第48話 福浦橋

 縁を結ぶ出会い橋、福浦橋。

 海上を歩くように福浦島まで伸びた大きな赤い橋だ。

 その上を僕たちは歩いている。

 でも英美里と亘さんは写真を撮り少し遅れている。

「ねぇ。邦彦」

「なに、シュリさん」

「あなたって本当は女の子が好きでしょう?」

「え」

 胃が氷のようなもので重くなるのを感じ、冷めていくのを感じた。

「……本当。女の子が嫌いなのね」

 困ったように、疲れ果てたような顔をするシュリさん。

「私はキミのこと、けっこう気に入っているのだけどね。それこそ、亘みたいに」

「そう言われても」

 端から見て亘さんとシュリさんはすごく仲が良い。それこそカップルみたいに。

「分かっているわ。困らせるためにいったわけじゃない」

「何が言いたいんです?」

「キミ、私のこと誤解しているでしょう?」

「誤解?」

 何が言いたいのか分からずに首を傾げる。

「ええ。私と亘はそんな仲じゃないよ。キミの方が好きみたいだし」

「ん?」

「亘はあなたのことを好いているみたいって。このまま見ているのはもどかしいから言ったわ」

 え。亘さんが僕のことを好き……だって?

 どくん、どくんと心臓がステップを踏む感じがした。

 まるで喜ぶように。

 僕は彼のことが好きだ。

 でもそれはどんな好きなのだろう。

「ふふ。大丈夫よ。すぐに答えは出てくるわ」

 見透かされているようで顔を背ける。

「ええ。大丈夫」

「?」

 どこか遠い顔をしてそう呟くシュリさん。

「私はもう大丈夫。あなたたちが羨ましいな」

「それって……」

 悲しげに目を伏せるシュリさん。

 きっと亘さんへの思いがそうさせているのだろう。

「いいの。忘れて。私は次に進むんだから」

 まなじりの端から涙を流すシュリさん。

「あ~あ。やっと言葉にできた。間違いないわよ。亘はあなたを意識している。じゃなきゃ、出不精なあの人がこんなところまで来ないわ」

「え」

 かすれた声が出る。

 亘さんが出不精というのも驚きである。

 僕の前では活発で元気いっぱいなのに。

「知っているでしょう? 氷の王子様」

「あ。はい」

「あいつ。もっと暗かったんだから。恋ってすごいよね」

 恋。

 とくんと心臓が跳ねる。

 そっか。

 この気持ちは恋だったんだ。

 シュリさんと話していて、ようやく覚悟が決まった。

「いい顔になったね。さぁ、キミも答えなさい」

「はい。頑張ります」

 ペコリとお辞儀をして後ろにいる亘さんに向き直る。

「福浦橋、縁を結ぶ出会いの橋、か……」

 シュリさんが寂しそうに周囲を見渡す。

「出会いなんてないじゃない」

 ふふと上品に笑うシュリ。

「二人で何を話していたんだ? 邦彦」

「なんでもないよ」

 僕はそう言い、英美里と亘さんを福浦島まで連れていく。

 シュリさんは少し離れている。

 まあ、泣いているの見せたくないもんね。

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