第11話~七日目は謎を纏めて~
七日目にもなると、佐里香は一抹の不安を感じ始めていた。
もうアルバイトは今日を合わせて残り二日だ。このまま私は、このアルバイトの真意を知ることなく、仕事を終えてしまうのではないか。
今日は昨日の雨が嘘のように晴天だった。清々しい陽気の中、歌草峠への道を行く。その道程で、このアルバイトの謎を考える。
一つ。あの箱の中身は一体何なのか。
二つ。この仕事の依頼主である根深知宗太郎の目的は何なのか。
三つ。いつも電話に出るあの女は一体何者なのか。
四つ。来小禰とは一体何なのか。
五つ。昨日見たあの雑木林の人影は一体何者なのか。
細かい事を考えると、他にもあの小屋の事や歌草峠のその先の事など色々とあるのだが、佐里香が特に不可解だと考えているのが、この五つだ。
残りの二日間でこの謎を解く術はあるのだろうか。
まず、問いの一つ目については、少し難しい。このアルバイトが終れば、あの箱と関わることが無くなるだろう。だが、もしも給与を明日受け取った後にも箱に触れる機会があれば、あの箱の中身を確認しても良いかもしれない。
次に問いの二つ目と三つ目だが、これはもしかすると確認する事が出来るかもしれない。明日、給与を渡す為に根深知宗太郎か例の女が姿を見せるはずだ。その時に問い詰めれば良いのだ。もちろん電話のようにはぐらかされる可能性はあるが、電話と違い通話を一方的に切る事はできない。話を聞くためにできる事は多いだろう。
四つ目については、一番簡単な方法がある。アルバイトが終った後で後日あの来小禰を調べればよい。仕事が終った後ならば契約に縛られる必要は無いのだから、あの来小禰をいくら調べようが文句を言われる筋合いはない。
最後に五つ目だが、これは正直無理だと考えていた。あの人物が再び現れるか分からないうえに、もし現れたとしても関わり合いになりたくない。不審者の行動は不審がゆえに不審者と呼ばれるのだ。わざわざ理解したいとも思わない。
小屋に到着した佐里香は、もはや慣れた手つきで小屋を開ける。中の箱は二日前と同じ大きさに戻っていた。昨日の箱ならば楽だったのにと落胆しつつ、箱を抱えて外に出る。
昨日の雨のせいで、まだぬかるんだ足場は歩きにくく、更に昨日よりも重い荷物を抱えているせいで時折転倒しそうになる。
何とか来小禰に辿り着き、いつもの場所に箱を置く。これで今日の仕事も完了だ。
佐里香はふと気になって、来小禰の裏の雑木林を凝視する。昨日と違い、あの謎の人物は姿が見えなかった。
やはり、あの人物については探るのが難しそうだ。きっともう二度と出会う事は無いだろう。それとも、明日は現れる?
落胆と安堵が入り混じった感情で、佐里香は来小禰を見る。小さな社のような、観音開きの扉がついた木造のオブジェクト。この中には何が入っているのだろうか。
開けてみたい。その欲求を堪え、せめてもとの思いで来小禰の裏を見る。
来小禰の裏には何もない。何かが描かれているだとか、背後にもオブジェクトがあるだとか、そんな事は無かった。
という事は、昨日のあの人物は佐里香を見ていたのだろうか?
急に来小禰の裏の雑木林が不気味なものに思えて、佐里香はそそくさとその場を立ち去る事にした。
峠を降りると、いつも通りに小屋の施錠を確認して、いつも通りに帰路につく。
このアルバイトも明日で最後だ。このまま何事もなく終わって欲しい。そう思いながらも、心のどこかでは何か謎を紐解く切っ掛けになる様な出来事が起こらないかと期待していた。
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