第16話 パピーナの日記


 たぶん夏の終わりごろ。晴れ。



 仕立て屋のミセス・ディルメイ様が、つい二日ほど前にお出でになられたところなのに……もう室内着が到着したの。


 さすがは、魔族随一の縫製ほうせい作家。


 衣装ケースを開けると、「室内着」となく書かれたメモの下に、三着ものドレスが入っていました。


 お弟子さん達も超一流と言われるだけあって、この迅速じんそくさと、素晴らしいデザイン……!


 そのどれもがもう……もう、最高すぎて。


 私も一度でいいから、着てみたいです。


 一番上には、やっぱり一番のドレスが入ってました。


 白のベーシックワンピースドレスと、その上に重ねて着る淡い赤のフレアシースルードレス。


 ベーシックドレスだけでも、つるを描いた銀の刺繍ししゅうが凄いのに……この上品な赤のシースルーを重ねると、華やかな大輪たいりんの花に――。


 これですっ! これを早くサーリャ様にお着せしたいです!


 あぁ、どうして夜になんて届くのですか?


 ほんとに他の二着もすっっっごい可愛くて、朝まで待つのが……つらいです!




 黒いシースルーのベーシックドレスに、黒のフレアキャミソールドレスを重ねるなんて、天才なの。


 これも早く、サーリャ様にお着せしたい!


 あの真っ白な肌を、完璧に映えさせるのが目に浮かびます。



 もう一着は、単体で着る空色と白のグラデーションのドレス。


 サーリャ様の奥ゆかしくもさわやかな印象を、絵に描いたようなスッキリとした仕上がり……。


 まさしく天才の仕事です!




 サーリャ様を華やかに引き立て、サーリャ様を艶やかに映し、サーリャ様の内面を浮かび上がらせる……この三部構成、わたくしパピーナはしかと! しかと受け止めました!


 それに、どれもデコルテが開いていて、首輪があっても似合うようにサッパリとさせているという完璧な構成。


 色を合わせた可憐なハイヒールも三足。完璧過ぎです。


 パピーナは……三日も待ちきれないですッッ!


 全部着ていただくのに、三日も掛かってしまうなんて神様はイジワルです。


 あぁんもう、一時間ごとにお着替えしていただきたい――。




 しかもです。


 小箱には、どのドレスにも似合いそうな飾り櫛、髪留め、可愛いティアラなんかも何点かずつ入っていたの。


 サーリャ様の金髪に、ぴったり合うプラチナ製の高級品ばかり。


 これをそれぞれに組み合わせちゃうとなると、三日じゃ足りない……。


 あぁ、サーリャ様は魔王様とのご結婚、あまり乗り気ではないようだけど……。


 やっぱり、こんなに素敵なドレスを見ちゃうと……私としてはひっついてもらいたいなぁ。


 ずっとお側で、こうして次の日のドレス選びを楽しみたいのに。


 それにほら、魔王様はコワイけど、本音のところではお優しいですし。


 お顔も整っているし精悍せいかんだし、なにより背が高くてめっっっちゃたくましいですから!




 その魔王様と、とびきりの美貌びぼうを持つサーリャ様のカップルはもう、最推さいおし決定なの。


 やっぱり、魔王様にグイグイ来られて困惑しつつも、あれよあれよと受け入れてしまう展開が最高ですよねッ?


 あまあまのイチャイチャ…………からの、もうめちゃくちゃに…………くはぁ!


 ふぅ。どこから妄想しても最高ですッッ!


 早く……くっついちゃえばいいのになぁ。


「あんなことやこんなことをされるの、受け入れちゃってても、いいのかなぁ」


 ――なんて相談された日にはもう! もう!


 ふふ。はなぢが出てしまったの。


 ……どうか、サーリャ様が魔王様を好きになって、落ちちゃいますように。


 私の最推しカップル誕生を願って。


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