閑話 ゴシップ紙の男(サヴェス視点)
「どうして、この男が人気があるんだ……?」
同僚に泣きついて彼が所持している過去のゴシップ紙を見せてもらったが、どれを読んでもサヴェスには女性が好む要素がわからなかった。
眉間に深い皺を刻んで問いかければ、ルチアンは快活に笑い声をあげた。
「クズな男に翻弄されたいって女性は結構多いんじゃない?」
「嘘だろう……全く理解できない」
「実際、お前の妻がそのいい例じゃないか。悪い男に振り回されるのが好みなんだろう」
指摘されて、サヴェスは首を傾げた。ルチアンにはサヴェスがゴシップ紙を読みたい理由は伝えてある。だからこその彼の発言ではある。
確かにサヴェスの妻であるシィリンはゴシップ紙が大好きらしい。その記事に書かれているようなことをしてほしいという願望も持っているようだ。
サヴェスが最低な発言をしたところで、心の底から喜んでいることを知っている。実際に、彼女が目を輝かせたのを何度も見ているからだ。
だが、虐げられたいと望む根本の理由が憐れだ。
「彼女は自分が不幸でいることで、父親の罪を償っているつもりなんだ」
ゴシップ紙を崇めている理由を、シィリンのメイドはそう伝えてきた。
実際、そんなことで神がお目こぼしをくれるのかサヴェスにはわからない。何より、それが真実かどうかは問題ではないのだ。
それをすることで、シィリンが贖いをしているという事実が大事なのである。
「よくわからんが、ある意味けなげな子ってことかな?」
「そうなんだろう。だというのに、私は彼女にとんでもない仕打ちをしてしまった……思い込みとはいえ、大人げないにもほどがある」
なぜなら過去の記事にも彼女の父の話題は事欠かない。サヴェス以上の登場回数である。一家離散、破産そんなものが生ぬるいと言わざるを得ないほどに、悲惨な事件が見出しに踊る。それに全て関わっている男。それが彼女が幸せになってほしいと思う父なのだ。家族への愛情深い少女なのだろう。むしろ一途で、その思いはどこまでも尊い。
家族をクズだと切り捨てたサヴェスとは正反対の少女。彼女はきっと愛する父親がどんな男だとしても見捨てられないのだ。
メイドはゴシップ紙に載っている記事は、事実よりは優しいと言っていた。
つまり彼女は極悪人である父の姿を見て、彼の代わりに必死に償っているのだろう。
そんなひたむきでいたいけな相手に、サヴェスはとんでもないことをしたと猛省した。
だが、読めば読むほどに躊躇を覚える。
「ん-、でも相手が喜んでいるなら、それほど気に病むこともないんじゃないか」
「人としてはやってはいけないことだ。あんなクズのような家族にまで救いを差し伸べてくれるような心優しい子なんだぞ。私は償うべきだ。けれど、これは本当に償いになるのか?」
「確かに……ゴシップ紙読んで女を弄ぶようなひどい男が償いになるんだから、よくわからん状況だよなあ……」
同僚の指摘には、サヴェスも頭を悩ませた。
男であるサヴェスから見ても、ゴシップ紙に出てくる男の行動は最低だ。クズの中のクズである。一方的に女に言い寄って、その気にさせておきながら用が済めば捨てるのだから。
本当にこんな男が夫で、彼女は喜ぶのだろうか?
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