし、それができる家庭環境、もしくは許される地域的環境がある、という場合ばかりではありません。発電機が無い、もしくは近所迷惑で使えないという事は充分に考えられます。

 それ以上に、自分の家だけそんな文明の利器をひけらかすような真似は、後の近所付き合いで遺恨となる恐れもあります。使うならご近所共同で、ということも一考する必要があるでしょう。


 ご飯の炊き方について、もうひとつ。


 サバイバル教本やアウトドアガイド等で、缶ビールの空き缶を使ったご飯の炊き方というものがありまして、飯盒炊飯みたいで楽しいですし意外としっかり炊けるものです。災害時であっても身の回りに350mlの空き缶くらいならいくらでも手に入るでしょう。燃料は、使い終わった割り箸やその辺に落ちてる乾いた小枝などで賄えます。

 ご興味のある方は、ぜひ調べてみてください。具材を混ぜて炊き込みご飯とかもできるみたいですよ。


 ですがこれ、実際の被災地で役立つかというと……残念ながら答えはNOと言わざるを得ないでしょう。

 前述の通り、直火を使える立地や周辺環境という要件の面もあります。そして、クリティカルな被災地では、「生米なまごめ」というのは非常に使い勝手が悪いものなのです。

 まず第一に水が大量に必須であること。一人あたり一日に必要な水というのは言わずもがなではありますが、そんな逼迫した状況下で炊飯に使う水の余裕などは無いのです。水はそのまま飲む用途に使うのが最優先。米研ぎに使っていたら顰蹙すら受けるかも知れません。

 最低でも、無洗米(研がずに使えるお米)であることは必須になります。中心被災地には、米研ぎに使える潤沢な水も、時間のかかる飯炊きができるような燃料も清潔な炊事場なども無い、ということは念頭に置いておくべきでしょう。


 逆説的に、炊飯ができるという事は少なくとも水と燃料(もしくは電気)のインフラが簡易的にでも賄えているという状況が考えられます。災害時でいうと、すこし復旧が進展したあとのことですね。


 では、これらの知識は無用なものか?

 と言われると、これもNOと敢えて言いたいのです。


 これらは、むしろ直接被害の無かった「被災地の周辺地域」でこそ活きてくるのではないでしょうか。

 災害や停電となると、ついつい被害が無くてもお店に殺到しカップ麺やらパンなどを買い求めて済ませたくなってしまうのですが、大規模災害時、特に向こう2週間以上復旧の目処が立たないような場合には、腰を据えて状況を楽しむくらいの気概が必要になってくるのです。


 私の住んでいる地域がまさにそうなのですが────

 地方の、それも田舎の集落なんかに住んでいると、少なくとも4~5日程度の食料は常に冷蔵庫に入っていることが多い事でしょう(2話のローリング備蓄参照)。農村やその周辺地域でしたら、最低でも米だけはたっぷりあるというご家庭も多いことだと思います。


 その状況で長期間停電になる、ということを想像してみて欲しいのです。


 まず、冷蔵庫がただの保温庫になってしまうということなのです。その場合は、温度変化に弱い食材から迷わず消費すること。冷凍食品であっても二日目以降は使えるものを容赦なく消費、さもなくば大量の生ゴミが発生することになるのです。

 東日本大震災の当時、まだ冬が終わり切っていない頃で、それなりに寒く暖房も必要なくらいの気温でした。それでも、四日目あたりからは冷蔵庫の下部から水が滴りだすような状態でした。冷凍の方は意外と粘ってくれましたが、それでも冷凍保存の継続は無理な状態ではありました。これが夏場だったら、おそらく三日目には完全に溶け出していたであろうと思われます。


 農村や山間部なら、少々の生ゴミ程度は山や畑に埋めて処理するという方法もできなくはないのですが、動物が寄ってくることを考えるとあまりお勧めできる方法ではありません。今日日きょうび生ゴミは、田舎であっても燃えるゴミとして自治体に回収されていることのほうが多いでしょう。


 災害時、インフラが停止するということはゴミ回収などされないということでもあります。生ゴミ、つまり食品の廃棄は死活問題にもなります。すべての家庭から一斉に大量の生ゴミが発生する状況は想像するに恐ろしいものです。

 冷蔵庫の中味というのは長期戦には向かないものばかりです。後生大事に取っておこうなどとは思わずに、しなければ、おそらく五日は保たないでしょう。


 普段の食材を使った料理、これはカセットコンロと水があればインフラ停止状態でもなんとかなります。最初から長期戦が予想される場合、冷蔵庫の中身を早めに消費するというのは心がけておいたほうが良いでしょう。

 その際には、上記の空き缶炊飯や直火調理が活躍するかもしれません。こういうのは、男の子などが喜んで手伝ってくれるものです。日頃からキャンプの真似事程度でもいいですので、経験させておくといざという時に頼れる存在になります。飯盒炊飯もいいかもしれませんね。


 どうにもならない状況で、深刻に考えるばかりが能ではありません。ときには、状況を楽しむというくらいの気概が持てると、苦労を乗り越える原動力になると思います。特に、子供にこのような経験と技術を積ませておくことは、必ず役に立つことでしょう。自分が家族に貢献できている、という体験は子供にとっての何よりの学びであると思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る