第49話 瑞巌寺

「うお。名月なづきちゃんじゃん」

 温泉むすめの名月ちゃんのポップイラストがでかでかと瑞巌寺の売店隣に置いてあった。

 記念にと、写真を撮る亘さん。

 僕も一緒に写真に映っていると、女子ふたりはあきれ返るように見ていた。

「先に行っているよ」

 英美里がそう言い、気を利かせたシュリさんも一緒に出口へ向かう。

「この瑞巌寺の床も百年経ったと聞いている。すごいよな」

「うん。そうだね」

「「……あの」」

 二人して言葉が重なる。

「なんだ? 邦彦」

「いや、亘さんこそ」

「なんだよ。それ」

「僕、亘さんが好きだ」

「え!」

 それはどういった喜びだろう。

 僕と同じなら、きっと。

「亘さんを結婚したいという意味で好きなんだ」

「……」

「ごめん。迷惑、だよね……」

「いや、そんなことは!」

「だって同性だよ。おかしいよ」

 僕は自分で自分の言っていることが分からなくなり、悲しくなる。

 嘆き叫んでも事態は進展しない。

 きっと心なんて無意味なんだ。

「そんなことない! 俺たちは間違っていない。だから、」

 顔を赤くして言う亘さん。

 怒りで赤いのか、恥じらいなのか。それすらも分からない。

「だから、悲しいこと言うな」

 目尻に水滴を貯めて声を荒げる亘さん。

「俺だって、お前が好きだ。結婚したいという意味で好きだ」

「……えっ!?」

 じわっと瞼の裏が熱くなる想いを抱いた。

 僕と亘さんの気持ちが一緒なら……。

 もしかして、僕たちは最高のパートナーになれるんじゃないか?

 そして幸せに包まれて、おじいちゃんになっても――。

「俺、お前と一緒にいると楽しい」

「僕だって」

「ははは。なんだ、そうなのか。今までずっと隠してきたのがバカみたいだな」

「僕にもダメージきているのだけど?」

「悪い悪い。でも本気でこんなこと……」

「うん。うん?」

 亘さんが周囲に首を巡らせていて、疑問に思った僕は振り返る。

 そこには大勢の観光客がいた。

 ああ。こんなところで告白したのか。

 瑞巌寺の、名月ちゃんの前。それも売店前なのだ。

 お守りを売っているおばちゃんが薦めてきた恋の成就お守りを買い、そそくさと後にする。

「語りたいこと、いっぱいあったのにな」

「うん。全部とんじゃった」

 僕と亘さんは瑞巌寺を出て、すぐ。

「遅いよ。何やっていたのさ」

 英美里がスマホを開いて次の目的地を示す。

「そろそろ、時間だよ」

「邦彦くん。ちゃんと言えた?」

「あ。はい」

「そう。残念ね……」

 シュリさんはそう漏らすと、松島観光最大の目玉に向けて歩き出す。

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