第3話~送られてきた封筒と業務内容~
大学生協の募集を見つけてから数日後。佐里香の自宅に一通の封筒が届いた。差出人は根深知宗太郎となっており、佐里香はすぐにアルバイトの件だと察しがついた。
あの日、鈴の携帯端末から電話を掛けると数コールの呼び出し音の後に女性の声で「根深知です」と返答があった。
その声は若い女性のようでもあり、だが落ち着きを払った壮年の女性の用でもあり、そして人工音声のような無機質な印象を抱くものだった。
佐里香がアルバイトの件で連絡した旨を伝えると、電話の相手は「住所と氏名を教えてください。詳細を送付致します」と答えた。
この対応に佐里香は若干の安心感を覚える。この声の主が根深知宗太郎の娘だろうが妻だろうが、懸案事項の一つ――つまりは若い女性こそが狙いの犯罪――である可能性がほぼ払拭されたからだ。
名を名乗り住所を伝えると、相手は「数日以内に業務指示と関連書類を送付致します」と伝えて切ろうとした。慌てて携帯端末が故障している旨と連絡方法についてはどうするのか尋ねると、相手は「端末については承知しました。こちらで連絡が取れる方法を検討致します」と一方的に伝えられ、通話は切れてしまった。
鈴には礼を言って、そのやり取りの一部始終を伝える。鈴からは「何かあったらすぐに私の家に来て。夜中でも大丈夫だから」と言われた。
「鈴は心配性だなぁ」
一人の部屋であの日のやり取りを反芻しつつ、佐里香は送付された封筒を開封する。
中には一枚の紙と旧式の携帯端末、そして鍵が入っていた。
一体これはどういう事だろうか。訝しみながらも、同封されていた書類に目を通す。
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城島佐里香様
この度は依頼をお引き受けいただき誠にありがとうございます。
城島様にお願いしたい事を以下に記します。また、禁則事項につきましては厳守願います。
日時:●月×日~▼日(8日間)
場所:
指示内容:
歌草峠の麓に小さな小屋がございます。こちらに上記の日程の間、毎日14時28分にお越しください。同梱した鍵で中に入れますので、立ち去る際は必ず施錠をお願いいたします。小屋の中にはすぐにわかる場所に両手で抱えられる程度の木箱が置かれておりますので、こちらを歌草峠の中腹にある来小禰までお運びください。(祠のような見た目のものになります。歌草峠は一本道となっておりますので、見れば分かるはずです)
この来小禰の前に台座がございますので、こちらに木箱を置いていただければ結構です。
また、連絡手段として携帯端末を同梱いたしました。必要に応じてこちらから連絡いたしますので、状況に応じて私の指示に従ってください。
給与につきましては、業務の最終日に手渡し致します。
禁則事項:
一. 箱の中身については詮索しないでください。開封はもちろん、箱を揺らす、穴をあける、隙間から覗き込もうとする行為などは非常に危険なのでおやめください。
二. 小屋および来小禰の近辺には業務時以外は近寄らないようにお願いいたします。業務が終了し次第、速やかに帰宅するようにお願いいたします。
三. もしも業務中に他者と出会った場合は、会釈して道をお譲りください。非常に可能性は低いですが、もしも話しかけられた場合は、無視をして業務を遂行し、携帯端末でご報告ください。
四. 不測の事態により業務が行いない場合(病欠等)はご連絡ください。絶対にご自身の判断で代理の者を用意せず、私の指示に従ってください。
また、本件についてインターネット上に業務内容を書き込む事案が発生しております。第三者に業務により知り得た情報を開示する行為は守秘義務に違反致しますので絶対におやめください。
このような指示を受け、非常に困惑されている事と存じますが、ここはひとつ金持ちの道楽にお付き合い頂くと考えて頂ければと思います。
重ね重ねになりますが、禁則事項につきましては必ずお守りください。もしも禁則事項に抵触する恐れがある場合は、業務を中断しその場を離れ、私の指示に従ってください。
以上、よろしくおねがいいたします。
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一読し佐里香は内容を飲み込めずにいた。これは一体なんなのだ?
書いてある内容は分かる。ちゃんと日本語で書かれているし、やるべきこととやってはならないことは明瞭だ。分からない事としては、来小禰の読み方とそれが何であるかぐらいである。
だが、こんな内容のアルバイトは意味が分からない。一体依頼人はこんな事をして、何が目的なのだろうか。
佐里香は同梱されていた携帯端末に手を伸ばす。祖母が持っていた二つ折りの端末とよく似た、画面にタッチする操作方法ではなくボタンを押す操作方法のようだが、これは二つ折りではなくボタンの上に画面がある形だ。子供の頃に遊んだ玩具の携帯とよく似ている。
これで依頼主に電話をかけ、詳細を聞き出そう。そう考えて適当なボタンを押すと、画面が光る。見た事のない画面だが、直観で操作して電話帳を開く。案の定、登録は一件。そこには根深知宗太郎の名前があった。
番号は募集のチラシに書かれていた物と同じようだが、試しに掛けてみようと根深知宗太郎の名前を選択する。しかし、通話は繋がる事は無く、自動音声で電波が入っていない事を告げられるだけだった。
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