第13話~とあるオカルト系チャンネルより抜粋~

 箱を運ぶ女という怪奇現象をご存じだろうか。


 ○○県××市の郊外にある歌草峠と呼ばれる場所では、昼下がりの特定の時間に木箱を運ぶ女の姿が目撃される事がある。


 歌草峠とは、地元の人間であれば決して近づく事のない忌地であり、みたまや様という山神の住まう場所である。禰様は黒い人影のような姿で、歌草峠の先に有る来禰くるねという社に人身御供を捧げると姿を現し、五穀豊穣を約束してくれるという。人身御供を捧げる際は、神楽を作りその上に人身御供を縛りつけ火を放つ。元々の歌草峠の名前は火葬峠かそうとうげと呼ばれており、不穏な名前を避けて大正時代に改名された。


 現在は来禰は取り壊されており、この歌草峠の道も草木の浸食で閉ざされているため、その跡地の場所も不明となっている。


 当チャンネル所属のライターであるN氏は、この来禰の跡地を調査するべく歌草峠を訪れた際に、箱を運ぶ女と遭遇したと言います。


「いやぁ、来禰の調査が空振りで憔悴していましたから、箱を運ぶ女を見つけた時は怖いという感情よりも喜びが勝りましたね」

「箱を運ぶ女とは一体どういう存在なのでしょうか」

「はい。歌草峠という場所では人身御供の儀式が執り行われておりましたが、ここで選ばれるのは幼い男児だったといいます。この箱を運ぶ女とは、人身御供にされた男児の母親が、息子へのお供え物を運んでいた事が起源と考えられています。悲しみに暮れる母親は死後も怨念となり、息子へのお供えを続けているんですね」

「なるほど、悲しいお話ですね」

「ええ、悲劇的な幽霊です。私が見たモノも悲哀の表情を湛えた女性でした。こちらが写真になります」

「これは……随分と実体のある幽霊ですね。服装も現代の物に見えます」

「はい。恐らく彼女は箱を運ぶ女に憑りつかれた女性と考えられます。しかし、彼女はこちらからの呼びかけには一切応じる事が無く、まるで私の姿が見えないかのように淡々と箱を運び続けていました」

「箱を運ぶ女という怪異は人に憑りつく事があるのですか?」

「ええ。現地の郷土資料には、箱を運ぶ女は幽霊として記述されていましたが、実際の目撃情報はその時代に合わせた容姿をしていたと言います。共通する点としては、十代後半から二十代前半の女性であることと、どこからともなく箱を抱えて姿を現すという点ですね。私はこれらの目撃情報は、各時代ごとに箱を運ぶ女に憑りつかれた女性が、箱を運ぶ役目を背負わされるのではないかと考えています」

「可能性としては十分ありますね。それで、箱を運ぶ女はその後どうなったのでしょうか?」

「箱を抱えたまま茂みの奥へ進んでいきました。私は来禰への足掛かりが得られると考え、その後をつけようとしたのですが……女は歩きにくい足場などお構いなしにぐんぐん進んでいきました」

「結局、見失ってしまったんですね?」

「はい。オカルトライターとして、不甲斐ないばかりです。ただ、今後は箱を運ぶ女を見失った地点を中心に周囲を調査する予定です。もしかすると、来禰の場所を特定する事が出来るかもしれません」


 当チャンネルでは引き続き来禰の調査を続けていきたいと考えております。現在、来禰調査のアルバイターを募集中です。視聴者の皆様も、失われた奇祭の調査に参加しませんか?


 興味のある方は以下のフォーマットより必要事項を記載の上、メールにて応募してください。質問につきましては、メールまたは電話にて担当の根深知宗太郎までお問い合わせください。

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