第53話 衝突
「それで、昨日の動画の編集作業に僕たちまで付き合うの?」
「人手が足りないんだから、文句言わない」
英美里がカチカチとマウスをクリックしながら、指示を出す。
「こんな細かいこと、よくやるな」
亘さんも困ったように呟く。
「まあ、そうね。でもこれは勉強しておいて面白いかも」
シュリさんはけっこう積極的にパソコンを操作している。
この二人、けっこう仲いいみたい。
「なに?」
「いや、なんでも」
「あんた。少し調子に乗っているんじゃないの?」
「シュリさん?」「シュリ」「シュリちゃん?」
僕を見る目が変わったシュリさん。
「本気で言っているのよ。自分の思い通りになってさぞ嬉しいでしょうね」
掴みかかってくる勢いで僕に肉迫するシュリさん。
「やめろ。お前も吸血鬼なんだぞ。ただの人である邦彦はすぐに死んでしまう」
「あんた。本気でこいつが好きみたいね」
亘さんをきっと睨み付けるシュリさん。
「……悪い。俺は今は邦彦が好きだ。ごめんな」
「じゃあ、いつだったら良かったわけ!!」
怒鳴り散らすと、シュリさんは英美里の家から出ていく。
「……シュリちゃんの気持ち。分かるかも……」
「英美里?」
「なんでもない。すぐに手伝って」
「はい」
その後、会話も事務的な話ばかりで淡泊なやりとりをするだけ。
気まずい空気の中、亘さんは必死でキーボードをうつ。
「亘さん。少し休憩にしよ」
「いいや、俺は英美里にもシュリにも認めてもらいたい。だから、頑張る」
俺にできることはそれくらいだから。
小さく呟く亘さん。
「認めて、もらう……? 本気で言っているの?」
「英美里」
「あんたたちキモいんだよ。男同士でくっついて。そりゃマンガやラノベの中なら許されるけど、あれは現実じゃない。リアルじゃない。勝手にわたしたちの気持ちまで考えないで」
「英美里。そんな言い方。だって、僕たちは本気で好きなんだ」
「だから、キモいんだよ!」
英美里はそう声を荒げる。
「もういい。帰って」
「だ、だが……」
「帰って……!」
「帰ろう。亘さん」
「ああ」
後ろ髪を引かれる思いで僕と亘さんは英美里の家を後にする。
「彼女、根を詰めていたね」
「お前も何か言えよ。じゃないと俺たち認められないだろ」
「亘さん……」
立ち止まり、少し考える。
「僕、亘さんの考えには否定的かな」
「なに!?」
「僕は、僕たちは自分の幸せのために、彼女らを傷つけた。その代償はどこにあるんだろう?」
「代償……?」
ぽかんと呆れたような顔を浮かべる亘さん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます