第5話 それぞれの立場(2)
「おい、バイデル」
「ははっ!」
魔王が、他に誰も居ない自室でその名を呼ぶと、即座にタキシード姿が現れた。
広いが
視線の先には、魔王の黒いロングブーツを見据えている。つま先から上目に辿ると、いつものゆったりとした黒のスラックス姿が見える。
ベルトはそれ用の物で、帯剣ベルトはどこかに外しているらしかった。
そして横目でチラリと、バイデルは辺りを確認するのだ。最近は減ったが、言い寄ってきた女を
相変わらず、ベッド以外にほとんど何もない、普通の精神ではない部屋だなと思いながら。
その魔王はソファにもたれかかり、ナイトテーブルに置いていた
めずらしく、回りくどい話し方をする。
バイデルは、
だがふと、連れ帰ってきた娘の事ではなかろうかと思い
こんな事は初めてなだけに、それしかあるまいと。
「あの首輪は……失敗だったろうか。パピーナが俺に口答えするなど、無かったことだしな。少し気になった」
その真剣な声を聞いたバイデルは、肩を
「ま……魔王様。
「ほう、そうか。やはりそう思うか。せっかく俺が気に入ったんだ。犬猫のように不意に逃げ出して、外で魔獣に喰われては
この
他の誰かが気付いてしまっては、早々に実ってしまうか、もしくはこじれてしまいかねない。
それに、あの娘が本気で嫌がるようなら、上手く逃がしてやる
その辺りの
「その通りでございます。その深い
「ほう……。さすがはバイデル。そういう手もあるか……。だが、早く俺の物にしたくもある」
その言葉を聞いたバイデルは、女に不自由しないせいで、おそらくは恋愛など知らないのだろうと、頭が痛くなった。
魔族の頂点たる魔王は、女に困らない。
抱きたいと思うまでもなく、向こうからすり寄ってくるからだ。
その弊害が、まさかこんなに早く顔を出すとは、先が思いやられる事態だった。
「魔王様、それでは
これで意図が届かなければ、もしくは欲を優先させるならば、別の言い回しを考えなくてはならない。
バイデルは正直なところ、楽しむ以外の事は面倒でしょうがないと考えているクチで、早々に
「チッ。そうか、そうだな。俺も嫌がる女を押し倒しては、あの人間どもと同じではないかと思っていたんだ。しかし……
それゆえか、長年
「……時間はたっぷりとございましょう。まずは優しさをお見せになると良いかと。さて、他にご用件がなければ、私はこれにて」
そこまで言うと、バイデルは姿を消した。
「あ、おい! ……くそ。あいつ、この手の話が面倒になりやがったな?」
意外とその辺りを察したらしい魔王は、手に持ったままのグラスを口に運び、酒をあおった。
「……力ではどうにもならんじゃないか」
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