私のママはままならぬ(後編)
女三人寄れば姦しい。なんてことわざはあるけれど。
「「「…………」」」
三人集まっても、あの一件のせいで全然姦しくない。かれこれ30分くらいシーンと静まりかえって。私を含めた全員が全員、気まずそうに目を逸らしている。
「あー……コホン。ゆ、ユキ……ちゃん?」
「(ビクッ)は、はい……」
「そのぅ……もしかしなくてもさ。さっきの会話を……ユキちゃん聞いちゃってたり……?」
それでも黙ったままじゃ話は進まない。最初に口火を切ったのはかすみさん。恐る恐る私に問いかけてきた。
「……はい。聞いて、いました……盗み聞きなんてしてごめんなさい」
「ゆ、ユキ?ちなみにさ……どこから聞いてたの?」
「……えっと。多分……端から端までぜんぶ……聞いてた」
「そ、そっかぁ……ぜんぶかぁ……」
ママも私に確認してきた。この状況で、今更聞いてなかったなんて嘘は通じないだろう。意を決し、正直に話してみると……かすみさんもママも盛大にため息を吐き、肩をすくめる。
「……私からも、二人に聞きたい。さっきのは……一体どういうこと?」
聞かない方がいいかもしれない。やぶ蛇になるぞ、後悔する事になるぞと。自分の中の女の勘が執拗に警鐘を鳴らしているけれど……ここまできて事情を聞かないってのも聞かないで絶対あとで後悔しそうだ。
ここまで来たら引くに引けない、覚悟を決めて問いかけてみる。
「ママ、かすみさん……二人とも、結婚したんだよ……ね?二人恋をして、恋愛の末に結婚したんだよね?そ、それなのになんで……」
「「いいえ、偽装結婚よ?」」
「なんですと……?」
帰ってくる衝撃の一言。なんかこのママたち、とんでもない事言ってる気がする。……偽装?
「偽装って言うか……より正確に言うと……その方が色々と都合が良いからやったのよね」
「そうそう。二人の利害が一致したからこの形になったって感じかしらね」
「…………ごめん二人とも。私の中で理解が全然追いついてない」
もうちょっと子どもの私にもわかるように説明して貰えないだろうか。
「そうね……もう色々バレちゃったんだし……この際だから開き直るわ。私ね、ユキちゃん……ホントはみぞれとじゃなくて——ユキちゃんと結婚したかったのよねー」
「は、はぁ…………はぁ!?けっ……結婚!?……かすみさんが……私と!?」
「その通り。告白するわ。ユキちゃんと初めて会った時…………衝撃だったわ、一目で恋に落ちちゃった♡ああ、この子こそ私の運命の人なんだって……天啓を得たの」
なんかかすみさん語り始めた。結婚て……いや、というか待って?私とかすみさんが初めて会ったのってさ。私がまだ1歳にも満たない時だったはずでは?
