第5話
「な、なんなんだよ!」
そこで、田沼は一呼吸置きゆっくりと語り始めた。その雰囲気は先ほどのおちゃらけた風ではなかった
「俺ら退魔士って基本人手不足なんです。仕事の全てが死と隣あわせ、殉職なんてザラ。それを念頭に聞いてくれたら嬉しいですね......と言っても、家族を殺されて平常で居ろってのは酷なお願いでしょうが」
「ッ!?」
そ、そうだ.....被害者は僕だけじゃないんだ。悲劇のヒロインずらなんておこがましい!!
田沼の言葉に思わずハッ!とした大樹は形代の肩を掴んでいた手を放しベットに静かに座り田沼を見た
「すいません......お願いします」
「感謝するっす」
田沼は先ほどの口調はなんだったのかと思うほどの軽い口調に戻った。そしてまた一呼吸置きゴホンッ!と強めに咳払いをして話し始めた
そして、一つ一つ僕がわかるように説明してくれた
退妖魔協会の理念。体制。緊急時の対処とその珍しさ.....さらには退魔士の殉職率、生き延びたたものの前線には戻れないほどの傷を負った人の数すらも教えられた。
「ッ!.....そう、だったんですね」
そんなことを聞いてしまったら怒るに怒れない。そんな大樹たこの一言が声に出せる精一杯だった。
己惚れていた.....何も僕だけが被害者じゃないんだ
「そういう訳っすから、形代さんだけを責めないでやってください。これでも大分無理してんすから」
田沼はそう言うと椅子に座り俯く形代に視線をやる。それにつられ大樹も形代へ視線を向け体を向ける
「形代さん....怒鳴ってしまいすいません」
謝る。それがせめてもの誠意だ
「い、いや、仕方のないことだ。気にしていない」
僕でもわかる、絶対に無理をしている顔だ......それによく見ると目の下に隈もできている。そんなに忙しいのか?退魔士というのは.....
「じゃあ、大幅にそれた話を戻すんっすけど、あの日、君は何を見たんっすか?辛いことを思い出させて申し訳ないんっすけど。お願いします」
「わかりました」
僕はあの忌まわしき記憶を思い出す。そして話した。爺さんの蔵に行っていたら家が燃え禍々しい肌をした黄色い大きな鋭い角を持った鬼が現れたこと。目の前で父を喰われたことを........そして、そこで気を失ったことを
大樹が話し終わると形代、田沼は顔を見合わせた
「なるほど....しかし、妙だ」
「そうっすね」
二人が揃って訳が分からないといった様子。思わず僕も一緒になって首を傾げてしまう
「あの...何が妙なんですか?」
ん?あぁ....そういえば言い忘れてた
「いや、君はなんで外に...それも蔵なんかに行ったんだ?」
「それは声に導かれて.....あっそうだ!僕を助けてくれた時刀落ちてませんでしたか?」
なんでこんなに忘れっぽいんだ!この馬鹿!!刀どこ行った?刀!!
「刀?私は見てないぞ。田沼はどうだ?」
「見てないっすね。君を助ける際その周辺もくまなく見たけどそれらしきものはなかったっすよ」
「そうですか.....」
見てないのか.....
そういえばあの刀の銘はなんってったっけなぁ~?.....あっ!思い出した『妖魔喰らい』だ。
試しにこの二人に聞いてみるか?もしかしたら名前だけでも知ってるかも.....
「...あ、あの《妖魔喰らい》っていう名前をご存じないですか?」
「「ッッ!?」」
名前を言った瞬間二人は固まる。微動だにすらしない。正確には出来ないほど驚いていた。名は体を表すと言うように『妖魔喰らい』の本質は妖怪を喰らう事だからだ。その存在を知るのは3級以上の退魔士のみだからだ。それが何の変哲もないただの一般人が知るはずもないからだ。そうとは知らず大樹はさらに質問をする
「え、どうしたんですか、お二人とも」
「どうしたじゃない!なんでその名を君が知ってるんだ!」
「そうっす!それは江戸時代に作られた刀で妖刀と呼ばれるものなんっす!」
先ほどとは逆転し大樹が形代、田沼の二人に肩を掴まれもの凄い勢いで揺らされていた。そして田沼がその凄さを解こうとする
「へぇ~、でもそれだけでそんなに驚くことですか?」
が平々凡々な一般人の大樹がそんな事知る由もなく肩透かしな反応が田沼へ帰る
「何サラッと流してんすか!妖刀はその名の通り妖気を纏った刀だ。そして、妖刀は妖刀が選んだ者のみが扱える。逆に認められなかった者が妖刀を持つと生涯様々な不運が降りかかると言われている。そして、その効力は他のそれとは一線を画すものなんだ」
そんな大樹に対し田沼はくってかかり口早にその説明をする。
「え!?じゃあ、僕が鬼に襲われたのってその所為なんですか?」
「え!?触っちゃったんっすか!?」
「はい...あっ、でもその後この刀の記憶?を見たり、変な侍の格好をした人から『お前に託す!』て言われたんですけど.....」
「み、認められてるぅぅ~~.....」
田沼は思わぬ事実に震え膝から崩れ落ちた
「あぁ、これは確定だな....」
一方の形代は手で自分の頭を抑え頭痛に耐えるかのように俯きつつ呟く
「そうっすね.....」
それに同感し床に向けていた視線を大樹へ戻す
「な、なんですか....?」
二人は一度顔を合わせ両方が頷いたと思ったら再び大樹へと視線を向けた
「君があの鬼を祓ったんだ」
「.....え?」
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