閑話2 驚きの光景(サヴェス視点)
「お帰りなさいませ、若様」
出迎えてくれた執事のミッテガルに頷き、屋敷の様子を探る。
屋敷は普段と変わりない様子だが、サヴェスはどんな小さなことでも見逃すつもりはない。仕事をする時のように、注意を払う。
「ああ、戻った」
「夕食は必要ですか」
「そうだな。皆は食堂か」
「え、ええ」
執事の歯切れの悪い様子に思わず期待した。
「何かあったのか」
ここで、妻が逃げたと言われるのかもしれない。
サヴェスは冷静さを装いながら、尋ねた。
「いえ、あの若奥様は食堂で食事をとられておられないのです」
「どういうことだ?」
執事の言葉をすぐにサヴェスは理解できなかった。
食堂で食事をとっていなければ、あの少女はどこで食事をしているというのか。
逃げたというようなニュアンスではないようで、どこか肩透かしをくらったような気持ちにもなる。
「結婚式の次の日に旦那様が朝食の席に呼ばれましたが、奥様が席をご用意せず……その日以来、お部屋からほとんどお出になられなくて。食事なども一切お運びしていないので、もしかしたらすでに逃げ出しておられるかもしれません」
「なんだって? 確認していないのか」
「はい」
結婚式から一週間も経っているのだ。
逃げているならいいが、もしそうでないなら彼女は食事を一切取っていないということになる。
それでは部屋で倒れている可能性だってあるのではないか。
十六の愛らしい娘に大人げなく憤って、放置していれば逃げ出すだろうと楽観視していた自分の甘さが、とんでもない悲劇を生み出してしまった。
「せめて、食事を運びがてら確認すればよかっただろう」
「若奥様に近づくなと奥様のご命令でしたので」
サヴェスは内心で盛大に舌打ちした。家族の残酷さはわかっていたのに、なんら手を打たなかったのだ。
母は悪徳高利貸しの娘を嫁に迎えることに大反対だった。
元伯爵令嬢である矜持が、どうしても息子の嫁として認められないのだろう。平民だけならまだしも高名な悪徳高利貸しの娘である。
だからといって、現状金がないのも事実。結局、評判の悪い平民の少女を嫁として迎えるしかないのだ。
そんな葛藤をやってきた少女にぶつけたというわけだ。
何が起きたとしても、それは娘が勝手にやったことだとでも嘯くつもりだろう。もしかしたら死んでくれればいいと放置したのかもしれない。そうすれば持参金は返さなくて済む。
そんなことくらい平気でやる父母だと、なぜサヴェスは思いいたらなかったのか。
この家で両親に逆らえる使用人がいるはずもない。
サヴェスは一週間前に訪れた妻の部屋に駆けつけて、慌てて扉を開けた。
そして、飛び込んできた光景に絶句するのだった。
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