第21話 教育の成果

「お義姉様、こちらの装いなんていかがです?」

「そうですわね……。なら、アクセサリーはこちらのものをお貸しいたしますわ」

「わあ、素敵ですね」

「元王家御用達の老舗の宝石職人が手掛けた一級品ですわ。大きさももちろんですが、カットが絶妙で素晴らしいでしょう?」


 ヴェファが瞳を輝かせて食いついてくるので、シィリンは満足げに微笑んだ。


「あら、ここにいたの。ねえ、シィリンさん。この格好はどうかしら」


 義母のオヌビアがヴェファの部屋であれこれと支度をしていた二人に声をかけてきた。

 シルクのドレスに華美さはなく、ただただ優雅である。

 派手顔のオヌビアが着れば、それだけで極上の品に見えるから素晴らしい。


「オヌビア様、お素敵ですわ。ぜひ、こちらの髪飾りを送らせてください」


 シィリンはリッテが持っていた宝石箱から精緻な銀の髪飾りを出すと、義母の侍女に渡した。


「まあ、細工が細かくて綺麗ね」

「一級品ですから」


 どこぞの侯爵家が没落したときに借金のカタとして差し押さえた家宝の品である。

 おいそれと値のつくものではないが、オヌビアに似合っているしいわくを知らなければたいした品物なのだ。物に罪はないので、笑顔で差し出す。

 サヴェスが帰宅した日からすでに一週間が経っていた。


 次の日に母はシィリンが用意したお菓子で、シィリンがプロデュースした格好で茶会を催した。そして終わった途端に、茶会の話題を独り占めだったと上機嫌で語ったのだ。一緒に参加したヴェファも興奮しきりで、シィリンが選んだドレスをほめちぎってくれた。


 シィリンが用意した菓子は隣国で流行っているものであるが、卵白を泡立てて果物や色粉を使えば簡単に作れる焼き菓子である。材料から作れば、売り物の十分の一の値段で作成可能なのだ。しかも見栄えがするので、喜ばれる。


 さくっとした上品な舌触りと、口に含んだ瞬間にほろっと崩れる軽やかさが受けているので、そのうちこの国でも流行ると思われた。もともとは父が隣国の商人に金を貸していて、その取り立ての一環でもたらされたものだ。発明した菓子職人の身柄もレシピもしっかり父が抑えているので、あとは売り時を見計らっていただけである。


 シィリンが使ったとしても、頓着するような父ではないのでこうして披露してみた。父は金貸しは天才的だが、それ以外のことには執着しないのである。

 そうでもしないと茶会のたびにジッケルドクラ伯爵家は大赤字である。

 それを止められただけでも大成功だ。教育の成果と満足している。


 ただ誤算は、あれほど二人をこき下ろしたというのに、シィリンに悪感情を向けるどころかすっかりなつかれたことだ。

 茶会のたびに相談されるようになり、普段の小物使いなどのアドバイスを求められるようになった。


 シィリンが理想とする虐げられるはずの嫁家の生活がかなり遠のいたのは言うまでもない。

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