その大きな胸と愛に抱かれて(後編)

「……どう?愛ちゃん。わかる?感じる?お母さんの温もりを。お母さんの鼓動を。お母さんの匂いを」

「…………うん」


 ――そしてきっかり3分後。見事に母さんの予言通りの展開となっていた。私の想像に反して、興奮したり欲情するよりも先に……母さんの胸の中で私は母さんの胎内にいるような……そんな絶対的充足感と安心感に包まれて、身を委ねてしまっていたのである。こんなダメな私を笑うなら笑え。盛大に笑い飛ばしてくれ……

 母さんのさっきの話を思い出す。


『母親の心音を聞かせ、母親の匂いを嗅がせると……赤ん坊の頃を思い出して子どもは素直になる』


 と例の話。あれ、あながち間違いじゃなかったようだ。緊張と混乱で固くなっていた身体は、母さんに抱かれる内に次第にだらんと力なく脱力していって。ゆっくりと温かで穏やかな気持ちになれた。

 大人しくなった頃合いを見て、母さんは私の耳元でそっと声をかけてくれる。


「……ごめんね。一番愛ちゃんが辛い時期に、一緒に悩んであげられなくて。愛ちゃんの気持ちを知っていたのに。その気持ちを確かめる勇気がなくてごめんね。これからはちゃんと……お母さんは愛ちゃんと向き合うって約束するから」

「かあさん……」

「だから、ね。お願い。お母さんと一緒にお話させて。愛ちゃんの気持ち、受け止めるって約束するから」


 その一言が最後の一押しだった。


「……私、母さんの事……好きなの。愛してるの」

「あら嬉しい。娘に愛される母だなんて。私は、世界一幸せなお母さんね」

「恋愛対象として好きなの……」

「まあ嬉しい。この歳になって……忘れかけてた恋愛感情を思い出させてくれるなんて。ドキドキしちゃうわ」

「女の子なのに、血の繋がってるお母さんの事を好きな、変人なの……」

「とっても嬉しいわ。こんなに可愛い女の子に惚れられるなんて……私もまだまだ捨てたものじゃないって自信がつくわ」


 まるで微睡みの中夢でも見ているかのように。母さんの胸の中で、ぽつりぽつりと今まで言いたくても言えずにいた自分の気持ちを吐き出す私。

 母さんはその私の一言一言に。優しい気持ちを乗せて応えてくれる。


「……手、出すかもしれないよ。あまりに母さんが好きすぎて。魅力的過ぎて……母さんに、手を出しちゃうかもしれないんだよ……」

「そうなっても大丈夫なように、お母さん常に準備してきたからバッチ来いよ。この通り、愛ちゃんの前ではいつでも下着は上下揃った勝負下着だし。突然愛ちゃんに押し倒されて、身体を見てがっかりされないように……美容に気を遣ってきたし、ジムに行って身体を引き締め続けてきたんだもの。その成果が出せるってものよ」

「……そんなこと、してたの……?」

「していましたとも。愛ちゃんに嫌われたくなかったからね。……だからいつでも抱きに来て良いのよ?っていうか、そうじゃないと私が困る。愛ちゃんの気持ちを汲んで、私から愛ちゃんを抱いちゃおうと思った事もあるんだけど……それだと色々マズいのよねー。私と愛ちゃんの関係の、何がマズいって。母親から手を出したら虐待になっちゃうところなのよね。でも、愛ちゃん。愛ちゃんから手を出すなら……虐待にはならないでしょ?」


 凄い理屈だ……でも、何故だろうか。そんな母さんのハチャメチャな持論を聞かされてたら、悶々と悩んでいた事がとても馬鹿らしく思えてきた。


「そういうわけだから。愛ちゃんはもっと素直に自分の想いをお母さんにぶつけて良いのよ。私なら、どんな愛ちゃんでも受け止めるから、ね?」


 慈愛に満ちた母さんの微笑み。それを見て……私も母さんと同じく、覚悟を決めた。


「……マザコンで。母さんが大好きで。大好きすぎてイヤらしい目で見ちゃう……めんどくさくて醜い変人な娘だけど……母さん」

「うん」

「そんな私でも……母さんは……愛して、くれる……?」

「……バカね。そんなもの……私から、愛ちゃんにキスした時点でとっくにわかりきってる事でしょうに」


 勇気と声を振り絞った、そんな私の素直な問いに。母さんはくすっと笑ってこう返す。

「愛していなきゃ……実の娘にも、こんなことはしないわよ」


 そう言って、母さんはもう一度キスをしてくれた。……さっきはいきなり過ぎて味わえなかった……母さんとのキス。甘くて、切ない、私への愛の証明だった。



 ◇ ◇ ◇



「——ところで愛ちゃん。私、全面的に愛ちゃんの事を受け止めるって約束したわけだけどさ」

「……?なぁに、母さん?」

「具体的に……愛ちゃんはお母さんとどういうことしたいの?手を出しかねないって言ってたって事は……当然、?」

「ゴフッ……!?」


 長い長いキスの後。幸せ絶頂期の私に対し、不意に母さんはそんな事を尋ねてきた。え、エッチな……事って……!?