「その時から、ユキちゃんに振り向いて欲しくって。とことんユキちゃんを可愛がったわ。いっぱいお世話して、いっぱい貢いで。ユキちゃんが困らないようにみぞれにお仕事紹介したり住む場所も与えたり」
「貢ぐって…………じゃ、じゃあまさか。あの大量のプレゼントって、私に気遣ってしてたんじゃなくて……」
「気遣う?何の話?そりゃ勿論、ユキちゃんに惚れて貰いたくてプレゼントしてたに決まってるでしょ。財力アピールしつつ色んな意味で依存させて、私の虜になって貰いたくてね♡」
なんか妙に生々しい……
「んで、本題の偽装結婚の話になるんだけど。……ユキちゃんもあっという間に大きくなって。そろそろ食べ頃——じゃなかった。そろそろ機は熟したって確信したの。正式にユキちゃんに結婚を申し出ようとしたわけよ。そしたらさぁ、そこのみぞれがね——」
「うちの子は嫁になんかあげないわよ。他の誰にも、勿論かすみにもね。大事な愛娘なんだもの。ずぅっと、永遠に。あたしの側から離さないわ」
「——って。とち狂った事言い出しちゃってねー」
……私には、どっちもかなりとち狂った事言ってると思うよかすみさん。
「で、どっちも引かない大口論を繰り広げる事――一ヶ月。最終的には……私とみぞれの二人が結婚する事で落ち着いたの」
「はいそこ、そこが全然意味がわかりません」
なんで、どうしてママたちはそんな結論に至るんだろう……?説明を求む。
「こいつの暴走を止めるための苦肉の策よ。かすみは本気でユキに手を出そうとしてたからね……こうなったらかすみをユキの義理の母にして。手を出したくても出せない、このあたしと同じ辛い気持ちを味わわせようと——こほん。母と娘の立場を強制的に作って、簡単にユキに手を出せないようにしたってわけ」
「そういうこと。……まあ、私的にはユキちゃんと親密な関係になる機会が増えるわけだし。とりあえずの妥協点って事で了承したの。ユキちゃんのお嫁さんになるのも良いけど、ユキちゃんのママになるのも悪くはないなーって思って♡」
「…………」
おかしいな……説明はされたけど、一向に意味がわからない……思わず頭を抱えてしまう私。
「あら?どうしたのユキちゃん?急に頭を押さえて……もしかして痛いの?病院行く?」
「そりゃユキも頭も痛くなるに決まってるでしょかすみ。信頼してた家族同然のやつが、自分を変な目で見てるって知ったらさ」
「……言っておくけど。頭が痛い半分は、ママが原因だからね?」
「えっ!?」
何故そこでそんなに驚いた顔が出来るのか、私の方が驚くよママ……
「ねえママ……ママも変な目で私の事見てたの……?昔からそうだったの……?」
「失礼ね。そこの
「そ、そう……なら良かった」
「ただあたしは……昔みたいにユキにおっぱい吸って貰いたいとか、ユキのおしめ変えてあげたいとか、親愛の証にユキにいっぱいキスしたいって思ってるだけで。ユキの事を、全然変な目で見てなんていないわ」
「…………」
それ、十分変よママ……
「ま、とにかくもう隠す必要もないわけだし。これからは堂々とユキちゃんにアプローチをかけさせて貰うわね。それでは……改めてユキちゃん」
「は、はい……?」
「これから家族として……いっぱい仲良くしましょうね♪」
「え、ええっと……」
キラキラエフェクトが見えちゃうような、そんなにっこり素敵な笑顔でそう私に言ってくるかすみさん。
……おかしいな。普通の事を言ってるはずなのに……仲良くって意味がなんか……なんか妙にいかがわしく聞こえる気がする……
「ユキ、大丈夫よ。心配しないで。ママがこいつの魔の手にも。その他ユキに害を加えようとする輩の魔の手にも。その全てから守ってあげるからね」
「ありがとう。でも……ごめんママ……私はママの魔の手も心配になってきたんだけど……?」
寧ろ一番の危険な魔の手だと思う……
「あー!その言い方ずるいわかすみ!それじゃまるで私が悪役みたいじゃないの!」
「母親から娘を奪おうとする輩は、総じて悪よ。自分でユキを産んだ事も、自分の母乳でユキを育てたこともないやつは一昨日来なさいな」
「ぐっ…………そ、その伝家の宝刀を使ってマウント取るの卑怯よかすみ……!わ、私だって……私だってぇ……!ユキちゃんを母乳で育てたかったのにぃ……!私のこのお腹で、ユキちゃんを産みなおしたいのにぃ……!」
「…………」
白昼堂々と、そんなアブナイ発言をしながら。大岡裁きよろしく、私の手を取って私を奪い合う二人。もうやだこのママたち……
——私には二人のママがいる。どっちもとっても綺麗で、とっても優しくて。ずっと私のあこがれの人たち……だった。
…………そんな二人に……現在進行形ですっごいアブナイ目で見られてるんだけど……私、これからどうなっちゃうんだろう……?
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