第54話 シュリから聞かされる伝統
「どうして僕を呼び出したの? シュリさん」
「あんた吸血鬼のこと何も分からないでしょう?」
「っ!」
知らない。
亘さんは何教えてはくれなかった。
きっと知られたくないからだ。
「知りたい?」
ゴクリと生唾を飲み下す。
「うん……」
僕はまだ何も知らない。
それじゃダメだ。
僕は前に進みたいんだ。
「知る。知りたい。知ってわかり合いたい」
「……たいそうな夢ね」
「え?」
シュリさんはどこか浮かない顔をしている。
「ごめんね。昨日は酷いことを言ってしまって。でも、私は……」
「いや、なんというか。覚悟していたから」
「強いんだ」
「弱くはないつもり」
くすっと笑みを零すシュリさん。
銀色の髪が揺れる。
「じゃあ、教えてあげる」
「はい」
「吸血行為は本来、恋人同士、夫婦同士で行うの」
「え?」
じゃあ、亘さんはその気持ちで僕から吸血していのか。
なんだろう。すごく嬉しい。
「私たち本家では、その行為をしたものと結婚しなくてはいけない」
「分家、は……?」
ようやく言葉になった声を上げる。
「それが、あまりよく思われないわね。やはり掟に逆らったものとみなされるわ」
「そんな……」
「そしてここからが問題よ。同性同士での結婚なんてあり得ない。そう思っているのは昔からいる。そもそも同性婚が世間に知られてきたのも、ここ最近でしょう?」
そっか。
だからシュリさんもあんなに否定していたんだね。
英美里も言っていた。
『キモい』って。
分かっていた。
心のどこかで難しいこと。
世間から受け入れてもらえないということが分かっていた。
でも、僕は諦めたくない。
せっかく出会えたんだ。
せっかくここまで来たんだ。
もう振り返りたくない。
帰りたくない。
あの暗く残酷な日常に。
「吸血鬼の中の保守派は、今の事態を快く思っていない。あなたは吸血鬼に殺される可能性だってある」
「殺される!? なんで?」
「邪魔だからよ。あなたはそれでも亘のそばにいるつもり?」
「……」
「分かったのなら、すぐに亘と別れなさい」
「亘さんは……。亘さんは殺される心配はないんだよね?」
「え、ええ。ただでさえ、少ない吸血鬼人口だもの。それはないわ」
「なら、僕は彼のそばにいたい。死ぬその時まで」
「っ!? 自分が何を言っているのか、分かっているの!?」
「分かっている。死んでもいい。それでも彼のそばにいられるなら」
「バカッ!」
シュリさんは僕の胸ぐらを掴みかかってくる。
おおよそ常人のものとは思えない力だ。
「このまま殺さなくちゃいけないのよ。本家からの命令だもの。悪く思わないでね」
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