「か、母さん……何を、言って……!?」

「いや、これ冗談とかじゃなくて割と真剣な質問よ。結構大事な話なのよコレ。内容によっては、お母さんもまた別の意味で覚悟決めなきゃいけなくなるだろうし。あらかじめ、パートナーの性癖を知るのってかなり大事なことだから」

「……そ、それは……そうかもだけど……」


 母さんは流石の度量だった。母性に満ちあふれた母の愛で、娘の全てを包み込んでしまう。……愛情も、恋慕も、そして性欲も。

 逆に尋ねられて困惑してしまう私。ま、まさか母さんからその話を蒸し返されるなんて……わ、忘れて欲しかったのに……


「良いのよ?何度も言うけどお母さんに遠慮しないで」

「い、いやあの……正直この気持ちを受け止めただけで十分って言うか……キスされただけでもう色々おなかいっぱいって言うか……け、決して遠慮とかをしてるわけでは……」

「ふむ?つまり愛ちゃんは母さんとキス以上の事、したくないの?手を出しかねないとか言ってなかったっけ?」

「…………ごめんなさい。あれだけ手を出すだの、襲うだの母さんを脅しておいてなんだけど。……まさか受け入れられるとは夢にも思ってなかったから。キスより先の事まで、考えてなかったし……考えられないの。……だ、だってキスしただけで……どうしようもないくらい、幸せで……きもちよくて、頭まっしろになっちゃったし……」

「あぁ、なるほどね。……そうよねぇ。いきなりエッチはハードル高いか。まあ、それはおいおいってところかしらね。まだ愛ちゃんも高校生だし、そういうのは早すぎるかもね」

 

 そう母さんに説明すると、母さんは納得してくれた顔を見せてくれる。


「でも良いの?ホントにお母さんにして欲しい事、されたい事ってないの?折角の機会だし、言ってくれても良いのよ?どんな愛ちゃんの気持ちも、受け止めちゃうわよ私?何でも言って。愛ちゃんになら何でも言う事聞くから私」

「…………何でも、言う事を……」


 そこまで言われて考える。母さんにして欲しい事……そりゃあるけど、いっぱいあるんだけど……でも……


「あら、その愛ちゃんの顔。あるんだけど、恥ずかしくて言えないって顔ね」

「何故わかる母さん……!?」


 私としては隠し通せていると思っていたのに。母さんはいともたやすく私の表情から私の本心を見抜いてくる。今更だけど、ホント察しが良すぎるよね母さんは!?


「愛ちゃんはもっと自分の気持ちに忠実になっていいのに。しかたないなぁ……なら、素直になるお手伝いをしてあげなきゃね。…………と言うわけで。はい、ぎゅーっ♡」

「や、やめ……やめて母さ——はふぅ……」


 言葉無く目を背ける私に。母さんは本日何度目になるのかわからない必殺のハグを仕掛けてそう言ってくる。あっ……や、やめて……それやめて……ハグするの、だめ……

 素直になっちゃう……母さんのハグ前では文字通り赤子のようになる。素直に自分の隠していたものぜんぶ赤裸々になっちゃう……


「はい、それじゃあ愛ちゃん。もう一回聞くわね。愛ちゃんはお母さんにして欲しい事、ないのかな?」

「…………母さんにして欲しい事……一つだけ、ゆるしてもらえるなら……」

「うん、良いよ。なんでも言ってごらん愛ちゃん」


 や、やめろ私……言うな、言ったら今度こそ母さんに引かれてしまう……!そう頭ではわかっているハズなのに。


「…………嫌がってたけど……あれは母さんに嫌われたくなくて、嫌がるふりをしてたんだけど」

「うん」

「ほんとは……ほんとはね……私……」

「うん」


 自分の理性が悲鳴を上げる中、その溢れんばかりの母さんの母性が、私を極限までに素直にする。私は欲望に忠実に、母さんの胸に頬ずりして赤ん坊のように甘えながら……


「私……母さんの、おっぱい……吸いたかったの……」

「……ふふ♪やっぱり、したかったのね」

「……だめ?」


 とうとう、そんなおねだりを口にしてしまった……

 そんな私を前にして。母さんは慈愛に満ちる表情で待ってましたと言わんばかりに意気揚々と。最後の砦のブラのホックを静かに外して……ブラをパサリと床に落とし。


「だめなわけ、ないでしょう。我慢してた分、いっぱい甘えて良いからね。……さあ、いらっしゃい愛ちゃん」

「あ、ぅ……母さん……かあさん……かあ、さぁん……!」

「きゃーっ♡」


 腕を広げて、おいでおいでと手招きする。私は微かに残っていた理性やらプライドやらを投げ捨てて。母さんの胸にガバッと飛び込んだ。

 母さんのおっぱいを一心不乱に吸いながら。確信した事がある。私は、一生母さんに勝てないんだと……母の愛は偉大だ……と。

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