第24話 変わる伯爵家
心配したのなら駆けつける先は伯爵家であるはずで、ドレスの用意などを気にかけるものなのでは?
別に夫の助力など期待していないし、余計なお世話ではあるが疑問は残る。
会場で待っていても仕方ないのではないかとシィリンは考えるが、夫の意図はよくわからない。
「家に戻って君を連れてこないように説得しようかと思ったんだが、執事に心配はいらないと聞いたから、こちらで待っていたんだ」
「ああ、そうでしたか」
一人で会場入りしていたのは執事の指示か。
ほとんど屋敷で関わりはないが、彼は主家の意向に忠実だ。シィリンにはなんの思いも抱いていないのがよくわかる。
職業人なのだ。
「しかし、母とヴェファまで、随分と雰囲気が変わるものだ」
離れた場所にいるオヌビアとヴェファの装いを眺めて、サヴェスはしきりに感心している。これまでの派手な装いではなく、高位貴族らしい金をかけた洗練された格好である。
上品で、エレガント。
平民であれど、淑女教育をしっかりと受けたシィリンが常に心掛けていることだ。父が金をかけて教育してくれたので、しっかりと身に付いている。
和やかに他の貴族たちと談笑しているので、上手くいっているのだろう。
「我が家の評判は最悪だったから、あんなふうに社交をしているのを初めて見る。これまでは少しも理解できなかった存在だが、こうしてみると血のつながりを実感するよ。少しは理性があったようだ」
「最近は色々と学んでいるみたいですよ?」
サヴェスは家族が嫌いなのだろうか。言葉は辛辣で、そこには憎悪しかない。
彼女たちの変化は、主にシィリンが教育的指導を行っている賜物である。
怒らせて価値観を一度ぶち壊し、その後で正当な知識を植え付けたのだ。短期間の荒療治だが、成功したのはシィリンがすでに経験したことがあるからだ。
実家にいる継母と継子を思い出しながら、ふふっと笑えば、なぜかサヴェスは愛しげに瞳を細めた。
「君は本当にすごいな」
「え?」
シィリンが伯爵家で好き勝手しているだけではあるが、どこに褒める要素があるのか。嫌味かと思うが、サヴェスの表情は純粋に感心しているだけだ。
「こんな家に嫁いできたのだから、すぐに逃げ出すと思っていた。散々、嫌がらせも受けただろう? あの家は本当にクズどもの集まりだ。だというのに、母も妹も様子が変わった。社交界でも随分と噂になっているらしいな。君のおかげなんだろう?」
「やめてください」
理想の政略結婚をした婚家を潰したくなかっただけだ。
別に義母や義妹の性格を矯正したかったわけではない。
シィリンの思惑が失敗したのだと実感させるような言葉をかけてくるのはやめてほしい。
顔を顰めれば、サヴェスは不思議そうに首を傾げた。
「放置ばかりで君に頼りすぎたから、怒っているのか?」
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